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鬼退治 【破魔の石】

酒々井つゆりのおばあさんの回想シーンです。




「将、張りなおすよ。金剛棒を」

「はい」


 部屋に入るなり、井出羽さんが叫んだ。


 井出羽さんは五方陣護法は簡単に破られると言っていたけれど、禍家の瘴気に対しては効果が保たれているようで、部屋の中はほとんど普通の部屋だった。


 四方に置かれている棒を交換した二人が最後に部屋の真ん中に刺した棒を交換した。


 そこに若い男女が蹲っている。この人達が赤上さん本人とその恋人か。不動袈裟を着せたと言っていたが、私がイメージしたお坊さんの袈裟とはだいぶ趣が違っていた。


 おそらく美人であっただろうが、すっかりとやつれてしまっていて、目の下のくまもひどい。


 男性も憔悴しきった顔で、私達を見て身体の力が抜けたようにふらふらと上体が揺れ始めた。


「も、もうっ」

「待たせた。よくがんばったよ、あんた」


 絞り出すように赤上さんが言うとその肩に井出羽さんが手を置いた。


「これを」


 加茂さんが木彫りの人形を二つ、彼と彼女に渡した。彼女の方は受け取る力もないようで、彼が彼女の太ももの上に置いた。


「酒々井さん、石の用意。お願いします」

「はい。えっと」

「もちろん「破魔」で」

「分かりました」

「タイミングは私に任せてもらってもいいですか?」

「お願いします」


 場数が違うのだ。加茂さんを信じて私はそれに従うのみだ。


 突然部屋がぎゅうっとたわんだような気がした。


「来るよっ」

「来るっ」


 堂神さんと井出羽さんが同時に叫んだ。


 びりびりと部屋の5か所に刺してある金属の棒が震え始める。


「将っ」

「はいっ」


 中央の二人の近くに刺さっている金属の棒を井出羽さんが将君とともに掴んだ。


 一瞬金属の震えが止まる。


「守っていても埒が明かない。入れちまいなっ」


 堂神さんが叫ぶ。井出羽さんは加茂さんを見た。そして加茂さんは私を見た。


 そんな目で見られても、分かりませんっ。


「耐えられるだけ耐えてくれ。その分相手の力も消耗されるはずだっ」


 加茂さんが叫んだ。


「了解」

「ちっ」


 こんな状況なのに、堂神さんが連れている少女は平然としている。いや、達観しているのだろうか。


 1分も経たないうちに、再び部屋がぐわっとたわんだ。


「これまでだよっ」


 井出羽さんが叫んだ。いつの間にか井出羽さんも将君も汗びっしょりだ。部屋の四隅の金属棒の色が変わっていく。そして、部屋に瘴気が侵入して来た。


「あ」


 思わず声を出してしまった。二人に加茂さんが渡した木彫りの人形がぐずぐずとまるで腐ったように朽ちていく。


「これは、強い」


 加茂さんはバッグからさらに木彫りの人形を渡し、さらに二人にペットボトルに入っていた水を掛けた。振りかけられた水がその場でしゅうしゅうと蒸発していく。


「入って来たよっ」


 堂神さんが部屋の入口を睨んだ。


 そしてそこには黒い瘴気の塊のような人の形があった。


 私にも見えた。


 確かに角があった。


「なるほど、鬼だな」


 加茂さんがそう言って、私の背後に回った。


「まずは堂神が動く」


 背後から腕を回されてびっくりしつつ、「破魔」の石をしっかりと握った。


「大物だよっ。出てきなっ」


 堂神さんが叫び、さらに呪文のような言葉を唱えた。


 次の瞬間、ぶわっと黒い塊が堂神さんの身体から飛び出した。


 あれが、呪い。


 寒気がすごい。後ろに加茂さんがいなければ絶対に後ずさりしている。


 叫びのような、唸りのような、呻きのような、そんな音が部屋に満ちた。


 入って来た鬼の形をしたものと、堂神さんの身体から飛び出した黒いものがもつれる。


 まるで混ざり合うようにぐちゃぐちゃになる。


「ぐうっ。こいつはっ」


 ぎりぎりと歯を食いしばる堂神さんが歯ぐきから出血している。


 ばきっと音がして堂神さんの歯が砕けた。


「小町っ」


 堂神さんが付き人を呼んだ。


 まさか。


 ぶしっと堂神さんが鼻血を吹き出し、そして目と耳からも血が垂れた。


「あどば、たぼ」


 ごぼごぼと血を吐きながら堂神さんが言った。


 なんという壮絶。


 バチンと音がしてもつれ合っていた黒い塊が離れた。そのうちの一つが堂神さんに戻る。


 いや、ぐるぐると堂神さんを包むように回ると、付き人の少女にしゅばっと入り込んだ。


 がっくりと少女が膝をつく。


「臨」


 井出羽さんと将君が手に何かの器具を持って腕を振った。空中に光の線が出現する。


「兵、闘、者、皆、陣、列、在、前、破」

「闇ハラエ、魔フクセ、不動調伏」


 ぶわっと二人から光のカーテンのようなものが、部屋の入口でもぞもぞしている鬼の形をしたものに向かって飛んだ。


「酒々井さん、行くよ」

「え?はい」


 光のカーテンがばしんと鬼の形をしたものにぶつかると、鬼の形をしたものからまるで瘴気が離れるように散った。


 ああ、人だ。


 男性の姿が見えた。まだ黒い瘴気を身体に纏っているが、スーツ姿の中年の男性だった。


 その目は白眼。髪の毛はやはり何かで固められて角の形を作っているようだ。表情は怒っているような、それでいて泣いているような、複雑な表情をしている。


 加茂さんから力が流れ込んでい来る。私も力を石に流し込んだ。


 手の中の石が光を放つ。


 部屋に侵入していた瘴気は一気に消え、鬼の男性の身体にまとわりついていた残りの瘴気も散った。


「あが」

「破魔」


 鬼の男性が何か言いかけたところで私は石の力を解き放った。


 どちゃんっと鬼の男性が部屋の入口にぶち当たり、そしてその肉体がぐずぐずと腐り落ち始めた。


 部屋の中央でうずくまる二人に手を伸ばすが、その腕が途中でぼとりと床に落ちてそのまま塵となって消える。


「すごいわね」


 井出羽さんがふうと息を吐いて言った。


「ご苦労様」


 加茂さんが言った。


 終わり?


 これで終わり?


 男性の下半身が崩れ、どさっと上半身だけが床に落ちた。そして次の瞬間、その上半身も塵となって消えた。


 そして私は気付いた。


 堂神さんもまた床に崩れ落ちていることに。


 そして、彼女は老婆になって息絶えていた。





前振りの長さがおかしいですね。すいません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 堂神の末路は凄絶ですな汗
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