one day9_サブ話
本文修正中。
「彼女」のことは知っていた。あくまでも、知識として。
そこら辺の本棚から、魔術関連の偉人とか歴史の教科書を引き出せば、見つけられる名前だからだ。
深遠の奇術師だとか刻弦の調律者なんていう大層仰々しい名称をつけられているものだから、いち学生として一般教養として当然知っては、いた。同じ学校に在籍する上級生だということも知っていた。
え、そんな有名人でしかも教科書に載ってる人が同じ学校?それって「実は同級生はナポレオンです」とかっていうレベルじゃね?とか頭の悪いことを思ったりもした。
ありえないな。すごいな。違う世界の人ってやつ。
そういう漠然としたイメージだけ。なのに。
遠い遠い有名人は、おそらく歴史上の人物として語り継がれるだろうその人は、私の部屋に不法侵入し、私に長々と持論を語りかけるんだ。
魔術は、確かに奇怪かもしれない。使えない人々からすればまさしくそれは異常な現象に他ならないだろう。しかしね、僕らはそれを使うことが出来る。知ることが出来て実際の存在として認識できているはずなんだ。ここまではいいかい?
あぁ、はい。そうですね、確かに。
熱弁をふるう上級生の男子生徒に多少気押されながらも素直に頷いた。
するとさらに弁に熱が入った様子でこぶしをぎゅっと握り、空中でリズミカルに上下させながら弾んだ声で言葉を続ける。
それでもね。彼女の術式というのは実に、本当に不思議だ。
いや、言葉で言い表すことが何より求められるだろう?魔術は。何しろ術式が必要なんだから。うん。彼女も詠唱式がメインだからね。
こんな風に、といって空中に風を意味する図形を描いて見せてくれる。すらすらと指で綴られたそれは薄い緑に発光しながら淡く線を残して空気に溶け込んでいった。
漂いしもの。かの者よ。色を持たずにわが前へ 廻れ シルフィード! ・・・ほら、こんな風にね。
男子生徒が発した言葉に続いて、開かれた窓から吹き込んできた風があたしと、取り囲むようにして解説してくれている先輩方の周りをフワリと吹き抜ける。
人によって異なる詠唱式で魔術は表されるため、何気ない言葉にもセンス如何が問われたりするのだ。どうでもいいが、先輩かっこいいんスけど。
ただのガリメガネとか思っててごめんなさい。
風の残した軌道を何の気なしに目で追っていると、ちょうど隣に立っていた女子生徒がそうなのよ・・と前振りを入れて話し出す。
でも!彼女は違うのよ〜。大体属性なんて制限があるでしょう。さっきの風なんて代表的な例ね。火や水、地 それに闇や光があるわよね。応用としては大気や氷、樹なんかが使いやすくて勝手がいいから用いられることが多いわよね。
そう言ってから女生徒は急に瞳を輝かせる。
「でもね・・彼女が得意とするのは時魔法なの!
あのミステリアスな華やかさといったら、今も目に焼きついているわ・・」とかなんとか、うっとりと語っている。
オイオイ戻ってきてくださいヨー。心の中で呟くが効果なし。
時魔法。主立った4大属性のどれにも属さない特殊な魔術式である。
人を生き返らせる唯一の奇跡、なんて言われることがあるほど強力なものと言うのが国民共通の見解だ。実際のところ、そんな現象が起こせるといった記録はどの文献を探しても見当たらないのだが、それというのも使える人自体が極端に少ないために誇張が行き交ったとしても真実を知る術が無く、正しようもない。
それに加え現在実在している時魔法使いはどいつもこいつも秘密主義で一切知識を開くことは無いというのだから、救いようも無い。
現在確認されている術者は国内に7人。魔術師が国内に2、3万人だとすればものすごい低率でしか認められていないということは周知の事実。
そして『現在』進行形で人の部屋に居座っている彼女こそ、世にも奇妙な時魔法を操る7分の1・・・
常識はずれ代表・不敵な笑みが似合う人ランキング第一位(勝手に)
ディルキア・シェニ 5学年所属 学園内で最も将来を有望視される、といっても過言ではない
通称 刻弦の調律者様である。