オヨバズ 完結編 【堂神】
堂神家、付き人の堂神果凛さん視点です。
「主様。お粥をもらってきました」
「すまないが、やっぱり食べられそうにない。寝るよ」
「はい、分かりました」
疲れた顔の主様が布団に再び横になった。分かっていたことだけど、今更ながらに呪詛の恐ろしさを感じる。
私は手にしたお粥をテーブルに置いた。
「どう思う?」
目の前に座っているのは、堂神次郎。主様の長男であり、私の兄だ。
「どう思うって?」
声を潜めて私は返事をした。主様に聞こえるはずはないと分かっていても、どうしてもそうなってしまうのだ。
「次かもしれないぜ」
「うん」
主様の限界が近いのは明らかだ。そうなれば、次が必要になる。それは次郎か私なのだ。
そのために私たちは主様に同行しているのだ。
覚悟なんてとっくに出来ていると思ったのに。
ぎゅっと手を握っていないと今にも震えてしまいそうになる。
「まあ、順番からすれば俺だよ」
次郎が薄く笑って言った。
「でも女性の方がって」
私の言葉に次郎の表情が歪む。器としてどちらがふさわしいのかは分からない。分からないからこそ、二人とも同行しているのだ。
「果凛、いざとなれば俺だけ残ったっていいんだ」
「だめだよ。堂神家の力が弱くなっちゃうかもしれないし」
「堂神家ね。ふん」
止めてよ、そんな言い方。私だって嫌だよ、本音を言えば。
「あの上梨って人みたいな力があればいいのにね」
思わずつぶやいてしまった。それほど彼の力は衝撃的だった。彼はまだ、彼女に力を注ぐことでしか力を使っていないようだ。彼が「祓い方」を覚えたらとんでもないことになるだろう。「見えない」という大きな欠点はあるにしても。
「まあな、彼みたいな力があれば、もしかしたら呪いからも逃れられるかもって思っちゃうな」
「うん」
「でもない物ねだりをしても仕方ない。堂神家の人間らしく振舞うだけさ」
「うん、そうだね」
すでに私も犬神だけじゃなく、様々な呪詛に手を出している身だ。今更潔白を気取るつもりは毛頭ない。
主様とは比べ物にならないが、次郎も私もとっくに呪われた一族の一員なのだ。
閑話なので、例によってもう一つ投稿します。