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【閑話】まつりとひかりと須賀原と 中編

思い出話が続いています。前半は現在は引退している桐野まつりさん視点。後半は桐野ひかりさん視点です。




「呪いってどんな類なの?」


 電車の中で目の前に座った銀之助に聞いた。ひかりがビールを買おうとするのを押しとどめたので、私達はウーロン茶を飲んでいる。


「詳しくは聞かせてくれませんでした。百聞は一見にしかずと」

「予備知識くらい入れさせろってんだよ」

「ひかり、あまり失礼な態度はダメよ」

「はいはい、まつり様は優等生でいらっしゃる」


 ごんっと肘でひかりのわき腹を突いた。私は時折ひかりが私を優等生扱いする言葉が嫌いだった。だってそれは言い得て妙だったから。奔放なところのあるひかりに対して、私はやはりまじめな優等生という表現がぴったりなのだ。


 しかしそんな凸凹コンビだからこそ、最近特にうまく立ち回れていると思う。


 鹿児島のある建築現場から掘り起こされた遺骨群を発端に始まった、大規模な霊障は二人のコンビだからこそ祓うことが出来たと言っていいだろう。


「呪いって言うと藁人形かな?手っ取り早いし」

「手っ取り早いかしら。あれはあれで面倒よ」

「そうか、ママ友だもんね。丑の刻に何度も家を抜け出すってはあまり現実的じゃないか」

「あー」


 銀之助が変な顔をしている。何か秘め事がある時の顔だ。


「何よ、言いなさいよ、銀之助」


 早速ひかりも気付いて問い詰める。


「どうも日本の呪いじゃないみたいです。日本式?」

「外国の呪い?」

「ええ、そう言うことみたいで、で、対処法を探している間に状況が悪化して帰省することになってしまったと」

「外国ってどこよ?」

「さあ?そこまでは」


 中途半端な情報だ。駆け出しながら銀之助のコーディネーターとしての力量は確かだから、その須賀原という人が情報を出し惜しみしているか、あるいはそもそも判明していないのか。


「ま、どうせうちらは脳筋タイプの祓い方だし。特に気負わなくていいんじゃない?」

「的外れな祓い方は、相手が荒ぶるわよ、ひかり」

「へいへい」


 ひかりが少し不貞腐れる。大胆に祓おうとして失敗した経験を想起させてしまったのだろう。それでも最後には二人でしっかり祓えたのだから、いつまでもそんな反応をしないでほしい。

 とは言え、すっかり忘れてまた同じ失敗をしても困るから、これくらいでいいのかもしれない。


「でも、ひかりの言うことも当たってる。相手を見極めたら、それこそ私達でガツンと行くだけだから」

「呪いとなると反転することがあるって、分かってんのかねえ」


 ひかりが不貞腐れた表情を少し崩して言った。今回の女性を呪った誰かは、その呪いが崩された時には、それが自分に返ってくることを分かっているのかと言っているのだ。


「分かってないんじゃない?」

「おめでたい奴だ。裏返るかもしれないのに」


 特に呪詛返しをするわけでもないから、おそらく祓って終わりになると思うが、呪いの種類によってはいわゆる裏返ることになるだろう。


「まあ、福岡まで行くんだ。今日のうちに決着させて、夜は美味い物でも食べさせてもらいましょ」


 すっかり不貞腐れ顔がなくなって、まるで遠足前の子供みたいなわくわくした顔をしているひかりに思わず笑ってしまった。







「初めまして、須賀原です。ご足労頂きありがとうございます」


 寺の次男坊でサラリーマンという言葉でもっとおっさんを予想していたのに、若者だった。そう言えば年齢を聞いていなかった。まだ大学生と言っても通じそうな顔立ちだ。

 それでも私より年上。まつりと同じくらいか、ちょい上。そう私は須賀原という男を見立てた。


「桐野まつりです」

「桐野ひかり」

「私はコーディネーターの銀こと銀之助です」

「ああ、銀さん。苗字じゃなくて名前からだったんですね」


 須賀原が変なところに食いついた。その須賀原が用意したレンタカーに全員で乗り込んだ。向かう先は郊外の住宅地だ。


「海外の呪いだって聞いたんだけど?」


 私は車内で助手席に座る須賀原に聞いた。わざわざ須賀原が振り向いて答える。


「ええ、どうもそんな感じなんです。はっきりと間違いないと言えるかと問われると自信がありませんが」

「ふーん、まあ、それは信じるとして、強さは?」

「うちはお経なので、ぶっちゃけ祓う力が弱くて。あ、弱いと言っても普通の霊なら十分なんですが。呪いに対応する経験も少なくて」

「私達だってほとんどないよ」

「ですが、祓う力は九州で随一だと伺っています」


 それは間違いない。思わず口角が上がりそうになるのを抑えた。


「全国の事情に詳しいんですか?」

「いえ、実はある方に最初お願いしたんですが、都合がつかなくて。その方に紹介していただきました」


 上がりそうだった口角がすっと下がる。何?うちらは代理?


「どこの誰?」


 出した言葉に思い切り棘があって、自分でも驚いた。わき腹をまつりが小突くが無視する。分かってるよ。


「えっと、まあそれは守秘義務ってことで」


 私の言葉に込められた棘を敏感に察して、須賀原が言葉を濁した。


「ま、いいわ。それで百聞は一見にしかずと言われたけど」

「ええ、それはもう言葉通りで」


 ふーん。じゃあ見てみようじゃないの。少々不機嫌になった気持ちを落ち着けるように、私は脇に抱えた斬魔刀「白虎」の入った袋を撫でた。


 頼むよ、相棒。





紹介したのはご察しの通り、酒々井さんです。

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