【余話】 エレベーターが開く理由
本編完結後もさらにブクマ、評価してくださりありがとうございます。
「なー、上梨」
「何?」
「ちょっと相談なんだけど」
こいつからの相談はだいたい面倒ごとだ。できれば聞きたくないが、もはや腐れ縁と言った関係になっていることは自覚している。嘆息しつつ俺は答えた。
「何だよ?」
「俺さ、警備員のバイトしてんだけどさ」
「はあ」
「エレベーターに何か憑りついてんじゃないかと思ってさ」
「はい?」
友人が缶コーヒーを買って渡してくれた。これが相談料だろうか。俺は微糖がよかったんだけどなあ。
「ショッピングモールの夜間の見回りなんだけどさ。そこは11時で完全に照明も落としてエレベーターも止めるんだけどさ。最後にエレベーターに乗って最上階まで行って、巡回しながら降りて来るんだ」
「うん」
コーヒー甘い。
「それがさ、お店は3階までなんだけど、エレベーターは5階まであるんだよ。スタッフオンリーでさ。だから5階を押して行くんだけど。たまに押してないのに3階で止まることがあるんだよ」
「へえ、止まって開くわけ?」
「そう。おかしいだろ。最初はぞっとしたよ。霊が乗ってるに違いないって。一緒に乗って3階で降りてるんだよ」
「ふーん」
機械の誤作動ってことはないのかな?最近のエレベーターならそういうことはないか。
「監視カメラにも何も記録されてないんだけどさ。絶対おかしいだろ」
「で、俺にどうしろっての?」
「さすがにその時間に部外者は入れられないからさ、まずは日中そのエレベーター乗って、呪われてないか調べてくれよ」
「じゃあ、デートついでに乗ってみるよ。詳しくどこのエレベーターか教えてくれよ」
「分かった。助かる」
つゆりとショッピングデートに行くと思えばいいか。
◇
「このエレベーター?」
「うん、左端だから、これだな」
俺とつゆりは友人の言ったエレベーターの前に立っていた。
上階から降りて来るのを待って乗り込む。他の客も何人も乗ってくる。
俺は声を潜めて聞いた。
「どう?「見える」?」
つゆりがふるふると首を振った。
ふむ。11時の最後のエレベーターにだけ乗っている可能性もあるか。それに、たまにという表現を使っていたから、何度か乗らないとだめなのかもしれない。
3階で降りてぐるっとモールを回って、最後にもう一度1階からエレベーターに乗ることにした。
「ねえ、3階の店で見たTシャツ買って帰ろう」
「いいよ」
つゆりはそこそこご機嫌だった。
再び1階からエレベーターに乗り込んだ。つゆりは俺が聞く前からふるふると首を振った。やはり空振りか。
3階についてドアがゆっくりと開く。
「おっと」
つゆりが呟いた。乗っていた客がさっさと降りる中、つゆりは誰かを避けるようにエレベーターから降りた。すぐに3階で待っていた人々が乗り込んでいく。
「3階から乗り込んで来るのか」
「うん、太ったおばさんが荷物を両脇に抱えてた」
「悪い感じじゃないんだよね」
「うん、「見える」人も普通にお客だと思うんじゃないかな」
俺はつゆりにTシャツを買ってあげた。つゆりはさらに機嫌がよくなった。
3階のエレベーターホールに向かう。
「あ、いる。エレベーター待ってる」
マジか。
列に並んで、その太ったおばさんと共に乗り込む。
つゆりの視線の先は、なぜか人が立っていないで空間になっている。なんとなく感じるのかもしれないな。
「どうする?こんなに人いると拍手もしづらいな」
「考えがある。頷いたら叩いて」
「分かった」
エレベーターが1階に到着してドアが開く直前につゆりが頷いた。
俺は手を叩いた。
ぱんっ
同時につゆりにビンタされた。
「あんたなんか嫌いよー」
呆然とする客たちを尻目につゆりがエレベーターから駆け出した。
「ちょ、待てよ」
俺は頬を押さえながらエレベーターを出てつゆりを追った。客の視線が痛い。
つゆりめー。
つゆり、ナイスアイデア。