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オヨバズ 完結編 【加茂】

加茂さんを師匠と慕う元オカルトハンター豪君視点です。




「師匠、もらって来ました」

「ああ、ありがとう」


 俺は鹿嶋さんからもらった「神水」が半分ほど入ったペットボトルを師匠に渡した。師匠はその水を硯に注いで墨をすり始めた。

 カッコいい。ピンと伸びた背筋と、硯に向ける視線。憧れまくりだ。


「あの、師匠」

「何だい、豪君」

「今日はありがとうございました。感動しましたっ」

「感動?」

「あ、俺、初めて「見えた」んで」

「ああ、あれは酒々井さんにお礼を言うべきでしょう」


 師匠は俺の熱量を受けてもクールなままだった。


「いや、でも彼氏がいるから、あんまり」

「へえ、そんな気遣いが出来るとは意外ですね」

「またそんなあ」


 師匠とは俺がてっきり偽霊能力者だと思って動画に連れ出して以来の縁だった。


 俺は動画で撮影した公園にいたじいさんに呪われた。


 いや、師匠によると呪われたのとはちょっと違うらしい。そもそも公園にいたじいさんは悪い霊ではなかったので、俗に言う霊障と呼ばれる状態になった。


 当然病院に行っても原因不明。結局俺は加茂さんを頼った。あっさりと俺に憑いていたじいさんを祓ってくれた加茂さんを、俺は師匠とすることに勝手に決めた。


 オカルト的なことを否定する動画を配信し続けていた俺だったが、今にして思えば心のどこかでは本当にそういうことがあることを、どこかで誰かに証明してほしいと願っていたのかもしれない。


「しかし、最初に目にしたのが「オヨバズ」とは、豪君も運があるんだか、ないんだか」

「そりゃ、あるんですよ、師匠。師匠に出会えたことも、俺がもってるってことですから」

「まあ、私にとっては少々迷惑なことですがね」

「またまたー。荷物持ちとして役に立ってますでしょ」


 師匠はこけしに何かを墨で書いてはお札を貼っている。


「そうですね。明日もお願いしますよ」

「え?これ全部持って行くんですか?」

「そうですよ。でも少し足りない気もします」


 それほど大きくないこけしだが、材質は木だから、数が揃えばそれなりの重さになる。


「豪君、ホテルの支配人にもう少し小さいこけしでいいから集められないか聞いて来てください」

「も、もちろんお任せください」


 自分の笑顔が引きつっているのが分かる。


 無理やり弟子入りして分かったことだが、加茂さんは時々常識外のことをする。


 この前は少女に憑いた霊を祓うからと、バシバシとビンタしていた。驚いた母親がびっくりして警察に連絡しそうになるのを「じゃ、呪われたままにしますね」とあっさり告げたあたり、俺の動画の時と被っていた気もする。


 そんでもって祓い終えた後で、母親に向かって「浮気もほどほどに。原因の一つはそれですから」と言い放ったのだ。あの時の母親の顔ったらなかった。


「そうだ、その前にお守りを交換しましょう」

「あ、はい」


 こけしにお札を貼り終えた加茂さんがそう言うので首からぶら下げていたお守りを取った。

 別のお守りを渡されて首に掛ける。俺には力が無いので、お守りは寝る時にも外さないように言われている。


「あの、そのお守りって?」

「ああ、もうこれには力がありませんから」

「そ、そうなんですか?」

「はい、見ますか?」

「み、見る?」


 加茂さんはお守りを結んである部分をほどいた。中って見てもいいんだっけ?


 お守りを逆さまにすると加茂さんの手にざーっと黒い砂みたいなものが零れて乗った。


「うえ?これって」

「今日、力を持たない豪君が無事に帰ってこられたのは、このお守りと身代わりのおかげですからね」


 ああ、あの木彫りの人形か。あれが俺の身代わりとなってくれたおかげで俺は無事だったのだ。まあ、そんな気がしていたけれど。


 加茂さんは説明不足なことも多い。元々助手やら弟子やらを付けていないので、誰かに理由を説明する習慣が無いのだ。

 そこは俺が弟子として察することが必要なのだろう。


「明日も、ですよね」

「ああ、いよいよ正念場だね。怖かったら止めてもいいよ」

「止めないですって」


 俺はホテルの支配人にこけしのお願いをするために部屋を出た。


 こんな胸がわくわくするのだ。動画撮影なんて比較にならない。俺にとってリアルな冒険がここにあるのだ。





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