その後の話1 鳥かご談義
頼んでいた物が届いた。
「なんだこれは……鳥かごか?」
王太子である兄のアルディーンは、面食らったように目の前の物体を見ている。
「寝椅子だよ。でも、鳥かごっぽいだろう?」
得意気に言ったのは、弟のロデリック。
『鳥かごに似せたものがほしい』という私の注文に対し、ロデリックがどこからか探し出したのは、楕円形の寝椅子だった。
クリーム色の皮の座面の周りを取り囲むのは、円蓋状の格子。ただし前面には格子がないので、足を下げて座ることもできるようだ。
はるか南方の国の調度品だという。
黒い真鍮製の格子だけでも優美だったが、私の妃、『紅薔薇姫』の異名を持つロザーリエのために、格子に絡みつく蔦と薔薇を金細工で作らせた。彼女は金細工が好きだから、喜んでくれるだろう。
「でも、どうして『鳥かご』なの? 監禁願望?」
ロデリックが私の方を見て言った。
「そんな願望はない。第一、鳥かごは危険から鳥を守るためのものだろう?」
兄と弟は『は?』『え?』と、同時に言った。
「違うのか?」
他に何がある。
「ああ、そうか。そういう考え方か」
兄は額に手をやって笑った。
「私なら、鳥かごに入れるよりも、手乗りに育てて懐の中に入れて守りたいな」
兄の言う『鳥』は、王太子妃のアンネリーゼのことだろう。そのくらい鈍い私にも分かる。
彼女なら小鳥のように、喜んで兄の懐に潜り込むだろう。
私のロザーリエは、気位の高い金糸雀に似ている。だから――
「私は懐に入れてしまうより、安全な鳥かごの中で美しくさえずっている姿を見て癒されたい」
「二人とも独占欲強すぎ」
ロデリックが呆れたように言った。
「鳥は空を飛んでいる時が一番美しいんだよ?」
「独占欲が強すぎだと? お前がそれを言うのか」
兄が片眉を上げた。私も同感だ。
「失礼致します――あっ、殿下、やはりこちらにおいででしたのね」
ノックと共に現れたのは、ロデリックの婚約者であるエルフィーネだ。
「もう! 捜しましたよ。ちゃんと行き先を言って下さらないと」
「だって、エルフィーネはいなかったじゃない」
「私がいなかったら、その辺の誰かに言って下さいよ」
「うん、ごめんね。心配した?」
エルフィーネはうなずいた。
「確かにリックには鳥かごは必要ないな」
私は、兄にささやいた。
「ここまで飼い慣らされているとは……まるで伝書鳩だな」
兄が、うなずきながら言う。
伝書鳩、ね。もしくは、鷹狩りの鷹だ。
「何のお話ですか?」
エルフィーネが首を傾げた。
「鳥かごの話だ」
私たち三人は、声を揃えて言った。