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【閑話】まつりとひかりと須賀原と 前編

九州の桐野ひかりさん視点です。前半は現在。後半は思い出話です。




「イギリスに招待された?」

「ええ、まあ、社交辞令だと思いますけど」


 未散が東京まで出て行って、秋葉原だなんだとあのイギリス人コンビを案内した、そのお礼だと言う。


 簡単に言うな。


 鹿児島から東京に出るのとは訳が違うのだ。


 お嬢様の発想ってやつだろうか。


 パンが無いならお菓子を食べればいいじゃないみたいな。


 それはお嬢様じゃないか?


「あいつらは日本語多少話せて、未散も多少は英語が話せるから何とかなってたけど、イギリスに乗り込んだら、周り全部英語だぞ」

「分かってます。報告しただけです」


 嘘つけ。少しがっかりしたろ?


「ひかりさんは海外の経験は?」

「ないよ。日本が一番だし」

「それを言ったらおしまいじゃないですか?」

「そ、おしまい。そんでもって我が家が一番」


 東京の土産だと言うせんべいを齧りながら答えた。なんだ、これ。どこにでも売ってるだろ、こんなせんべい。


「どこでも売ってるだろ、こんなのって思ってませんか?」

「思ってるよ」

「歴史があるんですからね」

「だいたい草加って埼玉だろ?東京土産じゃないじゃん」

「え?そうなんですか?」


 脱力だ。まあ、別にまずいわけじゃない。美味しくいただきましょう。どこにでも売ってそうだけどな。


「そう言えば、未散。あんた「伏魔両断」出来たじゃない?」

「無茶苦茶ですよ。型は知ってるだろってやらせるんだから」

「出来ると思ってやらせたんだが?」

「そんな褒めたような言葉を吐いてもダメです」


 未散がむくれる。本気なんだがなあ。


「中学生で「伏魔両断」まで出来たという事実を考えなって」

「無我夢中でやったのが、たまたまうまくいっただけですからね」

「木刀でだぞ」

「繰り返しますが、無茶ぶりが過ぎます」


 うーん、どうも私は人を褒めることが苦手なようだ。全然伝わらないや。


「私以上だってば」

「九州の女傑が何を言ってるんですか」


 こらこら、食べかけのせんべいを突き出すんじゃないよ。


「こっちも話が変わりますけど」

「あん?」

「須賀原さんって、あの武田さんとお付き合いしているんでしょうか?」

「なんで、未散がそんなことを心配してんだよ」

「えー」


 なんだよその目は。違うぞ。私と須賀原はそんな仲ではないからな。


「須賀原はね。戦友みたいなもんなのさ」


 特別な感情をもったこともある。それは誤魔化しようがない自分の思いだ。しかし私は須賀原の中に、亡くなった彼女が大きな存在として残っていると知って、一線を越えられなかった。

 まあ、そもそも自分から告白何て柄じゃない。


 そしていつしか須賀原は私にとっての戦友のような存在になった。これも言葉通りなのだ。


 あの武田って女も須賀原との距離が縮めば、例の彼女の話を聞かされるのだろう。そして、恐らく私と同じような思いをもつに違いない。その後、どうするかはあの女次第だが。


「以前にも一緒に行動したことがあるんですよね?その話は聞かせてくれないんですか?」

「まあ、そのうちにな」

「ひかりさんのそのうちってなかなか来ないからなあ」


 何を言う。いや、未散の言う通りか?そもぞも自分のことを話すのが好きではないのだ。


「一番最初はまだまつりが現役の頃さ」

「え?」

「なんだよ、聞きたいんじゃないのか?」

「聞きます。お茶入れてきます」


 そんな長話に、なるか。







「京都の坊主?」

「違いますって。サラリーマンですよ。寺の次男坊」


 駆け出しコーディネーターの銀之助があきれたように言った。


「長男が跡を継いだんであぶれたのか?」

「いや、どうも違うみたいですよ。才能は彼の方があったと聞いてます」

「いろいろ複雑ってわけね」

「組む相手のことよりも対象の話を聞かせてよ、銀之助」

「あ、そうですね」


 まつりに言われて銀之助が手帳を手繰った。いつも打ち合わせに使う店で、今日もまつりはパンケーキを注文していた。よくもまあ毎回毎回同じものを食べられるもんだ。

 そう言う私は今日もナポリタンだが。


「京都在住の主婦です。福岡出身で、長崎出身の旦那と結婚して転勤で京都へ。どうもその京都でママ友同士のトラブルに巻き込まれて、えーっと須賀原さんによれば呪われたと」

「呪われた?」

「ママ友に?」

「はあ、そうらしいです」


 ママ友に呪われるとか、初めて聞いた。そもそも呪いなんてそう簡単に出来る物じゃない。


「須賀原さんのところに相談に行ったのですが、体調が悪くなり実家に、福岡の実家に帰省ということです」

「ふーん。須賀原ってのが最後まで面倒見ないの?」

「いえ、彼も福岡入りします」

「じゃ、なんで私達に?」

「そりゃ桐野家は九州じゃ筆頭ですから」


 確かにまつりと私のコンビはこのところ快進撃だ。付き人と言う立場ではあるが、ほとんど二人で祓いまくっている。一人では荷が重い案件も、二人でなら祓える。そんな自信さえもっている。


「須賀原家は実はその寺に結構やばいのを封印してるとの噂です。まあ、公然の噂なんですけど」

「代々そのやばいのを封印する役目を須賀原家が担ってきたってわけか。となると祓いごとはあまり得意じゃないのか」

「寺ってことはお経でしょ?まあ弱っちいのは祓えるけど、強いのになるとちょっとパンチ不足よね」


 まあやり方も大事だが、もっと大事なのは使い手の力量だ。寺の次男坊でサラリーマン。たいした力量じゃないのだろう。


「ま、というわけなんで、それ食べ終わったら準備して駅に来てください。話を聞くと結構やばげです。万端で」

「いつだって万端だって」

「期待しています」


 そう言って銀之助は置かれた会計の紙を持って立ち上がった。


「ふぁーい」


 私はナポリタンを、まつりはパンケーキを口に入れたまま手を振った。





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