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物憑き 【ブリティッシュライオンクオリティ】

前半酒々井つゆり視点。後半上梨君視点です。




「上梨、起きて」

「うー」


 さすがに昨晩の上梨は張り切り過ぎだ。転生勇者のチートじゃないんだから、ものには限度がある。


「ほら、また遅刻したらひかりさんに何言われるか分からないよ」

「起きるよ、起きるって」


 ぐいぐいとほっぺを引っ張って変形させて笑う私に上梨がとうとう観念した。


「張り切りすぎなんだってば」

「いやあ、つゆり様が可愛くて」

「な」


 思わぬ逆襲に頬が赤く染まるのが分かる。


「もっとって、しがみついて来るもんだから」

「あー、こらー」


 ぽかっと上梨を殴ろうとした手が空中であっさりと掴まれて、そのまま抱き寄せられる。当然のように重なる唇。


「おはよ」

「うー」


 いつの間にいつもの余裕の上梨に戻っている。珍しく寝起きが悪いと思っていたのに、いざ起きればあっさりといつもの調子に戻ってしまった。


「さ、顔洗って。行くよ」

「はいはい。お姫様のキスで、ナイトはしゃきっとしております」

「寝ぼすけナイトじゃ頼りにならないぞ」


 精一杯の憎まれ口で逆襲したつもりだが、上梨は笑顔でバスルームに消えて行った。


 まあ、たしかに途中でしがみついておねだりはしてしまったが、何もそれを言うことはないじゃない。思い出すとまた赤面してしまうので、その光景を頭から追い払った。


 今日は何としても「ダイアルデバー」を祓わなければ。実は教授に目をつけられていて、単位が危ない講義があるのだ。おばあちゃんはあんなことを言っていたけれど、あまりほいほい講義をさぼるのは、よろしくない。


「お待たせ」


 早い。上梨の支度の早さは異次元だと思う。それとも男子ってみんなこんなに早いのだろうか。


「ん?」

「行く」


 朝食のバイキング会場へと、私達は向かった。昨晩は激しかったけれど、体力も気力も充実だ。朝ごはんもしっかり食べて、万全の体調にするぞ。







「上梨さんって、いつも卵かけご飯なんですか?」


 霧島未散ちゃんに、そう聞かれた。じっと見てると思ったら、そんなことが聞きたかったのか。


「いつもってわけじゃないけど、なぜかバイキング形式だと食べちゃうんだよね」

「せっかくのバイキングだから、もっと単価の高い物を頼めばって言いたいわけ?」


 未散ちゃんの言葉に、ひかりさんが突っ込んだ。ぶんぶんと首を振る未散ちゃん。


「いえっ。そんなことは。好きな物を食べるのがバイキングで、元を取ることが目的じゃありませんし」

「だよねえ。未散もご飯もほどほどにアイスばっか食べるもんねえ」


 にやにや笑うひかりさんだが、彼女もカレーライスをちょびっと食べている。俺も取り敢えずカレーライスは味見で少し食べるのが定番だ。無論、卵かけご飯の後に。


「それが、TKGって、食べ物ね」


 ゾフィーちゃんも俺の卵かけご飯に興味津々だ。


「生、卵、食べる習慣がありません。ドロテア家では。イギリスでは」

「British Lion Quality」

「そうだけど、食べない、でしょ」


 フィリップさんが口を挟むがゾフィーさんはさらに言葉を続けた。意味が分からない。ブリティッシュライオンクオリティ?英国のライオンの品質?


「サルモネラフリーってことよ」

「サルモネラフリー?」

「そ。日本で生卵を食べられるのは、養鶏がサルモネラ菌のワクチンだか何だかと全部投与されているからなのよ」

「へえ。食中毒の危険が海外ではあるってわけですか?」

「そう言うこと。日本だと半熟のオムレツを見て、「美味しそう」って思うけれど、海外だと「危険だ」って思うらしいわよ」


 ゾフィーちゃん達はこの会話を聞き取れているのだろうか?


「えっと、ウィーキャンイートエッグ。生?生って?」

「ロウエッグじゃなかった?」


 つゆりが果敢に挑戦するので、助け舟を出す。


「ウィーキャンイートロウエッグ。インジャパン」

「安全?」

「そう、安全。セーフティーエッグね」

「I see. 食べて、みる」

「マジで?」


 フィリップさんが日本語で「マジで?」なんて言うもんだから、日本勢爆笑。アニメから学んだということで、くだけた表現の方が分かるのだろうけれど、まさかのフィリップさんからだ。


「マジです。マジです。ガチでリアルに」


 つゆりがまた変な日本語を仕込んでいる


「ガチ、で、リアル?」

「イエース。シリアスアンドリアル」

「つゆり、あまり変な日本語を教えるなよ」

「あ、ごめん。すいません、今の無しで」


 それこそ英語で言えよ、もう。


「ところで、それ、刀?」


 ゾフィーちゃんが、未散ちゃんが机に立てかけている袋を指さして聞いた。


「はい。そうです」

「なぜ、食事の場所に?」


 未散ちゃんがひかりさんを見る。ひかりさんは眉を上げただけで、食事を続けている。


身刀一体しんとういったいなんです」

「シントウイッタイ?」

「ボディアンドソード、エブリタイムトゥギャザー」


 つゆりの通訳で通じるところ、やはりコミュニケーションは心が大事だな。


「Everytime?」

「ええ、そうですね」

「お風呂は?」

「さすがに浴室には入れません」

「え?じゃあ寝るときは?」

「ひかりさんの「白虎」は真剣なので、枕元に置いておきますが、私の「秋月」は木刀なので一緒に寝ています」


 うわあ。未散ちゃんが木刀を抱いてすやすや寝ているシーンを想像してしまった。

 フィリップさんと目が合うと、なぜか分かっているみたいな頷き方をされてしまった。いや、たぶん、誤解ですよ、フィリップさん。


「ねえ、じゃあ上梨も杖と一緒に寝てみる?」

「つゆりが入る余地が無くなってもいいのか?」

「…いやだ」


 一体何を囁いてきたのかと思ったら。全くもう。


「ゾフィーのナイフは魔法円を描くのに使う。私達の刀はそこに力を乗せて、祓う武器だ。一緒に考えられちゃ困るよ」


 それ、絶対理解できてませんよ。


 まあ、ひかりさんも分かってもらうつもりは毛頭ない様子で食べ続けているけれど。


「道具って人に馴染みますからね」


 俺の言葉にちらっと視線を送って、ひかりさんがにやっと笑った。


 このタイミングでスマホが鳴った。俺は席を中座して、壁の方へ歩いて電話を取った。相手は須賀原さんだ。





ずいぶんこのシリーズも長くなってしまいました。あとしばらくお付き合いください。

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