one day5
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馬鹿みたいに怒って 見たこともないぐらい大げさに笑って
俺の今までは全部無駄だったんだ、って思い知らせて欲しい。
そんなことで悩むなんて、ってそう言ってくれよ
ははっ、なんて乾いた曖昧な笑いで美貌の教師の視線を返すと、一瞬呆れたように目を細めてさらりと目をそらして何事もなかったかのように授業を開始した。
自分でやっておいてなんですが、寛大だね、先生。その鉄壁の無表情が超恐ろしいけれども。
さてさて、それでは基本的なお勉強を始めましょう。
魔法とか魔術。このこっぱずかしいぐらいにファンタジーな単語は一般的なこの世界。ゲームとか漫画とかでありがちな「呪文」に当たるのが「詠唱」。
もちろん文字で書いて発動させる魔術だってある。無詠唱とかも、あり。だけれど言葉も文字も媒介としない魔術って言うのはどうも一般的ではないらしく、上位の魔術師が使う高度なテクニックなのだという話。
「詠唱」という響きがなんとも厨二心をくすぐる感じの術式は、なかなか難易度が高くて、現代科学に甘やかされてきた私にはなかなか理解し難い。
例えるなら化学式のようなもので、展開式、というもので一から土台を積み上げて現象として発現させる「魔術」は筋道立てて考えることが必要である。
まどろっこしくて要領を得ない説明なんてされても分からんぷーな話なんだ。その点ではこの先生は優秀だと思う。理に適った授業内容は実戦向きで、無駄がない。
「炎系統の術式は慣れるまであまり短くしすぎないほうが良いでしょう。繊細なイメージを描けないと諸刃の刃にもなりうる。上級者となれば一言で、あるいは無詠唱での発動も可能ですが、術を使う程の状況に身を置いているというのに愚鈍な頭がいつも以上に回るはずもない。まず、無理だと思っておくこと。そんな無意味な浪費をするくらいなら、頭で考えなくとも口が覚えるほどに練習することだね。それにはまず術式の中に魔力を練った言葉を・・・」
途中やたらと見下した発言が混ざっているが、もうここらへんは隠しきれない性格の悪さがにじみ出ているとでも思っておけばいいだろう。ふんふん、とノートにメモ程度に書き込んでおく。
一度も噛むことなくすらすらと授業を進める先生は、例えばこう、片手を前に突き出して見せる。
「光神の円舞 暗きを照らし一時の恵みを。炎神の娘テゥヌスよ 光を高め 回廊を廻れ」
冷ややかな声のあと、ふわり、と空気が揺れるのが見えた。金色の線と深紅の線が交わり、先生の腕の周りをぐるりと囲んで宙に浮かび上がった と思った瞬間。
鈍い着火音と静電気の弾けるような音。宙に金と紅の花が咲いた。
一瞬で開花した華は姿を消して、それに見とれた生徒たちのわぁだの綺麗だのといった感嘆の声が響く。
さすがカズィラム様・・・!みたいな悦に浸った声もちらほら聞こえた気がするけど多分幻聴。
ほら、そこの女子。両手組んで祈るのは創世の絶対神様だけだとかこの前言ってたでしょ。なにぎらぎらした目してんの怖い。
遠巻きに周囲の騒ぎを眺めているといかにも不満げなトーンで「光と炎の簡易詠唱だろ。あんなので騒ぐなよ」とか呟きが聞こえる。
おうおう何ですか。と横を見れば、彼はペンを机に放り出してグデりと卓上に伸びていた。
「ヴァンジェリン」
「何」
「必須単位。必修単位。年間36単位中18単位が魔術基礎分野。武術はその半分。」
はい、と満面の笑みで黒板に片手を向けると、鬱蒼とした影をまとわせて大きくため息をひとつ。
「どうせ、俺には魔術の才能はないよ。悪いか」
・・・・・・・・そんなこと一言も言ってなくね?
どんよりと暗雲を背負ってしまった彼を見つめていると、なんだよと剣呑な声と視線を返してくる。
「・・・・いや思春期だったなって」
「はぁ?」
ポロリと漏れた失言を誤魔化すみたいに曖昧に笑ってからそうじゃなくて、と正確で分かりやすい言葉を選ぶ。
「魔術の才能がどうとかじゃなくて。ほら、授業態度というか。実力云々よりもそっちの方が評価点高いでしょ。協調性とかそっちの方。ヴィーがネガティブなのはもう、こう、どうしようもないけど態度ぐらいはまじめっぽく繕っとこうぜって話。」
「サリジェはそういうところ、無駄にしたたかで腹立つ」
お前は何でも私に腹立つんだろ!といいそうになったところを大人の余裕でグッと飲み込む。クール。そう、心はクールに。
ヴァンジェリンはプライドが高くて、エリート意識が人一倍だ。「できない」なんて言われたことがないのだろうなぁってこの子を見てるとなんでか胸の裏側がもやもやして仕方ない。
その度にあたしがからかうもんだから、どうも苦手意識を持たれている気がする。
「できないから、いらないんじゃないよ。必要かそうじゃないか。感情論だけで切り捨てるよりは堅実でしょ?」
ぼそりと低く機嫌悪げに言いきった言葉に、それ以上切って捨てるような言葉で返す。
そんなあたしの顔を見て眉間にしわを寄せ、何やら考えている様子だったけれど、それは一時で不思議そうな表情にとって代わった。
「サリジェの言うことは時々、よくわからない」
うん。わからないように言ったもの。
私は意地が悪くて、ひねくれているから、本当は君が少し苦手なんだ。