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鬼退治 【桐野銀之助】

つゆり視点、後半は桐野銀之助視点です。




「海沿いなんだね」

「ああ、そうだね」


 出雲大社から私達は山陽本線に乗って「石見福光いわみふくみつ駅」へと辿り着いた。


「石見銀山、行ってみたかった?」


 上梨が私の手を引きながら言った。もうさりげなく手を繋ぐことに何の抵抗もない。自然な行為になっている。


 私としては上梨がこんなに頻繁に手を繋ぐとは思っていなかったのだけれど、大学に入って同棲するようになり、一緒に行動することが増えるといつしか私達は手を繋ぐようになっていた。


「ううん。大丈夫だよ。それにこれはお仕事だし」


 観光気分も終わりだ。気を引き締めないといけない。


「あ、いた」


 上梨の視線の先には桐野銀之助さんがいて、手をこちらへ振っていた。


「お久しぶりです」

「いやあ、すまないね。取り敢えず乗って」

「はい、失礼します」


 銀之助さんはレンタカーを借りているようだった。


「状況を運転しながら話せますか?」


 結構勢いよく発車した車に揺られながら上梨が言った。


「どこまで聞いてる?」


 ああ、こっちを振り向かなくていいから、前を向いてください。


「鬼退治という話しか」

「そうなの?」

「ええ、現地で聞けと言われました」

「相変わらずなんだねえ」


 銀之助さんが笑った。停車も発車も結構勢いが大きい。ちょっと怖いかも。


「銀之助さん、安全運転で」

「あ、ああ。すまない。ちょっとこの車のアクセルもブレーキも固くてさあ」


 思わず上梨の腕を握ったら、彼が銀之助さんに声を掛けてくれた。


 上梨ににっこりしたら、上梨もにっこりしてくれた。こういう以心伝心が嬉しい。


「あ」

「む?」

「何でもない」

「ひょっとして「見えた」?」

「うん」


 走る車の前におじさんがふらーっと出てきていたのだ。しかしおじさんは車をすり抜けて行った。


 なんだか明らかに都会よりも「見える」数が少ない。だから少し油断していたのかもしれない。


「最初は普通の霊障の依頼かと思ったんだ」


 前を向く銀之助さんの表情が引き締まった気がした。






「お久しぶりです、須賀原さん」


 電話の主は京都のお寺の次男坊、須賀原さんだった。


『突然すまないね。ぶしつけだが、九州の女傑の身は空いてるかい?』


 九州の女傑。それは当家の筆頭、桐野ひかりのことである。まだ桐野まつりが筆頭だった時にも、この須賀原さんと仕事を共にしたことがある。


 その後も度々連絡を取り、時に協力して来た。どちらかと言うと人見知りするひかりが恐らく気に入っているからだろう。特に人形騒動の時にはお世話になった。


 ただ男女の関係に発展する様子は無く、どうもひかりは須賀原さんを戦友のような存在だと思っているようだ。


「すいません、ひかりさんは今ダメですね」

『そうか、すまなかった。他を当たる』


 しかし俺は須賀原さんの口調が気になった。


「須賀原さん」

『はい?』

「やばいやつですか?」

『うーん、たぶんね』


 おや?違うのか?


『ちょっと得体が知れなくて』

「須賀原さんでも、ですか?」

『はは、まあね。でも何とかするよ』

「ひかりさんはダメですが、未散ちゃんならいます」

『ああ、彼女が?ひかりさんの付き人は?』

「今回は別の者が」

『そうなんだ』


 あまり桐野家の内情を話すのはよろしくないが、相手が須賀原さんならいいだろう。


「実は未散ちゃんは斬魔刀を伝授されました」

『え?まだ中学生じゃないか』

「それだけの逸材ってことです。どうです?」

『しかしなあ、まだ中学生だからなあ』

「そこは何とかするのが桐野家ですが」


 そもそも桐野未散の成績はなかなかよい。俺やひかりよりもはるかに優等生なのだ。


『せっかくの話だけど、とりあえずこっちで何とかしてみるよ。もしもの時はまた連絡するから』

「分かりました。遠慮なくどうぞ」


 こうして電話は終わった。俺は一応桐野未散に、案件が入るかもしれないと連絡を入れておいた。


 そして次の電話は2日後に来た。





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