オヨバズ 完結編 【分析】
誤字の報告ありがとうございます。
「まったく人のお株を奪っちゃって」
「はあ、無我夢中で」
私達は晩御飯を食堂で食べていた。テーブルは私達が食事をしながら話しやすいように配置が工夫されていた。
堂神さん本人は先に寝てしまったとのことで、連れの男女だけで食事をしている。彼らだけは本人たちの希望で離れていた。
「あなた、武道の心得は?」
「大学で合気道を少し」
「それでか。あなた、うちに修行に来なさいよ」
「いやあ、俺、普段は「見えません」し」
「あ、そうか」
上梨の返答に、桐野さんが笑った。桐野さんは大吟醸とか言うお酒を水みたいに飲んでる。
「しかし依頼主が全てを話さない。都合の悪いことは隠す。よくあることですが、やられましたね」
「まったくだよ」
須賀原さんとおばあちゃんの会話の理由は、戻って来たおばあちゃんが町長さんに詰め寄ったときの話だ。
あの侍の正体はこの領地を治めていた殿様だったのだ。
人頭税を軽くするために、老人や子供たちを人減らししたことが間違った噂として殿様の耳に入り、家臣が止めるのも聞かずにことの真相を確かめるためにあの山に家来と入ったらしい。
まあ、人頭税なんて始めるくらいだから、後先を考えない自分勝手な暴君だったのだろう。
隠れ里を作り、税逃れをしていると勘違いした殿様は家来ともども山に入り、そして山から戻ってこなかった。数回の捜索隊も戻らず、捜索は中止された。このことで跡継ぎによって人頭税は廃止されたと言うから皮肉なものだ。
その殿様がまさか呪いとなっているとはさすがに知られていなかったが、この話を事前に聞いていれば可能性を考えたかもしれないとおばあちゃんは町長さんを叱っていた。
「しかし堂神さんでも祓えなかったとなると、厳しいですね」
「つゆりの石は今日の感じだと明日は使えない」
「うん、たぶん」
私もおばあちゃんに同意する。あれだけの「破魔」を使うと、しばらくの間使えないのは確定で、それは一日ではない。
「加茂、どうだい?」
「やってみましょう。後で石を預けてくれるかな?」
「はい、分かりました」
やり方は分からないが、何かの方法で使えるまでの時間を短縮できる見込みがあるのだろう。
「今日祓い損ねたことによる影響は?」
鹿嶋さんがおばあちゃんに聞いた。
「荒ぶる可能性は高いね。ただあの本命はどう思う?」
おばあちゃんの問いに思案顔になる人が多数。私は上梨を見るが、彼は首を振るだけだった。
どう思うってどういう意味だろう?怖い存在だった。それじゃないことを聞いているのだろうか。
「一番近くで見た私から」
桐野さんが口火を切った。
「殿様に「オヨバズ」は纏わりついてた。奴が沼から出て行くのを止めているように見えた」
あ、それは私も思った。そうか、そういうことを聞いていたのか。
「それは俺も感じました」
「私も」
上梨や私が言うまでもないようで、みんなが頷いていた。
「複雑ですね。「オヨバズ」は確かに呪いとして存在していながら、あの殿様の悪霊を沼に封じ込める役割も果たしているってことですか」
須賀原さんが肉を頬張りながら言った。すごい量を食べている。それは上梨にも言えることだけど。
「うん、そう見えるけどね。どうかなあ?」
桐野さんが異を唱えた。みんなの視線が桐野さんに集まる。
「人減らしは老人と、子供。そうだよね?」
「ああ、そう聞いてるね」
「あの殿様に縋りついた中に、明らかに成人の男女も混じってたように思えるんだ」
そうなの?一番近くで見た桐野さんがそう言うのならそうなのだろう。
「仮説でもいいですか?」
ここで口を開いたのは井出羽の女性だ。おばあちゃんが頷く。
「本当に隠れ里を作っていたという可能性です」
「ほう」
「さきほどの町長からの話では殿様が間違った噂を聞いてとありましたが」
「実は本当だったと?」
「はい、隠れ里と呼べないまでも、例えば自分の子供を人減らしのために沼まで連れてきたものの、殺すのが忍びなくなって、あの小屋に住まわせていたとか」
「定期的に食料を届けていたとすれば、ありの仮説だね」
加茂さんが言った。加茂さんはもう食事を終わりにしてコーヒーを飲んでいる。井出羽の女性が頷いて続けた。
「もしそうならば、殿様達はそこにいた夫婦と子供を処刑した可能性があります。それならば成人男女の姿が塊に見えたとしても説明がつきます」
「殿様が悪霊になったとして、何をしたい?」
おばあちゃんが井出羽の女性を見た。
「村人への復讐でしょうか。自分をだまして税逃れをしていた村人」
「今なら?」
「その子孫である温泉街の人です」
ぞっとする話だ。私はデザートを食べる手が止まってしまった。上梨と須賀原さんは平気な顔でもりもり食べている。
「逃がしたとは言え、堂神が殿様を祓いかけてくれなかったら危険だったね」
「ええ、「オヨバズ」のストッパーが無くなっていたので、あれが村を襲っていた可能性がありますね」
上梨がごくりと口の中を空にして発言した。
「どちらにも結構なダメージ?を与えましたよね。明日はチャンスと言えませんか?そんなにすぐに呪いって力を取り戻すものなんですか?以前つゆりが病院で出会った霊は結構すぐに復活しましたけど」
「呪いはもっと力を必要とすることが普通だね。贄でも捧げられなければ、弱った状態になってるはずだがね。問題は祓い切れていないことで、やつらが荒ぶることさ。荒ぶっていれば、プラスマイナスゼロかもな」
「なるほど」
上梨が納得したようで、また肉を口に運んだ。本当に今日はよく食べるなあ、上梨。
◇
「上梨君、まずは礼を言うよ」
俺とつゆりはおばあさんの部屋に食事の後、呼ばれていた。
「はあ、すいません。言うこと聞かなくて」
「そう、問題はそれだ」
つゆりがおばあさんの言葉に少し慌てた。
「あれは、おばあちゃん、私が」
つゆりの言葉を視線だけでおばあさんが止めた。
「ギャンブルかい?」
「いえ、実は今日、俺とつゆりの相性がいいから力を流し込めるって話を聞いたんです。桐野さんには俺、全然ダメでしたけど、須賀原さんは桐野さんに少し流し込めました」
「それで?」
「俺とつゆりが相性抜群なら、きっとおばあさんにも流し込めるはずだって思いました。確信とまでは言えませんけど、賭ける価値はあると思いました」
「ふむ」
「それに」
俺はつゆりを見た。
「俺の大切な人にとっての大切な人を、守りたいじゃないですか」
つゆりがびっくりして、そして涙を浮かべた。
「分かったよ。可能性を感じての行動だったと理解しよう」
「どうも」
続いておばあさんがつゆりに向き合った。
「次はつゆり。あんたはもっと心を鍛えな」
「うー」
「あんなに取り乱して。あんた、上梨君に何て言ったか覚えているかい?」
「覚えてる。ごめん」
つゆりが俺を縋るような目で見て来る。小動物か、お前は。
「あんたに石を託したのはあんたを縛りたいわけじゃない。あんたにはあんたの生き方がある。石を使って祓うのも、そういうことから背を向けるのも自由だ」
「えーっと」
「いいから聞きな。だが、もし石を使って祓うのなら、その時は強い心が必要だよ。時には誰かを見捨てる必要が出て来ることもあるのさ」
「その、覚悟は無かった」
つゆりが俯く。
「覚悟のない行動は、さらなる不幸を呼ぶことに繋がりかねない。分かったね?」
「分かった」
「分かればいいよ。さあ、風呂に入って寝ちまいな」
俺とつゆりは部屋に戻ってから温泉へ向かった。約束の時間は30分後。つゆりにしては短いが、それでいいと言ったのでそういう約束にした。




