愛情と恋心の狭間で
明るい茶髪。すっとした鼻。そして、エメラルドグリーンの瞳。自分と全く同じ姿をし、自分と同じ日に生まれた、双子の妹。洋服ダンスから服を取り出し、鏡とにらめっこしている。
「ねえ、アクア。どっちがいいと思う?」
彼女はピンクの服と赤白チェックの服を両手に持ち、おれに見せびらかして尋ねた。理由は分かっている。お前の大好きな彼氏に見せたいから。格段着飾る必要もないのだが、やはり女の子というもの、好きな子の前でおしゃれしたいのだ。おれは二つの服を見比べて思案した。
「そうだな…。あいつはこのチェック柄の方が好きなんじゃねえか?」
「あ、やっぱりそうよね!ありがと、お姉ちゃん。」
おれが答えると、彼女――マリンは、うれしそうにいそいそと着替えだした。…いい笑顔だよ、お前は。おれには到底真似できない。だから、おれはただ、お前の幸せだけを望むんだ。たとえ、おれ自身の望みを捨てようとも。おれは立ち上がり、部屋から出て行った。
何となく風に当たりながら歩いていくと、空のように青い髪をした男の子が目に入った。こちらに手を振り、近付いてくる。おれは心の底がくすぐられるような感覚になったが、すぐに首を振って思い直す。それを気にした様子もなく、男の子は目の前まで来ていた。
「アクア、ちょうど良かった。ちょっと頼みたい事があるんだけど…いいか?」
「…おれにできる事なら。」
おれは男の子――シェランの提案を承諾した。何を言われるのか、その切羽詰まったような態度から大体分かる。
「あいつの…マリンへのプレゼントを考えてるんだけど、決めるの手伝ってくれないか?」
やっぱり。男も彼女へのプレゼントというのには気を遣う。マリンの双子の姉であるおれなら、好みも分かっている。サプライズでプレゼントしたいのだろう、マリン自身に聞く訳にも行かず、こうしておれに頼んだという訳だ。
「おやすいご用だ。」
おれはシェランについていき、彼のプレゼントを決めてあげた。その時の顔は、最高の喜びだった。…本当にあいつが喜ぶのはシェラン自身の気遣いだよな、とおれは思う。シェランはおれに微笑みかけた。
「ありがとう!ホント、お前は頼りになる親友だよ。それじゃっ!」
そういって、おれの返事も聞かずに駆けだしていった。
「親友、か…」
シェランの後ろ姿を見送りながら、おれは嗤った。そう、おれはシェランにとって“親友”だ。それ以下でもなければ、それ以上でも…。
分かっている。この気持ちが、あいつへの、シェランへの恋心だということくらい。でもおれは、マリンとシェランの二人の間に入ることなんてできやしない。おれはいつでもマリンの“姉”であり、シェランの“親友”なのだ。おれだって、自分の幸せを願っている。しかしそれ以上に、おれにとって大切な、二人の幸せを願う気持ちがある。マリンはシェランが好きだし、シェランもおれの事よりマリンの方が好きだ。そこにおれが介入なんてしたら、二人の幸せなんて願えない。だから、この想いを封じてでも彼らの望む“アクア”であり続ける。苦しむのはおれだけでいい。おれ一人だけが我慢すれば済む事なのだ…。何度もそう自分に言い聞かせる。
つう、と涙が頬を伝う。何を泣いているんだ、おれは。必死になって袖で涙を拭う。伝わらない想いがあふれてきて、どうにも止まりそうもない。泣けるのは今だけだ。彼らの前にいる時は、決して泣いてはいけない。自分の感情を出してはいけない。
なぜならおれは、道化だから…。
だいぶ前に書いてたのを書き上げてみた
元ネタはかなり前からあったんだけどね
…こういう悲恋が大好きなのです