表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/139

物憑き 【ダイアルデバーじゃない】




「あ、あれだ」


 須賀原さんがコンビニに入って来た車を見て言った。


 俺達は車から出て滑り込んできた車の横に立った。


「あら、おそろいで。終わった?」


 真っ先に車から出てきたのは桐野ひかりさんだ。


「いえ、ダメでした」


 桐野未散さんが答える。


 続けて車から柔らかい物腰の外国人男性が出てきた。中から降りて来る女性をエスコートする。

 未散さんと同じくらいの年齢の外国人少女が降りて来た。


「Nice to meet you, my name is Zoffy.」


 思い切り英語だった。


「ナイストゥミーチュートゥー。マイネームイズ、シスイ」

「日本語は少しだけ」

「あ、よかった。私は上梨です」

「須賀原です」


 うわあ、なんか私だけ恥をかいた感じがすごいんですけど。日本語が少し話せるなら、最初から話してほしい。


「私は、フィリップと申します」


 さらに外国のおじさんが自己紹介した。運転席からは日本人女性が降りて来た。この人が武田さんか。


「あの、初めまして。武田です」


 須賀原さんによれば、彼女も「見える」らしい。


「で、首尾は?」

「一度は酒々井さんの石で祓ったと思ったのですが、すぐに復活しました。しかも不可解なことに、中身が入れ替わったような」

「入れ替わった?」


 武田さんが英語を話せるようで、会話を通訳して聞かせている。


「最初は男性の声だったのが、祓った後には少女の声に変わりました」

「そんなことある?いくつもの霊が憑りついていたとか?」

「いや、最初に接触した感じではそんな様子はなかったですねえ」


 武田さんが通訳すると少女が指を一本立てた。


「Are you saying that the doll spoke Japanese?」

「人形が日本語を話したのか?と」

「イエス」

「That's not possible.」

「ありえないって言ってますけど」

「だが事実だ」

「The doll should speak English.」


 そう言われても事実だから。少女が少しいら立っているのが分かる。私達のことが信用できないのだろうか。


「実際に見るのが早い。今から行こうじゃないの」


 ひかりさんが場を制して言う。


「はいはい。参りましょう。少々疲れていますがね」


 須賀原さんが数珠を手に持って答えた。


「あなたたちは?」

「もう一番強力な石は使えないけど、行きます」


 私の言葉に上梨も頷いた。未散ちゃんも木刀の入った袋を持って頷いている。


 二人の外国人は禍家を見ても怯まなかった。経験は十分のようだ。しかし顔に緊張感はみなぎっている。


「トイレにいる奥さんは無視してくれ」


 須賀原さんの言葉を武田さんが訳して、三人が頷いた。その武田さんはさすがに禍家を見たのは初めてのようで、思い切り顔が引きつっている。


「未散。あなた彼女の護衛に就きなさい」

「はい、分かりました」


 未散さんが武田さんの横に立った。


 須賀原さんがお経を唱え始める。


 瘴気が道を開ける。先頭はひかりさんだ。袋から刀を出して手に下げている。


 ひかりさんはずんずんと進んで玄関を開けた。全く躊躇しないところがひかりさんらしいところだ。


 廊下を進み、問題の部屋のドアもあっさりと開ける。


「あれか。へえ」


 ひかりさんが抜刀する。あの刀は「白虎」と言うのだと、未散ちゃんに教わっている。

 全員が部屋に入る。いつの間にかゾフィーちゃんも手に短刀を持っている。装飾がたくさんついた短刀はあまり実用的に見えない。あれは儀式用なのだろうか。


「Wait a second.」


 ゾフィーちゃんがちょっと待てと言う。進み出ようとしていたひかりさんが訝し気に振り返った。


「That doll is not Dialdever.」

「何だって?」


 何だろう?「ダイアルデバー」って?


「イズダイアルデバーザネームオブザットドール?」

「That's right. But that doll is not Dialdever」


 意味が通じない。私の英語がダメなのだろうか?

 あれが「ダイアルデバー」だけど「ダイアルデバー」じゃないってどういうことよ?


「That doll is different. That is another antique doll.」

「何でもいい。物憑きは物憑きだ。祓うよ」


 ひかりさんが気を練り始めるとすぐに斬魔刀「白虎」が光を帯び始める。


「無駄なことをしないで」


 人形が少女の声でしゃべった。


「It is strange to speak in Japanese. The doll should speak English.」

「黙ってな、ゾフィー」


 ひかりさんが上段に「白虎」を構えた。


「魔を祓う一刀是成、光明の太刀」


 一歩で間合いを詰めてひかりさんが「白虎」を振った。


「いええいっ」


 「白虎」が光跡を残しながら人形に迫った。


 その場の瘴気が吹き飛んだ。


「Wow. Amazing.」

「So wonderful」


 ゾフィーちゃんとフィリップさんが感嘆の声を上げた。それはそうだろう。新幹線の中で私がやったことの比ではない。

 武田さんは口をあんぐりと開けている。


「そこからです」


 上梨が杖を構えたまま言う。


「What?」

「別のが顔を出すんです」

「Another face? 別の顔が、出る?」


 ひかりさんもゾフィーちゃんも上梨の言葉に戸惑っている。それはそうだろう。特にひかりさんは彼女の一撃で吹き飛ばした手応えがあったはずだから。

 私もそうだった。


 そしてまた人形から瘴気が噴き出し始めた。


「な?」


 再びひかりさんが「白虎」を構えなおした。


「そろそろしんどいんだが」


 須賀原さんがまたすごい汗をかいている。心なしか少しやつれたようにすら見える。


「根性無し。もう少し気張りなさいよ」


 再びひかりさんの「白虎」が光を帯び始めた。


「つゆり」

「うん」


 私は上梨に言われて、石を手に取った。


「長い時間は無理ですけど」

「頼んだ、つゆりちゃん」


 須賀原さんが膝に手をついて息を整えている。武田さんが心配そうに寄り添った。好きなのかな?


 私はそんな思いを振り払って手の中の石をぎゅっと握った。


浄間じょうけん


 まずは自分の周囲に浄化する空間を作る。


二間にけん


 その範囲を二倍にする。


 ちらりと上梨を見る。上梨が杖を片手に持ち替えて、片手だけで私の腕を掴んだ。上梨の気が流れ込んで来るのを感じる。


三間さんけん


 これで半径5m程度。部屋一つ分にはなるはずだ。


「無駄だ」


 今度の人形はおじいさんの声だ。ゾフィーちゃんがぎょっとする。


 人形から滲み出る瘴気は、私の「浄間」で出て来るそばから消えていく。しかしこれだけの広さにすると長い時間は無理だ。


「分かったろ。一度退却しよう」


 ゾフィーちゃんが何か呟くのに、フィリップさんが諭すように語りかけて、ゾフィーちゃんも頷いた。


 そのまま部屋を出る。


「二度と来るな」


 人形の捨て台詞を受けながら玄関を出た。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ