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物憑き 【なニヲシテイる?】

桐野ひかりさん視点です。




 上梨君が電話を終えて戻って来た。会話の最中の表情が険しかったから、朗報じゃなさそうだ。私は食事を切り上げて、デザートとしてフルーツを急いで取りに行った。


 戻って来ると、上梨君が待ってましたとばかりに電話の内容を話始めた。


「禍家の周りに配置したお札が全滅していたそうです。瘴気が家から噴き出していて、隣の家に到達し始めているとのことです」

「あらま」

「昨日中途半端に祓ったことで、荒ぶったのかな?」

「かもね。何にせよ、急いだほうがいい?」

「はい、タクシー代を出すからすぐに向かってほしいと、須賀原さんが」

「We must go to that house as soon as possible」

「Yes, we can」


 私の英語に上梨と酒々井が驚いた顔をする。これくらいは話せるよ、私だって。リスニングは苦手だし、細かいニュアンスはボキャブラリーが足りないので言葉に詰まる。簡単な会話だけだから、期待しないように。


「ほれ、未散。もう一回分だけアイス待ってやるから。取って来な」

「は、はいっ」


 未散が嬉しそうにアイスを追加で取りに行く。


「あ、私もー」


 酒々井がそう言って続いた。


「上梨は?」

「あ、俺は、もうこのコーヒーで」


 まあ、そのコーヒーの前に朝からたらふく食ってたもんな。私も人のことを言えないが。




「ホテルの人にタクシーを呼んでもらった。10分後にロビーに集合」

「はい」


 部屋に戻って、身支度を整える。クライアントに気を遣わないでいいので、メイクもほとんどなしだ。楽でいい。


 イギリス人の二人も時間通りに来てよかった。


 タクシー二台に分乗して、現地へと向かった。車を停めるわけじゃないので、例の家の近くまでタクシーを走らせた。


「Oh」


 タクシーから降りたフィリップが思わず呻いたほど、禍家は勢いを増していた。

 しかし瘴気は広がって隣の家の壁まで届くかと思いきや、ふっと勢いを失って戻る。


 おい、まさか。


 急いで家の前に向かうと、武田という女がおろおろとしながら立っていて、私達の姿を見つけてあきらかにほっとした表情を見せた。


 おいおい、まさかだよな。


「お、お願いします。須賀原さんが、一人で中にっ」

「あんの馬鹿っ」


 走って来た未散から「白虎」を受け取って持つ。上梨は酒々井に「開眼」してもらっている。


「酒々井。昨日の「浄間じょうけん」やってくれ」

「あ、はい。でも」

「短時間でいい。須賀原の馬鹿が中で一人で支えてやがる」

「分かりました」


 酒々井が石を掴んでそこに気を込める。


「浄間」


 まだまだ。


「二間」


 もっと。


「三間」


 よし、行こう。


「たぶん猶予はない。一気に祓う。ゾフィー、名前を聞くなら、急ぎなよ」


 ゾフィーの返事を待たずに敷地に入る。酒々井の「浄間」のおかげで、瘴気はまとわりついて来ない。

 全員が守られる範囲でやってもらっているので、時間の余裕はないのだ。


 突撃だ。


 玄関を開けるなり、須賀原のお経の声が聞こえて来た。廊下を走って居間に入る。


 「ダイアルデバー」の前に正座して一心不乱に須賀原がお経を唱えている。汗が滝のように流れている。その須賀原が「浄間」の範囲に入るやいなや、ガクリと前に倒れ込んだ。


「間に合いましたか」


 振り向いてふっと笑う須賀原に、思わず胸が熱くなる。


「よくがんばったな、須賀原。褒めてやる」

「叱られなくてよかったです」

「お前がいなきゃ、隣近所が呪われまくってる」

「はは、よかった」


 ゾフィーがアセイミーナイフを手に前に出る。フィリップが袋を渡し、ゾフィーはその中身を床に撒いた。


「帰れと言ったノニ」


 人形が話す。もう驚きはしない。台座を注視するが特におかしな様子はない。本当にあれが本命なのだろうか。


「バレてるんだよ、「ダイヤルでバー」。お前の本体は台座だろ?」


 思い切り日本語で言ってしまったが、日本語で通じるのだろうか?


「何ノことやラ」


 うるせえ、じじい。お前じゃない。本体を出せ。


 床に撒かれたのは塩のようだ。そこへゾフィーがアセイミーナイフで模様を描いて行く。これが魔法円か。なるほど、日本で言うところの魔法陣だな。

 フィリップが携帯用の香炉を出して、それに火をつける。部屋にお香の香りが立ち込めて行く。


「準備出来ました」

「酒々井、まだ行ける?」

「急いでください」

「だとよ」


 ゾフィーが頷いて何かを呟く。すぐに描かれた魔法円が光を帯びる。

 光の粒子のようなものがふわっと湧き出ては魔法円の中心に立つゾフィーに入り込んでいく。


 これは私達とは決定的にやり方が違う。気を練るとかそう言うことじゃないのだ。多少はしているかもしれないが。要するに大地からパワーを受けていると言う感じか?

 いや、あるいは気を練るためのセレモニーである可能性もあるか。


「What is your name?」

「ナンだ。こノ小娘は」


 上に乗った人形に憑いている奴が邪魔だ。


「ゾフィー、人形の方を先に祓う。武田、訳せ」

「は、はいっ」


 武田が訳してゾフィーが頷いた。


「露払いだ。未散、仕留めな」

「はいっ」


 未散が「秋月」を手に前に出る。斬魔刀を使わせたいなあ、そろそろ。そう思うほど、構えが様になっている。


「こんナ、小娘に」

「うるさい、黙って祓われろ」


 私の言葉を合図にしたように、未散が「秋月」を振った。


「魔を祓う一刀是成、光明の太刀」


 「秋月」が光を帯びる。


「いええっ」 


 光跡を描いで「秋月」が見事な弧を描く。


「今だよ」

「What is your name?」


 台座の上に立って乗っていた人形がゴロリと落ちた。


「Who are you? Little British girl」

「I am Zoffy. What is your name?」

「I am called Dialdever」

「I want to Know real your name」

「I am Dialdever」


 どこから声が聞こえているのだ?台座?


 その台座の上にゆらりと瘴気が形を作る。人形の形。


 こいつが本体だな。英語で会話しているし。


 ちらっと酒々井を見る。まだ行けるか?急げ、ゾフィー。私の知視線に気づいて頷いたゾフィーが頷いた。


「ダイアルデバーでやってみる。見ていて」


 ダメだったと言う「ダイアルデバー」と言う名でトライすると言うことだ。ゾフィーが引き締まった顔で台座に向き合う。


「In the name of Mother Goddess」

「Stop it」

「Leave in the name of the goddess Diana」

「Stop it」

「In the name of the goddess Astarte, leave」

「Quit, idiot」


 瘴気の人形がゾフィーに手を伸ばす。しかし魔法円の中には入れない様子だ。いいぞ、ゾフィー。


「Leave in the name of Lilith」

「damn it」

「Leave in the name of the goddess Brigitte」


 吐息のような音を立てて瘴気の人形がのたうつ動きを見せる。行けるか?


「This is our place and we are stronger than you」


 アセイミーナイフを突きつけるゾフィーの身体が光輝く。


「Leave all evil spirits!!  Immediately leave this house!」


 瘴気の人形が形を留められなくなって、瘴気の渦に姿を変える。


「Your name is Dialdever」


 瘴気の渦が一瞬で消えた。


 祓ったか?いや、これは?


「ゾフィー、下がれっ」


 私が伸ばした手よりも速くフィリップがゾフィーを抱えて下がった。やっぱりダメだったのだ、「ダイアルデバー」と言う名では祓えないのだ。



どしゃ



 ゾフィーが撒いた塩が空中に浮き上がった。


「No」


 ゾフィーの表情を見ても失敗は明らかだ。


 現に部屋には誰かのおかしくてたまらないのを我慢している含み笑いが「くっくっく」と聞こえてきている。


 再び台座の上に瘴気が人形の形を作る。


「ヒャハハハハ」


 嘲笑う声。笑い声は万国共通か。


「That is why I told you to stop」


 ざーっと音を立てて塩が滑り、薄っすらと残っていた魔法円が全て消える。


「ひかりさんっ」


 酒々井が悲痛な声で呼びかけて来る。「浄間」も限界か。


「酒々井はまだだ。私がやるっ」


 愛刀である斬魔刀「白虎」を抜刀する。


 舐めんな、ガイジン。


「宿れ剣聖。斬魔一刀っ」


 これでも笑っていられるか。


「いやあああああっ」


 振った刀身から光の刃が台座に伸びる。



ばん



 大音響がして耳鳴りがする。



 手応えはあった。どうだ?





果たして…。続くっ。

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