鬼退治 【斬魔刀「青龍」】
桐島未散視点です。
「文太さん」
「私のことはいい。まずは「青龍」だ、未散」
「はい」
文太さんに促されて斬魔刀の「青龍」を袋から出した。木刀の「秋月」とは違う重量感にまず身が引き締まる。
「鞘を付けたままでいい。まずは構えて」
「はい」
文太さんの指示通り、鞘を付けまま正眼に構えた。
「ふむ。大丈夫そうだな。では鞘を抜け」
「はい」
ゆっくりと鞘を抜く。そっと鞘をテーブルに置いて斬魔刀「青龍」を構える。
少し青みがかったような真剣の刀身が部屋の照明を反射して煌めく。
「まずは構えて、自分の中で気を練る」
「はい」
脚をしっかりと床につけてお腹の奥で気力を回すような意識をもつ。
お腹の中で大きくなった気を少しずつ全身の隅々に行き渡らせる。
「さすがなだ。よし、ゆっくりと「青龍」にそれを流し込め」
頷いてゆっくりと文太さんの指示通りに「青龍」に気を流し込んでいく。
最初に手にした時には感じられたちょっとした抵抗は今ではない。それだけこの「青龍」に馴染んだと言えるのだろうけれど、それでも「秋月」ほどの域には達していない。
「待て、未散」
「あ、はい」
いったん気を流し込むのを止めて、構えも解く。
「未散、お前、まさか「秋月」と比べて気を流し込みにくいと感じているか?」
「はい、感じています」
まさに文太さんの指摘通りだった。あきらかに「秋月」に比べて気が入って行かない。そこがなんとも歯がゆかった。
「斬魔刀を授けられた時に、誰から解説を受けた?」
「え?桐島田之助さんです」
「あのじいさん、もうろくしたかな?」
どういうこと?
「あのな、未散。斬魔刀と木刀では当然質が違う」
「はい」
「気の流れ込み方も全然違うんだ」
「え?」
「やっぱり知らなかったのか」
そんなこと田之助のおじいさんは言っていなかった。
「いいか。流れ込みにくいのは当然なんだ。それでも強引に入れろ。大丈夫だ。斬魔刀はやわじゃない。流し込める気の量も木刀とは全然違う。そうだな、破魔刀とも違う。そこが斬魔刀と破魔刀との格の違いにもつながっている」
「そうだったんですか」
「そうだ。だからもっと気を流し込め。するとある瞬間からするするっと気が入る。これはまつりからの受け売りだがな」
「分かりました。やってみます」
改めて「青龍」を手に構える。気を練ってそれを「青龍」に流し込む。
入りにくいと感じても強引に流し込む。本当に大丈夫なのだろうかと思った瞬間、するするっと、本当にするするっと気が入り始めた。
「文太さんっ」
「ストップだ、未散」
はっとして気を流し込むのを止めた。「青龍」が青い光を帯びていた。
「おいおいおい。何という親和性だ」
「すっごく入りました。本当にするするって感じです」
「ああ、見ていても分かったよ。ひょっとしたら田之助のじいさんはこれを見越して言わなかったのかもしれないな」
「え?」
どういうことだろう?
「未散と「青龍」の相性のよさを見抜いていたとすれば納得できる。まだ「青龍」に慣れていないのに、気を入れ過ぎれば制御を失う可能性がある」
「ああ、なるほど」
「斬魔刀」を制御できなくなることはとても怖いことだと私も耳にたこが出来るくらい聞かされている。
「過信するな、未散」
「え?」
「確かに「青龍」と未散の親和性はとてもいいだろう。恐らく愛用していた「秋月」を上回る。しかしまだ慣らし運転中だ。無理に大きな技を、例えば「斬魔一刀」を使うようなことをすればそれこそ制御不能になるかもしれない」
「はい、分かりました」
「今までじっくり気を入れて「光明の太刀」は放てたのだから、まずはそこまでとするのがいいかもしれないな」
文太さんの言葉は理解できる。でも素直に頷けない自分がいた。
「どうした?」
「あの鬼を「光明の太刀」で祓えるでしょうか?」
私はベッドの文太さんを見て、そして手にしている「青龍」を見た。
「それは分からない。たぶん無理だろう」
「それじゃ」
「しかしだ」
文太さんが私の言葉を遮った。
「あの二人がいれば敵うかもしれない」
「酒々井さんと上梨さんですか」
「そうだ。お前は知っているのだろう。彼らの実力を」
「はい、この目で見ていますから」
「ならば自分一人で、「青龍」だけで何とかしようとするな。己を未熟と思い、「青龍」は慣らし運転中であると忘れるな」
「分かりました。決して無理はしません」
私の言葉にまだ文太さんは不満そうだったけれど、それ以上は何も言わなかった。




