頼まれ事
その日は先に帰っていた同僚の仕事にミスがあったと取引先から連絡が来て、その尻拭いをするために残業をしていて帰るのが遅くなった。
しかも天気予報の予測よりも早くに雨が降り出し、その上土砂降りというオマケ付きだ。
泣きっ面に蜂と言わんばかりに、その日はツイていなかった。
だからだろう。その日が命日となったのは...
まあ、その日の最後が人助けで終わったというのは、人生の不思議なところだろうか。
普段の自分ならそんな事なんて殆んどしないのだが、その時ばかりは子どもが巻き込まれそうになっていたから、咄嗟に体が動いてしまったのが命を落とす羽目になった原因だろう。
そう思考できるだけの時間があったからか、助けた夫婦が子どもを抱えながら自分の傍で何か言ってるのが見えたし、最後に一言伝えることができた…と思う。
正直な話、相手が何を言ってるか殆んど聞こえていなかったし、自分がきちんと言葉を言えたかどうかも怪しい状態であったのは自覚していたが、それでも、その時にできる事はした心算だった。
あぁ…《傍から見てみる》と、ほんと酷い状況になってたんだなぁ...
―むしろ、あの状況下で冷静に自分の状況を顧みていたのが、私としては驚きだがね―
そう言って、【ソレ】は【映像】を止めた。
自分が死ぬまでの【記録】を見せられて、本当に死んだんだなと自覚する。
しかし、死んだ筈なのに、こうして意識がハッキリとしているというのは今更ながらに違和感を覚える。
死んだらそれで終わり。と思っていただけに、こういう展開になるのは予想外の事態だった。
―まあ、その認識は間違ってないよ。
通常ならそのように〝処理〟されるんだけど、今回は〝特例〟でね…―
〝特例〟ねぇ…嫌な予感しかしない言葉を言うもんだ。
―なぁに、簡単なことだよ。
こちらの用件を受けてくれるのであれば、用事が済み次第、君の願い事を叶えてあげようじゃないか―
そう言って、【ソレ】は【俺】に向かって【頼み事】を言った。
―君、もう一度死んでくれない?-