■後篇
その後も「もしかしたら援助交際じゃないか?」「ひょっとしたら誘拐では?」なんて物騒な推理をしながら探すこと、小一時間あまり。
三人で行動していたせいか、はたまた小野寺先輩が加わったからか、どうやら途中から追跡がバレていたらしく、最後には鳥居の前の階段で部長さんの方から声を掛けられた。
「尾行にしては目立ちすぎだよ、探偵諸君」
蓋を開けてみれば、謎の少女の正体は単純明快だった。
少女は部長さんの姪っ子で、忙しいお兄さんから娘を祭りに連れて行くよう頼まれたのだそうだ。
そして、少女が部長さんのことをキミと呼んでいたのは、お兄さんが貴美を音読みしたあだ名で呼んでいるのを真似しただけだった。
あと半年で卒業するというのに、僕もうららさんも、それから一番付き合いが長いはずである小野寺先輩まで、部長さんのフルネームを正確に覚えていなかった事実には、いささかショックを受けている様子だった。
ちなみに、少女の名前は由里というそうだ。どうやら東堂家は、線対称の名前を付けるのが好きらしい。
「たーまやー!」
階段に座って話し込んでいると、目の前に広がるビルの谷間から花火が見えたので、うららさんは口に手を添え、よく通る声で囃した。
来週の帰省では、両親に色々と土産話が出来そうだ。エピソードの大半は、うららさんのことを含め、文学同好会関係になりそうだけど。