鬼退治 【きりたんぽ】
おばあさんの回想シーンから、上梨君視点です。
事後処理をするという加茂さんを家の外で待った。
「これはもう駄目ね」
井出羽さんが忌々しそうに言った。手には色が変わってしまった金属の棒があった。
それを将君に渡すと井出羽さんが私に視線を向けた。
「あの合体技はいつもやってるの?」
「合体技?」
「加茂に流し込んでもらってたでしょう?」
「あ、いえ。初めてです」
「そうなの?それにしてはすごかったわね」
ありがとうございます、でいいのかな?
「相性なんだろうね」
「え?」
「あなたと加茂の相性がいいんだよ」
「そ、そうですか?」
「何、あなた達付き合ってるわけじゃないの?」
「い、いえ。全然そんなことは」
「ふーん。もったいない」
もったいないの?
加茂さんが家から出てきて、最後に表札の近くに札を貼った。
「お待たせ」
「ま、こんなもんでしょう」
井出羽さんが頷いた。
「新しい堂神は?」
「誰かを呼ぶみたいだね」
どうも堂神さんが老婆に変貌して死んでしまったことは警察に届けないようだ。
「外道屋でしょうね」
「外道屋?」
「ああ、こっちの世界で回収屋のことだよ。まあ、回収以外もいろいろするけど」
「そんな稼業の人達がいるんですね」
「本当にあんた酒々井の跡継ぎなのかい?何を教わって来たんだい」
「い、石の使い方とか」
井出羽さんが怒ったように言った。
「それだけの力を持ちながらなんて体たらくだい。しっかり加茂に教わりな」
「はあ」
「その力があれば、どれだけの人を救えるか自覚することだね」
「はい」
なんだかもう頷くしかない。それに井出羽さんの最後の言葉は刺さった。
祖母も私に石を渡す時に似たようなことを言っていたから。
人のために使いなさい、と。
「加茂」
「はい?」
「まだ付き合ってないんだって?」
「え?なんの話です?」
「あれだけ相性がいいんだ。さっさと交際を申し込んで結婚しな」
「はあ?」
さすがに加茂さんがあきれる。私は話が急すぎて顔が赤くなるのを感じた。
「そう言うのは段取りがいるんですよ」
「好きなんだろう?」
「もちろんです。あ、いけない」
加茂さんが井出羽さんの問いに思わず答えてしまって、慌てて私を見た。
「すいません、なんか、こんな形で」
「いえ、あ、ありがとうございます。私も好きです」
加茂さんが優しい笑顔で笑った。
「ふん、将。行くよ」
「はい」
タクシーに向かう井出羽さんの後を私達も慌てて追った。
さりげなく掴んでくれた手がとても温かく、嬉しかった。
◇
「で、きりたんぽは食べたの?」
おばあさんの話を聞き終えたつゆりが言った。
そこ?
「ああ、とっても美味しかったよ」
おばあさんがにこりと笑って答えた。
「ねえ、上梨。きりたんぽ食べたいな」
「つゆり、食い意地が張り過ぎだよ。今の話を聞いて、第一声がそれって」
「えー、上梨は食べたくないの?」
「食べたいけど」
素直にそう答えるとつゆりが笑顔になった。
「いちゃつくなら帰っておくれ」
「すいません」
「ごめんなさい」
厳しい顔で言いつつ、私達が恐縮するとぷっとおばあさんが笑った。
「まあ、いいよ。で、島根、行ってくれるかい?」
「島根のどこです?」
「石見だよ」
「あ、知ってる。銀山があるところ」
つゆりが言った。
「え?何?」
俺とおばあさんの視線に気付いてつゆりがきょとんとした。
「いや、つゆりらしからぬと言うか」
「何、失礼なこと言ってんのよ」
「確かに珍しい」
「ちょっと、おばあちゃんまで何?」
じたばたするつゆりがこれまた可愛いから困ったものだ。
やっと現代に戻りました。




