オヨバズ 完結編 【井出羽】
井出羽家、今回のリーダー役、井出羽楓視点です。
「九字を?」
「ああ、あんなのインチキだよ」
「はあ、すごいのがいるとは思ってたけどね」
私はウーロン茶の缶を自動販売機の横のゴミ箱に捨てて嘆息した。
「こっちは厳しい鍛錬をして、しかも五人そろってなのにさあ」
「デートの時間もなかなか取れないってのにさあ、でしょ?」
「そうそう、それが一番だよ」
修の反応が正直すぎて思わず笑ってしまった。
彼、井出羽修は大学生だ。そして私、井出羽楓の恋人でもある。井出羽姓は地元に多く、遠い親戚でもある。
それぞれ温泉から戻って、自販機の前で待ち合わせておしゃべりをしていたところである。彼はスポーツドリンクを飲み干して同じようにゴミ箱にそれを入れた。
「たまにそう言うのがいるって聞いてはいたけどね。でも酒々井家とか加茂家じゃないんだもんね」
「一般人だろ?ありえる?」
「うーん、「見える」人は結構いるし」
「それは俺だって分かってるよ。でも「祓う」力があるのは滅多にいないだろ」
修の言う通りだ。井出羽家の血筋では「見える」のは大なり小なり当たり前だ。しかし「祓う」力となると別である。私達が使う五方陣護法も、もっと力のある者ならば一人で使えるが、私たちは五人そろわないと十分な力の五方陣護法を張ることが出来ない。
「聡おじさんじゃあ、無理だったよなあ」
「うん、聡おじさんはよく「見える」けれど、「祓う」力はそこそこだもんね」
「そりゃ退散するわなあ」
「賢明な判断だったと言えるでしょ?」
「今回、俺達が派遣されたのは賢明な判断?」
「ナンバーワンの将さんは北海道。桧と柊の姉妹は海外。となればうちらしかないでしょ」
「正直、手に余るんだけどなあ」
「でも集まったメンバーは強力だから、「祓う」ことをあまり考えなくてもいいじゃない」
修もこの言葉には頷いた。
「うん、「祓う」と言えばあれもすごかった。桐野ひかり?」
「確かにね。さすがは九州の女傑っておじいちゃんが言うだけはあるわね」
「しっかしすごい攻撃型だよなあ。でも吹き飛ばすだけだと、また復活するだろ?」
その通りだ。だからこそ私達は結界を使う。五方陣護法は守りにも使えるが、霊を閉じ込めることにも使える。封じ込めた中で徹底的に祓うのだ。
「あれだけの力だと、普通は一撃で調伏出来るのかもね。今日のは失敗したけど」
「ふーん、それはそれでうらやましいな。うちらは時間掛かるもんなあ。普通にやると」
「今日は久しぶりに「不動調伏」出来たじゃない」
「あー、あれはやばかった。俺、もう限界だったもん」
「明日もやるわよ。たぶん」
「マジか。出来るかなあ、俺」
「やってもらわないと、井出羽の名折れよ」
私の言葉に修が向き直った。
「じゃあ元気が欲しいっと」
修の言葉を封じるようにキスをした。
「はい、おしまい」
「はいはい、楓さんの人使いが荒いのは分かってますよ」
そう言って笑う修の手を私は握った。
「ん?」
修の目を見つめる。
「明日は」
「ああ」
「ううん、何でもない」
「何だよ、それ」
私は修の手を離した。
大丈夫。これだけのメンバーが揃っているのだ。今日は祓い切れなかったけれど、明日はきっとうまくいく。
修にはまだ未熟なところがある。私がフォローしなければならない。
井出羽の名に泥を塗るわけにはいかないのだ。