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終わった世界の歩き方  作者: 稀屋 無音
永久砂海
1/2

ユヅルの方を優先しつつ書いていく予定。

スローペースになりますがよろしくお願いします。



 見渡す限り白い砂が広がる大地を、一隻の船が滑るように進んでいた。

 現代人が見たならば、それが豪華客船と呼ばれるタイプの船だと気付くだろう。下が砂であるにも関わらずスイスイと前進する姿は船にしては奇妙だが、なるほどその船は砂を切って進んでいるわけではなく、船底が砂から浮いた状態で進んでいだわけである。普通の物ではないのは明白だ。


 そんな異常な豪華客船の上、アホみたいに広くて豪華なプールには人気が全くない。というか、客船のどこにも人気なんかなかった。

 それがまた無駄にスペースの大きさを強調していたが、無人の船ゆえにそれを気にする人も居ない。

 空の半分を占領する太陽の光を眩いばかりに乱反射する、水の満たされたのプールのそばには、真っ白なビーチチェアとパラソルのセットがずらりと並べられていた。

 パラソルの青と白の布が日を浴びて鮮やかに発色している。いささかと言うには眩しすぎるが、良い天気である事は確かだった。空も真っ白になるほどの光量と熱量ゆえに。


 不意に、パラソルのひとつが不自然に揺れる。


「やっと外に出られるようになったと思って見に来たんだが…とんだ場所に着いたもんだ」


 白いワイシャツを着た白人の男が、太陽の眩しさに目を眇めるようにして立っていた。

 誰も居なかったはずのプールサイドに突如として現れたその男は、一面真っ白な砂漠を見渡してから自分の顔をつるりと撫でる。

 すると彼自身のように突如として現れたサングラスが、まるで始めからそこに居ましたと言わんばかりに顔の上に鎮座する。

 続けて彼が流れるような手付きで自身の服を撫でると、糊のきいたワイシャツはたちまちご機嫌な柄のアロハシャツへと変化していた。品の良いスラックスや革靴、靴下までもが下半身から消え去り、いつの間にか短パンのような水着と100円ショップで売っていそうないまいちサイズの合わないビーチサンダルへと変わる。


「相変わらず微妙なチョイスだね。ワイのセンスって安定感が無いなぁ」


 ワイと呼ばれたアロハ男の背後に、同様にして現れたのは白い制服のような物を着た男だった。


「うるせぇ。お前もずっと船長服なのはどうかと思うぞ。もう《着岸》したんだからオフらしい格好すれば良いだろ?」

「いやぁ、僕は《船長》だからね。船内ではこの格好じゃないと」

「私服を考えるのが面倒なだけだろ。はやく認めろ」

「ハハハ、まさかそんなわけないだろう?」


 ビーチチェアにごろりと横たわったワイは、何処からともなく現れたトロピカルジュースを啜りながら、船長と名乗った男に目線だけで隣のチェアへの着席を促す。

 やれやれという顔をした彼は、制帽をサイドテーブルに置いてチェアに寝そべった。

 すると制服はたちまち水着と薄手のパーカーになり、制帽は瞬く間に椰子の実を器にしたココナッツジュースと化す。

 尋常ではない光景だが、二人はそれを当たり前のように振る舞っていた。これが普通なのだという様子の彼らに訂正を入れる者は居ない。

 つまりはそういう事だった。


「こんなとこで《補給》なんかできるのかよ」

「最初はどうかなぁ?って思ってたんだけどさ、こんな見た目でも《資源》は凄い豊富みたい」

「へぇ。都合が良いな。しこたま《補給》しても影響を受けるヤツが居ないんだろ?」

「それはまだ分からないよ。調査中だから」

「ふーん。ま、何か動くもん見っかったらいつも通り観光だな」

「そうだねぇ」


 太陽にじっくり炙られた風が通りすぎる中、彼らはしばらくゆったりと寛いでいた。


「センチョー!双子が操舵室から《住民》っぽいのを発見しましたー!」


 そんな緩やかな空気を打ち破ったのは、年若い青年の晴れやかな声だった。

 船長はまぶたをぱちりと開けてチェアから飛び起きる。服装はすっかり制服に変わる。

 船長と同系統の、しかし明らかに下位であることを示す簡素な制服を着た東洋人の青年は興味深げに砂漠を見渡していた。伝言が終わればもうやる事はないと言わんばかりの態度を咎める者は誰もいない。


「今行く。と言うかわざわざ君が呼び出しに来なくても大丈夫だったんじゃない?」

「そしたら俺のやる事がなんにも無くなっちゃうんです…」

「遊べば良いのに。ユゥってやっぱりヘンナヤツ」


 ワイは信じられないようなものを見る目でユゥと呼んだ青年を一瞥(いちべつ)すると、トロピカルジュースの残りをずぞぞ、と吸いきる。


「遊んでますよ?従業員ごっこです」

「雇い主の前でそんな事を言うとは良い度胸だ」

「真面目に遊んでますから許して下さい」


 二人が軽口を叩きながらプールサイドから泡のように消えるのを見送って、ワイはおかわりのジュースをちゅーちゅーと吸い込んだ。




 操舵室の窓辺では水兵服の少年少女が望遠鏡を覗き込みながら何事かを囁きあっていた。

 アルビノの少年とメラニズムの少女である二人は一卵性双生児かと疑うほどに似ており、彼らの性別は下半身がスカートかズボンか、でしか判断が出来ないほどである。

 この現実感に欠ける風貌をした二人が、ユゥの言っていた双子であった。


「あれ、骨かな?」

「骨だね。ともかく《停泊》してもらおうね」

「そしたら観光だな」

「見るもん無さそうだけどね」


 共に飛んだはずであるユゥの姿は無い。

 恐らく彼は自室へ飛んだのだろうと、ろくに気にもせずに二人へ話しかける。


「人が見つかったんだって?さすが、二人とも目が良いな」


 気配に敏い双子の事だから、話しかけるのを待っていたのだろう。現に二人は飛ぶように船長へ駆け寄る。

 褒めて褒めてと言わんばかりの目の輝き。二人の尻に振り回される犬のしっぽを幻視しながら、船長は無骨な手でぐりぐりわしわしと頭を撫で回した。


「人じゃないの!」

「白い骨なの!」

「ユゥのお部屋のゲームでやったの!」

「たくさん倒したの!」

「アレも倒していい?」


 二人に譲られた望遠鏡を覗き込む。

 そこには20人分ほどの骨格標本(スケルトン)で組まれたキャラバンが移動している様子が映っていた。荷物を引く動物まで骨のため、白い砂漠の中に紛れるような色合いがかなり紛らわしい。


「倒すのはダメだよ」

「はーい」

「早くお外に行きたいなぁ」

「今から船内放送するから、マイケルとミシェルは先に仕度をしておいで」


 元気良く返事をして姿を消す二人を見送り、船長はマイクのスイッチを入れる。


『えー…対話可能な存在を発見したため、本船は一時間後に停泊し、補給と回収を開始します。観光をご希望の方はいつも通り端末(レセプター)の使用を申し込み、ルール違反にならないようにカスタムして下さい』


 放送を終え、船長自身も端末を調整するために自室へと姿を消す。

 誰も居ない操舵室で操舵手の手もなく舵が切られ、舳先は白骨の商隊へと向けられた。





 そうして一時間後、人ならざるモノたちを乗せた船はこの真っ白な世界に停泊した。







《端末申し込みを締め切ります》

《対象の環境から適した素体を設計します》

《1758種類の素体が設計されました》

《提出された魂魄情報に適用可能な設計図は7種類です》

《要求水準を満たす設計図は1種類です》

《調整項目を生成》

《調整項目を………




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