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ROAM  作者: 笠置 有
登場人物紹介
7/13

one day7

小説全文修正中です。

8話本文は未修正。

これは必要なモノだからとっておこう。

これは大切なモノだから失くさないようにしよう。

その差異が わからなかった。


いつか本当に大切なものを手に入れることができたら、そのときに知ることができるのだろうか?





中央階段から分かれる北側の闘技場へ、次の授業のために向かうヴィーと別れてから一人でぼーっと階段を上る。

のたのたという足音を思わせる足取りは重い。


首からさげたネックレス型の時計は真昼をわずかに過ぎた時刻をさしている。丸く透明なガラス球の中に濃い青色の文字盤が入っている時計だ。

デザインが気に入って、長い間身に着けているが壊れる気配はいまだ、無い。

ちょうど昼食にもってこいの時間帯だがあまり空腹は感じていない。そもそも決まった時刻に3食摂るという習慣が身に付いていないのだから仕方ないことなんだ、と自分をごまかす。


特にすることも無いが、町に下りる気にもなれない。今日はこのまま部屋で過ごそうと、寮へと向かっているところだ。


全寮制であるこの学院は1・2学年は4人部屋、3学年からは2人部屋、5学年まで来てやっと1人部屋を得られるのだがそれには訳がある。2学年までは良いとしよう。3学年もまぁいい。しかし4年次になると学年の生徒数は一気に半数近くまで減る。なので3学年でも実質一人部屋を手に入れられる生徒も出てくるのだ。

理由はこの学校のカリキュラムにあるのだが・・・・今は特に考える必要も無いことなので実際にそのときが来たら改めて考えることにする。


という前置きの後になんだが、あたしは1人部屋を使わせてもらっている。2学年なのに、と不平を漏らす人もいるがそれはごく少数だ。

この学園に入学する、ということ自体があたしの辿った経路では前例が無く異例なものであるのと同時にその異例さゆえに大目に見てもらっている

というわけなのだ。これもひとつの条件として国家権力者に提示してあり、その人本人が頷いたのだから問題はない。

文句あるならばかかってこいコノヤロー、という姿勢で 日々の平和な生活に勤しんでいる。






なんでもない時間。特別何があるわけでもないのに、なんとなくむなしさが募って暇でやることが無くて寂しくてどうしようもなくなる。


昔からの癖だ。ふとした瞬間に考えに沈みこむ、悪い癖。



モラトリアムのようなものだろうか。


学生という立場に置かれている自分。子供にだけ与えられる猶予期間。

迷うことが許される 無知で愚かであっても咎められはしない。


子供であるがゆえに守られるだけの弱者でいることが許されるのだ。

しかし、限られた一時が過ぎてしまえば、急に世界に放り出されてしまう。

自分で生きていけ、責任は自分で背負えと大人は言い、誰もが今までの甘い顔など無かったかのように突き放す。


映像がよぎる。


わたしは独りで生きていくことなんて教えてもらってないのに!



精一杯叫ぶ自分の姿が、惨めでならない。それを見つめているもう一人の自分が遠くにいて


2人の自分は 同じなのに、重ならない。なんだか不思議な夢だった。




もうずっと昔に見たはずの夢が  今も頭の中に焼きついていて、まるで古びた映画フィルムのように ずっと 繰り返されている。










ときどき酷く不安定な感情が浮き上がる。自分ではそれほど自覚しないのだが一度陥ってしまうと抜け出すことは難しい。つまらない考えに沈みこんでしまいやけに悲観的になって、世界がフィルター越しに濁って見える。


急に一人になったとき。一人であることを思い知らされたとき。自分の孤独に酔ってしまうのかもしれない。

悲劇の中に立つ自分が可哀想で仕方ないのかもしれない。

でも、自分がそんなことを考えているなんて想像するだけで、吐き気がするのだ。


とてもとても 自分の体温が冷たくなって、寒く感じるんだ。

両腕で力いっぱい自分の体を掻き抱いても全然暖かくならなくて戸惑ってしまう。


弱さなど 悲しみなど 寂しさなど 痛みなど 感じぬ人になってしまえばいいのに。

必要の無い感情など捨ててしまえればいいのに。


弱さは、いらない。いつも邪魔ばかりする自分の弱さが酷く 疎ましい。

強くなりたいんだ。誰にも頼ることなく生きて行けるだけの力がほしい。



そう望むことを否定されるいわれなど、どこにも無いはずだ。







上の階へと抜ける階段の途中、いつもより足が重く感じて、目の奥がズキリと酷く痛んだのだが 何でもない様に装うことは慣れているからおそらく誰も気が付かないだろう。

それがいいことなのか悪いことなのか、わからないけれど。










階段を上り2階のロビーまで出ると、まるでどこかの演劇堂を思わせるエントランスが奥に広がる。きらびやかとは言わないが、校舎としては幾分豪勢ではじめてみた時は言葉を失ったものだ。通いなれたとは言わないがある程度慣れてきたので違和感を覚えなくなった。

ここがちょうど正面玄関へと続く受け入れ口となっている。




憂鬱さは一向に晴れる兆しを見せないが、一眠りしてしまえば元に戻るだろう。

自分の気分に相反するように爽快に晴れている空が、少しだけ違和感を持って見えた。

暖かく乾いた空気がそばを通り過ぎていく。  もったいないなぁ・・・こんなにいい日なのに。と思ってしまう自分はきっと貧乏性だ。


校舎の中から眺めていた景色よりも直に見る芝は鮮やかだ。何度か目を瞬かせることで校舎内の暗さになれていた目を慣らす。


平坦なレンガを敷詰めた正面を抜け、右方に道を折れると寮の屋根が見える。

道に沿って歩を進め、正面から向かって左が女子寮、右が男子寮となっている。

全体的に四角いシルエットの、屋根だけは日本家屋のように三角形となっているのがアクセントといえば、アクセント。

アイボリーの壁に、それを濃くしたような色の屋根で、男子寮と向き合うようにコの字型で建築されている。

7階建てで、所属学科ごとに部屋割りされている。自分的に屋上からの景色はオススメだ。

今の自分にとっては愛しの我が家である。


自室のある3階までをさっさと上って(エレベーターなんて無い。誰か開発してくれ)通路を一直線に横切ってヘアのドアノブに手をかざす。

毎朝鍵をかけて出かけるので、まずあいているはずが無いのだが どうやら今日は様子が違ったようだ。




ドアの鍵が、はずされている。




いつもとは違った様子に動揺するのは一瞬。するりと背筋をなでるような恐怖が体の中に現れた気がしたが、だからどうだというのだ。

できる限り静かに息を殺し、意識をめぐらす。感覚を研ぎ澄ますように 自分を大気の一部に溶け込ませて部屋の中に送り込むかのように存在を消す。





・・・・部屋の中に誰かの気配がある。

そのまま扉に手のひらを押し当てもう少し相手の存在を探る。

どうやら部屋の中の相手は気配を消そうとはしていない様子。それどころかまるで馴染みの場所にでもいるように緊張感をまとっていない。



 



 なんだ・・。そうか。

はぁーーと細く息を漏らし、張り巡らした意識を解く。

頭の中に思い浮かんだ人物と似た雰囲気・・・というか存在感を感じる。多分あの人だろう。


躊躇う必要もなくなったところでノブを思いっきりよく回し、幾分にぎやかに扉を開ける。


やっぱり。予想したとおりの光景に気が抜けて、同時に呆れて 腰に軽く手を当て、斜め下からそれを軽く睨むようにして視線を向ける。






視線の先には、どこか冷たい印象を与える短い黒髪の少女が出っ張った窓枠に腰をかけ、片足だけ抱え込むようにしてこちらに目線をよこしていた。

抱え込んだ足のひざに細い顎を乗せて、瞳にはこちらの反応を期待するような おもしろがるような色を宿している。

先ほどまで眺めていたであろう窓に手をかけたまま、目元だけを緩めた笑みでもって迎え入れられる。



「遅かったなぁ、サリジェ。待ち疲れてしまいそうだったよ」

「・・・それはごめんねぇ。ところで何で部屋の中にいるのか、というところから突っ込んでいいのかな」

胡散な目を向けて返す。彼女といるとどうしても自分のポジションが「つっこみ」になってしまう。自分が常識人だと思い知らされるというか・・これは、はたしていいことなのか。




出かける前に鍵代わりにかけたはずの術式は見事に取り外されていたのだ。

誰がやったか、なんてこの状況から予測できないわけが無いのだが、あえて問わずにいられるほどの度量は残念ながら持ち合わせていない。



「なかなか骨が折れたよ。たかだか部屋の鍵ぐらいで高位呪術をかけているとはさすがに想像できなかった」

まるで何かの目標でも達成できたかのように爽やかな口ぶりだが、やっていることは単なる不法侵入だろ、とやわらかい表現で伝えると

彼女は艶めいた笑みを浮かべる。




「それでこそ、やりがいがあるというものさ」

あぁ、ほんとにこの人は。


なんだか唐突に、空を仰いでうなだれたい気分になった。







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