オヨバズ 完結編 【了】
映画のエンドロールの後のおまけみたいな感じで読んでください。
なんとしても握りつぶさないといけない。
番組プロデューサーとしては、番組スタッフがロケハン中に死亡なんてことが世の中に広められては死活問題だ。スポンサーからクレームが来るに決まっている。
最初に行方不明者が出た時点でストップをかけておけばよかった。もうこうなっては後の祭りだが。
「ストックは十分なんだよな」
「あ、はい」
俺は編集作業を請け負っているスタッフに確認した。
「問題はスペシャル回の分か」
「二本立てって手もありますけど」
そうか。その手もあったか。しかし残っている素材はスペシャル版としては地味であることは否めない。
「こいつのパスワードってこれ?」
俺は今回の件で死亡した一人のPCのディスプレイに貼ってある記号の書いた付箋を手に取った。
「ええ。セキュリティ的に問題だから止めてくれって言ってたんですけどね」
「まあ、こうなったら、その甘さに感謝だな」
そう言って俺は彼のPCを起動してパスワードを打ち込んだ。
彼のPCのデータの中に、ロケハンの結果有力候補としてストックしてあるものがあるかもしれない。
いくつかのそれらしいフォルダを探すが、俺の望むデータはなかった。
「なあ」
話しかけたつもりが誰もいない。いつの間にかオフィスには俺だけになっていた。
そう言えば挨拶をされたような気もする。データ探しに夢中になっていて空返事をしたような。
急にがらんとしたオフィスのいくつかの席は、もうその椅子に座るべき主がこの世にいないのだ。
そう思うと、死んだ彼のPCの中のデータを漁るこの行為が、何だかとてもいけないことのような気がしてきた。
「ちっ」
思わず舌打ちしてPCを閉じようとして気付いた。ポップアップして何かメールのようなものが届いているのだ。
一瞬の躊躇。
しかし俺は番組を優先した。死んだ彼のことを気遣ってる余裕はないのだ。
メールの日付は、彼らが死んだとされる日である。
胸の鼓動が高まるのを感じた。
これはひょっとすると、ひょっとするかもしれない。
わざわざメールに添付して動画を送るということは、彼が何らかの手応えをロケハンで感じたからに違いない。
添付ファイルを選択する自分の指が、小さく震えていることに気付いた。しっかりカーソルを操ることが出来ない。
「ふう」
俺は顔を上げて誰もいないオフィスを見渡して深呼吸した。
何をびびっているのだ。
俺は添付ファイルの動画をクリックした。
山の中だろうか。
森に囲まれた山道を歩いている様子が撮影されていた。
特になんの変哲もない動画に、俺は落胆していた。こんな歩いている途中の動画を送って来てなんのつもりだ。
やたらとカメラが背後を振り返る。
見にくいことこの上ない。何がしたいんだ。俺は動画ソフトの音声がミュートになっていることに気付いた。ボリュームを上げる。
『な、なんだってんだ。なんだってんだ。なんだってんだ』
撮影者の荒い息遣いが聞こえて来る。
『くそっ』
つまずいたのか、画面が揺れて悪態が聞こえる。
そして画面の動きが止まった。山道をただ映すだけ。
『はあっ。はあっ。くそおっ』
画面がゆっくりとパンして、徐々に画面が背後に動く。
少年が立っていた。
色が欠落しているような、灰色の少年。
粗末な服は縄で結ばれた布切れのようだ。
見開かれているように見える目は黒く、まるで穴。
ごくり、と聞こえたのは、撮影者のものか、それとも俺か。
少年が一歩踏み出す。
俺の震える指は、動画の停止ボタンを押せなかった。
少年が首を少し傾げた。
『オヨバズ?』
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