2話
アリアによって召喚された俺、名をルシアというが、今は女の姿なのでルチアと名乗ることにした。別に名前をかんだことが恥ずかしくて言い直せなかったわけじゃない。ルシアって名前は女っぽくないから。それだけだ!まあ、その話はおいといて。
(俺の身長低すぎだろ……)
男のときは180cmぐらいあったのだが、今は背丈が低く150cmもない。目の前にいるアリアの身長が目測で150cmだろうから145cmぐらいか……。なんだか、男の身体とは違って違和感がありすぎる。
髪、耳、尻尾は男のときと変わらず白色で髪は肩まで伸びている。鏡を見たときに確認したが瞳の色も変わっておらず赤色。一方アリアは、ストレートの長い髪が背中まで伸びていて、日本では見かけない水色。これ、地毛だよな?
周りの人間に目線を向けるとそれぞれ赤、緑、紫と多種多様な髪色が目に留まる。この世界では髪色に統一性はないらしい。
「アリアさんのランクは何ですか?」
召喚された魔物は原則として主人のランクより低いのがこの世のルールだ。人間は自分よりランクの高い魔物を召喚できない理由は飼いならすことができないからで、魔方陣に細工されているらしい。
「Cランクよ」
アリアのランクはCランク。俺よりは遥かに低いようで高い。
周りにはアリアと同じ服を着た人たちが多く、さきほど老けているおっさんのことをアリアが「先生」と言っていたことからここが学校だということは推測できる。そして、今は使い魔を召喚する授業なのだろう。とんだ迷惑な授業に巻き込まれたものだ。
「さっきからどこ見ているの?こっち見て話しなさい!んで、ルチアの属性って何?」
元々人間だったので、人間には興味があったものの、こちらの世界に転生してからは人間を見たことがなかったのでついキョロキョロしてしまい、アリアに怒られてしまった。
「すみません……。属性は火です」
この世界には人や魔物に関わらず、誰もが属性を宿しており、自分に属した魔法を扱うことが出来る。
「そ……う……」
アリアが苦虫を噛み潰したような顔をし、
「私は、水よ……」
俺とはまったく逆属性を口にした。
(相性最悪じゃん……)
属性には属性に対して有利な属性、不利な属性が存在する。日本にいたころの知識で大体は把握しているが、水は火に強い。では、火魔法で水魔法には勝てないのだろうか。答えはNOだ。確かに水は火に強いが、魔法を撃つときに込める魔力量によって火は水に勝つことができる。
そして、相性は火だったら風がいい。理由は火に必要な媒体は風だからだ。水の場合は雷。風と雷はいいわけでも悪いわけでもなく、普通。そして、火と水の相性はお互いの属性を邪魔しあうので相性は悪い。本来、人間と使い魔の間なら相性がいい者同士が惹かれあうって聞いたことがあるが真っ赤なウソじゃん!
ガヤガヤと周りが騒がしい中、先ほどの教師が頃合を見計らって前に立つ。
「さて、みなさん。使い魔の召喚に成功したでしょうか?」
その場にいる人間の近くには使い魔である魔物がたくさんいた。俺の見たことのない魔物ばかりだ。あれは、オークか?それにゴブリンっぽいのもいるな。あいつらに転生しなくてよかったと思う。そのパートナーもどこか不服そうな顔をして、自分の使い魔を見ていた。
大半の生徒が使い魔の召喚を終えていたので、場の雰囲気はすでにおしゃべりタイムとなっている。そんな中、俺とアリアに女の子が近づいてきた。
「アリアちゃんの使い魔可愛いね!」
「メイシャの使い魔は何?」
アリアの知り合いなのか?メイシャと呼ばれる少女は日本でもよく見るショートの茶髪に黒い瞳をしている。メイシャの周辺には使い魔らしき魔物は見当たらない。
「あそこ」
メイシャが指先を上空に向け、その先に俺とアリアは視線を向けると……
「鳥……?」
空高く飛んでいる物体が八の字を描き変調の動きを見せると、こちらに近づいてきてメイシャの肩に止まる。
「ヒューイって言うんだ」
「ピィ」
ヒューイが翼を広げ、頭を下げる。何気に賢いんだな。
「そうなんだ。この子はルチア。メイシャの使い魔はランクどうだった?」
「Fだけど、すごく可愛いしょ?」
メイシャは残念そうな顔を一切見せず、ヒューイの顔に頬ずりをする。まあ、ゴブリンやオークのような見た目が醜い魔物を引き当てなかっただけでもまだましなのだろう。
「メイシャさんは、何ランクなんですか?」
「え?私?Eだよ~。ルチアちゃんもヒューイぐらい可愛いね!」
ランクは俺と同じか。胸もEランクほどありそうな大きな胸だな。アリアの胸に視線を向けるとCカップぐらいあるな。もしかして、ランクは胸に依存するのだろうか。だとすると……
俺は自分の胸元を見るが……
(そうでもないらしいな)
多少の膨らみはあるものの、メイシャと比べてしまうとないに等しい。本当は容姿だけ変化して実際は男なんじゃないのだろうかと思い、男にとって大事な部分を手探りしてみたが、胸と一緒でなかった。
そんな仕草をしていると周りにいた生徒の女子たちがこちらに振り向き、
「何あの子!めっちゃ可愛い!!」
「え?何々?本当だ!抱きたい~」
―騒ぎ始めた。それに釣られて男たちも俺の方に目を向け、いつのまにか周りにいた者全ての注目を浴びる。
(めっちゃ居づらい……)
アリアを盾に視線から逃れようとするが、後ろからもじっと見られているので逃げ場所がない。
そんな窮地の俺を救ったのは授業終了を知らせる予冷だった。
「皆さん。来週の模擬戦に向けて使い魔との連携をしっかりと身に付けてくださいね。また、戦闘だけではなく勉学にも励むように。では解散とします」
先生が指揮をとり、生徒たちは自分の使い魔がどのくらいの力量を持ち合わせているのか確認するためにバラバラに移動を始めた。
「模擬戦……?」
「ルチア。私たちも行くよ」
◇◇
俺とアリアは学校から大よそ1kmほど離れた森に移動した。1週間後にクラス内で模擬戦をするらしい。組み合わせはまだ未発表とのことだから、弱い相手と当たることを祈ろう。
俺たちが学校から離れた森に移動した理由は使い魔の情報を極力公にしないほうがいいからだ。よって、今は俺とアリアの2人だけしかいない。
「じゃあ、さっそく魔法を見せてもらうわよ」
「……見せなきゃだめですか?」
ノアのときに放ったファイアボールを思い浮かべると、とても見せたくない気持ちでいっぱいになった。
「当たり前じゃない!特に私たちの魔法の相性は最悪なんだから、連携だけでもこの1週間で鍛えなきゃいけないの。さあ、早く早く!!」
アリアは目を輝かせ、自分の使い魔の力量が実はとてもすごいんじゃないかという期待をしている顔を見せた。この際、俺の実力を見せて失望してもらおう。
俺は手を翳し
「ファイアボール……」
魔力を込め呪文を唱えた。すると、手の平からは豆粒のように小さい炎が現れた。
失望したであろうアリアの顔を恐る恐る覗き込むと、アリアの目の輝きは消えていなかった。あれ……?
「もったいぶらないで早くしてよ!」
ああ……どうやら、もうすでにファイアボールを出しているのにアリアは気づいていないらしい。こんな誰の目にも留まらないファイアボールを出したところで模擬戦では何の役にも立たないだろう。
「あの……もうすでに……」
「私ね。小さい頃、火属性に憧れていたんだ。水魔法って地味で、攻撃力も低いでしょ?その点、火魔法は火力もあって派手でかっこいいし、ルチアが羨ましいよ。だから自信を持ってみせて!!」
いやいや!余計自身なくすんだけど!!アリアは俺が恥ずかしがって魔法を出してないと勘違いしちゃっているんだろうね。もうすでに出しているんですが。どうすればいいのこれ……。
「アリアさん。もうすでに……」
「あ。私が急かしすぎて戸惑ってしまったのね。ごめんなさい。緊張せずにリラックスしてから見せてね。それから、「さん」はいらないわ。私のことはアリアって呼んで」
別に緊張していた訳じゃ……。それに、呼び捨てで呼びたくても勝手に「さん」を付けてしまうんだよな。ノアに対しても「さん」付けだったし。
まあ、主人の命令だから、呼び捨てで言ってみると
「アリア……」
あれ。言えたよ。もしかして、呼ぶ相手の許可をもらえたら言えるのかな?
「ちゃんと言えたね」
アリアはなぜか嬉しそうに笑顔を見せるが、対する俺はこの後見せなくてはいけない(もうすでに見せたはずだが)魔法に対し、どう対処するべきか悩んでいた。
(もっと魔力を込めるか)
威力を上げるために魔力量を上乗せすればより効果の高い魔法を放つことができる。しかし、残念ながらEランクとなった俺は魔力量自体少なく、ランクは魔力量にも依存しているためノアのときに使った魔法と今使った魔法で半分ぐらい魔力を使ってしまった。つまりファイアボールを使えるのはあと2、3回だが、2倍の魔力を込めて放てば少しはましになるかもしれない。しかし……
(3倍ぐらい込めなきゃ納得してくれなそうだな……)
瞳を閉じ精神統一をする俺。右手には魔力がどんどん集まっていき、赤色のオーラを感じ取ることができる。
(この感じ、いける!!)
アリアの期待するファイアボールが撃てなくても、自分の納得できるファイアボールがでればよしとしよう。
目を開け、右手を確認すると、
(テニスボールぐらいの大きさか。まあ、こんなもんだよな)
決して大きいとは言えない大きさのファイアボール。しかし、模擬戦では使えるだろう。1回限りの単発魔法だが。
目の前にある木に手を向け、ファイアボールと唱えようとするが……
(あれ……?意識が……)
この感覚、ノアと2日間寝ないで喧嘩したときにもあったな。なんだっけ……。ああ……。
(魔力切れか……)
魔力を使いすぎる意識が朦朧としていき、最終的には気を失ってしまう。そのため、魔法を使うときには無理をしないようにするのが当たり前だ。特に戦闘時に魔力切れで仲間が倒れてしまうと全滅という危機にもなりかねない。しかし、男のときの俺は魔力が膨大にあって滅多に魔力切れにならなかったので、忘れていた。ああ……。やば……。
パタッ
俺は立つことが出来なくなり、前に倒れどんどん意識が遠のいていく。
「ちょっと。ルチア!!ルチアああ!!」
アリアの叫び声が俺の耳に届いたときには、もうすでに気を失っていた。