【余話】 オカルトハンター豪
【余話】書いてると本編のアイデアが浮かんで来ますが、お盆休みが終わって時間がありません。作中の所見には諸説あります。
「ねーねー、今人気のオカルトハンター豪って知ってる?」
「なんだそりゃ?」
「なんか週一ペースで動画配信してるんだって」
つゆりが珍しくPCをいじってると思ったらそういう理由か。
「オカルトハンターって言うと、心霊スポットとか回ってる感じか?」
俺もつゆりの横に座る。つゆりがちょんとずれるので、俺もちょんとずれてPCの前に並ぶ。
「ううん。なんかそういうのの嘘を暴くみたいな」
「アンチオカルトってことか?」
「そうそう。そういう感じみたい」
「でもそういうのをやると、撮影中に何も起きないってことだろ?バズらないんじゃないの?」
ちっちっちとつゆりっが指を振る。可愛いな、オイ。
「占いとか霊能者とか、そういうのの嘘を暴いてバズってるんだって」
「へえ、すごいな。でもそれって営業妨害だよなあ」
「うん、そこで相手から抗議されるところとかまで流してるんだって」
あまり感心しないなあ。詐欺まがいのことをしているならともかく、占いなんてのは心の安定を求めて客が行く側面があるんだし。行きたい人には行かせればいいのに。
「あ、これこれ」
確かにいくつかの動画の再生回数はすごいことになってる。
「どれから見ようかなーっと」
「待って。コーヒー持ってくる」
「はあい」
俺は一端その場を離れてコーヒーを入れに行った。
戻ったらもう見てた。だろうね。
「つゆりー」
「ごめーん」
「まったく。で、どうなの?」
俺はつゆりの横に座ってコーヒーを渡した。
動画では降霊術師とか名乗る者が、オカルトハンター豪に頼まれて、霊を降ろそうとしていた。
「誰でも降ろせるって言っちゃったところ」
「はは、そりゃ無理だ」
「だよねえ。でも売り言葉に買い言葉みたいに。この人、結構頭がいいんだと思うな。うまく誘導されちゃった感じ」
「へえ」
『誰でも降ろせるんですね』
『もちろんですっ』
『分かりました。では降ろしてもらいましょう』
『では、ここにその人のデータを記入してください』
降霊術師が紙を差し出した。
「あの紙に書いてもらって、それで知った情報を会話に上手に織り込むんだよね」
「うん、あとはバーナム効果だな」
「バーナム効果って何?」
「じゃあ、つゆりのこと占ってあげる」
俺はつゆりの手に自分の手を重ねてそれっぽく動かした。つゆりがきょとんとして俺と手を交互に見ている。
「分かった。つゆりは最近悩み事がある。人前では明るく振舞っているけど、心の中ではその悩みを抱えている」
「うそ?なんで分かったの?」
つゆりが驚いた顔をする。
「へえ、悩みがあるのか?相談してくれればいいのに」
「ほえ?」
「これがバーナム効果。そもそも悩み事のない人なんていないから。誰にでも当てはまるようなことを占いの結果として示すとだいたいの人は占いが当たってるって答えるんだ」
「へーえ」
「あとは、何々な一面がありますとか、自分の身体に気になる部分がありますとか」
「なるほど、それは誰にでも当てはまるか」
つゆりが納得顔で、コーヒーを飲んだ。
「占い師とか、降霊術師とか、それが上手に言える人は人気になるわけ。でもって会話の中で自分からいろいろ語らせるんだよ。でもってだいたいそういう相談をする人って、言ってほしい言葉が決まってるんだ。だからそれを肯定するような占いの結果を示すと、その占い師は当たるってなる」
「じゃあ、この降霊術師もそう言うのが巧みだったのかもね」
「ああ、でも相手が悪いんだろ?」
「たぶん」
予想通りだった。
『これは?』
『元アメリカ大統領のリンカーンですけど』
「うわあ」
「えげつな」
『誰でも死んだ人なら降ろせるって言ってましたよね』
「無理だよね」
「そりゃ無理だろ」
『じゃあ嘘をつきましたって、カメラに言ってもらえます?』
『お、降ろしましょう』
「あー」
「言っちゃったかあ」
何やら降霊術師が水晶を前に念じ始める。どうすんだ?
『は、はろー』
俺とつゆりはずっこけた。
『あー、ゆー、りんかーん?』
『いえす、あいむ、りんかーん』
『ないすとぅ、みーちゅう』
『ないすとぅ、みーちゅう』
「ひゃあ」
「すげえ茶番だ」
突然それまでかたこと英語でつきあっていたオカルトハンター豪がニヤリと画面に向かって笑った。
『What do you think about America's current politics?』
見事な発音だった。降霊術師は聞き取れていない。
『ほ、ほわっと?』
『I think exclusionism is not good.』
『そ、そーりー、あいどんのう』
『What have you left behind as president?』
『そーりー、ぐっばい』
「逃げた」
「逃げた」
『お、お戻りになりました』
『リンカーン大統領って、英語かたことだったみたいですね』
『が、外国の方は、依り代の能力の影響を受けてしまうので』
『うわあ、後出しかよ』
『何と言われようとそうなのですから、仕方ありません』
「逃げた」
「逃げたな」
なるほど、これはバズるわけだ。しかも後編があるようだ。
「えっと、後半では『死んでないおじいちゃんが降りて来た』、ですって」
「暴き方がほんとえげつないなあ」
他にも『占い師の嘘を暴く』とか、『霊媒師は偽物心霊写真を見抜けるか』とか、そう言ったタイトルが再生回数を稼いでいた。
「最新作は?」
「っと、これ?『霊能力者と偽心霊スポット行ってみた』かな」
『ひとりかくれんぼやってみた』の動画の横にあったそれをつゆりがクリックする。
『どうですか?ここでは最近、子供が遊具で死んで、それ以来夜の公園で遊ぶ姿が見えるという噂なんですけど』
オカルトハンター豪がそう話しているが、テロップで『全部嘘です』と出ている。
匿名希望の男性霊能力者は公園をぐるっと見回して変な顔をする。
『子供の霊ですか?』
『ええ、男の子、女の子、どっちが見えます?』
『見えないですね、子供は』
つゆりが俺の袖をつまんだ。
「上梨」
「ん?」
つゆりの目は画面にくぎ付けだ。
『へえ、子供はってことは?他のものは見えるんですか?』
『ええ、危険です』
『何が危険なんです?』
「この人「見える」人だよ」
「マジか」
『老人がベンチに座っています』
『老人?どのベンチに?』
霊能力者が指さすベンチがアップになるが何も見えない。
学生時代にはおっさんがビデオにはっきり映っていたけど、こうして映らないパターンもあるのか。
「おじいさん」
『おじいさん』
つゆりの声と霊能力者の声が重なる。
『おじいさんがいるって?一体何してるって?』
『怒ってる。この公園で子供たちが遊ぶのを眺めるのが好きなおじいさんは、その平穏を乱すあんたに怒ってる』
『うへ、こええ』
『料金を払うなら祓ってやってもいいが?』
『は?俺呪われちゃうの?すげえ』
男霊能者は嘆息するとその場を去ってしまった。
『はい、そういうわけで、今回は何もいないはずの公園でおじいちゃんの霊がいるってことになって、俺、呪われちゃうそうです』
「あーあ」
「憑かれた?」
「ものすごく」
霊能力者がいる間は手出ししなかったじいさんが、彼がいなくなったことでいよいよ本気で怒りの矛先をオカルトハンター豪に向けたようだ。
つゆりが思わず画面から目をそらして俯いた。俺はコーヒーを置いて、つゆりの肩を抱いた。
『じゃ、呪われた俺が来週の配信で元気なところをお見せしますんでー』
笑顔で画面に手を振るオカルトハンター豪。
しかし、彼の動画配信は一週間経っても更新されなかった。
◇
23:22 なんか入院したらしい
22:15 更新まだ?
22:10 呪われた?
21:01 更新されないじゃん
1日前 いよいよ明日だな。呪われてなきゃいいけど
2日前 なんか俺の知り合いはベンチに影が見えるって
2日前 実際に呪われてたら藁
3日前 霊能力者、本物っぽいねー
3日目 意外に霊能力者がイケメンな件
4日前 あんなの嘘だろ。じじいとか見えんし
5日前 ガチコメント多すぎ藁
5日前 だって何も見えないし 嘘だろ
5日前 霊能力者とヤラセとか
5日目 はい
5日前 じいさん見える人、挙手
5日目 あまりこういうのを動画で流すのよくないと思う
5日目 いいぞ、じゃんじゃん暴け
5日目 霊能力者がインチキで金取ろうとしてんだろ
6日目 ガチやん
6日目 刑事が普段立ち寄らないところにたまたま立ち寄ったったとか言ってた
6日目 なんかたまたま通りかかった学生と警察が捕まえたとか
1週間前 あちこち遠征してた変質者 余罪いっぱい
1週間前 幼女をさらおうとした事件だな 知ってる
1週間前 あの公園知ってる 変質者が捕まったとこだ
◇
「ちなみに、つゆりの悩みって何?」
「あー、あれはバレー部のスタメンの話」
確かにそれは俺に相談しても仕方ない話だったな。
オカルトハンター豪のその後が気になります。