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第2話 B面その1 (トワの視点)

ややこしいですが、A面とB面はお話が変わります。

A面はダイガク君が主人公でしたが、今回のB面はトワ君が主人公です。

 ――最初に自己紹介、ね。確かにまだだったな。俺の名前はホダカ。穂高永久ほだか・ながひさ。これでいいか? え? 所属って、今更そこからか。いいけどよ。

 えー、H学園に通う高校二年生。帰宅部だ。は? 特徴ぅ? あー、面倒だな。特徴なんてないよ、うーん、まあ、知り合いには、「優等生っぽい外見のくせに成績も口も悪いから外見詐欺だ」って不名誉なコトを言われたことはあるけどよ。これでいいか? 

 なあ、あんまり個人特定っていうの? そういうこと書かれたらちょい迷惑なんだけど。 ああ、分かってるならいいよ。気にしないでくれ。いや、笑っちゃうくらい嘘っぽい話だし、まあ嘘だと思ってくれてもかまわないから適当に聞いてくれたらいいよ。さて、どっから話をしたもんかな……。


 ――彼は言葉を選ぶようにしばし逡巡したあと、口を開いた。



    ※


 現在、穂高永久こと俺は、ひたすら校舎内を歩き回っていた。別に放浪癖があるわけではない。目的はある。しかしこれを口にするのは少々恥ずかしいかもしれない。

 目的は、宝探し、のようなもの、だ。


 始まりは先輩からの伝言だった。先輩というのは、高校三年、空木カラキ先輩。病弱な体つきに似合わず、弓道部所属で、しかも腕がいいらしい。帰宅部の俺とは空木先輩との接点はなさそうなものだけど、なぜか少々縁があって、知り合い同士という間柄だ。

 そしてその日、その空木先輩からの伝言があった。全体何の用事だろうかと思いながら指定された場所に行ったら、先輩本人の姿はなく、唖然とした。と思うと、メモが残されているのに気がついた。


『すまん、急用だ。申し訳ないけど、用事は無し。埋め合わせは必ず。』


 といういかにもな走り書きに先輩の署名付きだった。思い切り肩すかしをくらった形になって、少々憮然とした気持ちでメモを取り上げて、


『H1‐3.2.2』


 という落書きがそのメモの下の机に書いてあるのに気がついた。なんてことのない意味もない落書き。そう思ったが、なぜか気になって、しばし眺める。先輩とはメモと比べると筆跡が違う、気がする。先輩の走り書きは続け字のような感じで曲線が多用されている印象だが、落書きの方は、少々角ばった、なんだか癖の強い字だ。先輩とは関係のないものだ、そう思いながら見ていて、ふと気がついた。

 高校一年3組……の、2行2列?

 どうせ暇だ、とそんな気持ちが先立って、すぐ近くにあった1-3の教室に行ってみた。


 はたして、その机にも同じ筆跡での落書きがあった。


『J3‐5.3.4』


 この落書きを発見した時点で、俺は奇妙な興奮を覚えた。俺は落書きの導くまま、校舎内を歩き回ったのだ。ゴールに何があるとも分からない。

 まあつまり、宝探し、のようなもの、というわけだ。

 そして、


『屋上』


 屋上へのルートは二つ。校舎外の非常階段を上るか。高校校舎内の階段を登り切るか、だ。

 近い方、校舎内ルートを選んだ。



 屋上への階段なんて、誰も使わない。だからそこにはうっすらとホコリが積もっていて、俺の足跡だけがくっきりと残っていく。誰もここを通っていないのだろう。

 夕方が近い。階段の窓から見える外は、うっすらと赤みがかってきた。俺はいったい何をやっているんだろう。まるで子供ガキみたいに。だけど、面白いのも事実だ。落書きの指示も、『屋上』とだけ。広い屋上のどこに次の落書きがあるのかを探すのは至難の業だ。ということは、屋上に行けばすぐわかるような、そんな『宝』が屋上にあるという可能性が高いということでもある。今回がゴールだとすれば、この少しの労力は無駄骨でもやってみて損はない、とそんな風に考えた。ゴールには何があるのだろう。

 そして、扉まであと少しの、屋上へ通じる扉の前にある踊り場、ほこりまみれのその場所に、足を踏み入れた。


「――え?」


 先客がいた。

 うっすら汚れた、白いリノリウム、白い壁。ホコリの舞う空間。夕暮れの日差しが斜めにさしかかり、踊り場全体が、まるで白いキャンパスに水彩の朱を塗り広げたような色に染まっている。

 その中に、『彼女』はいた。制服姿で、膝を抱えてうずくまり、長い巻き毛を背に流して、うつむいている。泣いているような姿勢だ。俺はその光景に虚を突かれ、黙り込んでしまった。

 静寂の中、その女生徒の寝息だけがゆっくりと響いていた。


「くー……すかー……」


「……って、寝てんのかよっ!」


 思わず突っ込んだ。


「はっ?!」


 がばと女生徒が顔を上げ、きょろきょろとあたりを見回し、俺に気がついて、俺を見た。


「……ども、おはよう」


 女生徒は、寝ぼけた顔でそうのたまった。おそろしく軽い口調である。

 さっきまでのどこか神秘的な儚い印象は、夕暮れの光が見せるまやかしだったらしい。


「……あんた、誰」


 俺は冷静に、そう尋ねた。無視して帰ってもよかったが、一応起こしてしまったわけだし、ちょっとくらいは付き合ってやらないと、罪悪感が残る。とりあえず話題の糸口にと、まず名前を尋ねることにしたのだ。知らない顔だったから。


「……え?」


 ぎょっとした顔で目を見開く女生徒。そしてそのまま固まる。どうやらまだ寝ぼけているらしい。相手にしなくてもよかったかもしれない。ちょっと後悔し始める俺である。


「……もしもし?」


 俺は固まった女生徒に声をかける。女生徒はそれでやっと硬直から脱したようだ。気を取り直すように軽く頭を振り、そして立ちあがって俺と視線を合わせた。


 低い。

 俺はどちらかと言えば平均的かちょっと高いくらいの身長だが、この女生徒の背はかなり低いように思えた。


「はじめまして。君は誰だい」


 答えより前に問い返された。なぜだ。

 なんだか調子が狂う。変な奴。俺は答えるのをいったん保留して、改めて女生徒を観察してみた。


 異様に目つきが悪い。巻き毛は背に流れ、腰ほどもある。口元をにやり、という感じに釣り上げて、斜め下から俺を見上げている。芝居がかった口調、こんな所でグースカ寝ていたという奇行、そして悪だくみでも思いついたような表情。

 第一印象、『変な女』。

 リボンの色を見ると、赤色。あれ、同級生? こんなやつ、いたか?


「……人に名前を尋ねるときは、自分から名乗ってくれよな」


 相手のペースに吞まれかけているのに気がついて、そう返した。つまらないことだが、人間関係の立ち位置で会話の主導権というのは重要なのだ。

 正直、俺こいつに主導権とられたくない。

 そんな俺の思惑を知ってか知らずか、女生徒は胸を張ってなにやら偉そうな態度で答える。まあ、張っても胸は無いようだが。


「私の名前は新荷冬芽あらたに・とうめという。新しい荷物に、冬に、植物の芽と書く。年齢その他すべて不詳」


「……。俺は穂高永久ホダカ・ナガヒサ。年齢不詳って何だよ、二年だろ?」


 と『新荷』の胸元のリボンを指さす。

 新荷はそれを見下ろしてから、にやりと笑う。


「ああ、これかい? 別に同級生じゃないよ。これは日替わりカラーなのだ。全色持っているんでね。その日の気分で変えるのだ」


 なんじゃそら。二年の気分って何だ。

 ツッこみかけて思いとどまる。変人にかまっててもきりがない。

 ついでに、当初の目的も思い出した。


「俺は屋上に用があるんだが。そこ、どいてくれるか」


 と忙しいことをアピールした。

 新荷は自分の背後にある、屋上へ続く扉を振り返った。


「いいけど」


 と新荷はどきながら、言う。「でも、開かないよ」


「え?」


 手を伸ばし、ノブを回してみる。ガチャガチャ、かたい音が返るだけで、動く気配は無い。


「そうか、鍵……」


 失念していた。屋上へはみだりに生徒が立ち入らないように、鍵が付いているのだ。

 屋上に行けないのなら、ここまで来た意味は無い。


「それで、どうするんだいトワ君。帰る?」


 後ろから新荷が聞いてくる。


「いや、トワってなんだ、トワって」


 自分の名前として何やら謎のあだ名をつけられて、俺は即座に突っ込みを入れた。

 対して新荷は平然と、自慢げに、


永久ナガヒサと書いてエイキュウと読む。で、永久にはトワという意味がある。読みもトワと読めなくもない。だから、トワ君。ま、いわゆる一つの愛称ニックネームというやつだ。呼び安かろう?」


 と偉そうに言ってくる。


「いらん」


「まぁそう言わずに」


 ニヤニヤと言い募る新荷。なんなんだ、こいつは。……付き合いきれない。


「帰る」


「うんっ? 何だなんだ、せわしいな。もっとゆっくりしていけばいいのに。狭い日本そんなに急いでどこへ行く」


「家だよ。あんたもさっさと帰ったらどうだ」


 と窓の外、もう夕暮れも深い空を指差す。


「家の人が心配してるだろ」


 新荷はニヤニヤ笑い、


「あんたなんてひどいねぇ。私にはちゃんとした名前があるのに」


「そいつは失礼したな、新荷さん」


「冬芽ちゃんと呼んでくれると嬉しい」


「断る」


 いけずだ、と新荷は真顔で抗議した。

 俺は呆れた視線を返すに留めて、その場で回れ右した。変人にはかかわらないに限る。



 帰り際。

 そういえば、屋上へはもうひとつのルートを通っても行けたなとか。

 新荷のあの特徴的すぎる容姿に、見覚えがないなとか。

 どうして“ナガヒサ”が“永久”だと分かったんだろう、とか。

 そんなことを考えながら、家に帰った。




 翌日。

 昨日のことを謝りに、空木先輩がやってきた。


「いや、ごめんな、穂高」


 色の抜けた髪はぼさぼさ、顔色もあまりいいとは言えず、さらに何のつもりか前髪を伸ばしていて目がほとんど隠れているので表情が分かりにくいというかはっきり言ってかなり不気味だ。

 しかし、どうしてだかやたらめったら人脈が広い。あまり人付き合いに積極的な印象がないのだが、下手な政治家よりよほど沢山の人と知り合いなのだ。

 俺は苦笑気味に、


「別にいいっすけど。何の用だったんすか?」


「いや、私用なんだ。……本当ごめんな、振り回して」


 振り回すといえば、空木先輩なら知っているかもしれない。


「そういや、先輩。新荷っていう奴、知ってますか?」


「アラタニ?」


 先輩は俺を見返し(といっても、目は見えないけど。)、当然のように、


「ああ。知ってるよ。あの人がどうしたんだ?」


「いや、昨日たまたまそいつと会って」


 空木先輩は口の端を上げて、


「けっこういい人だろ?」


 ……どこが?


「なんか……変な人でしたね」


「面白いだろ?」


「面白いっていうか……」


「ま、初めて会った時はそう思うだろうな。でも、で会ったのも何かの縁だし、よくしてやってくれよ。そのうちにあの人のよさも分かるさ」


「……先輩、妙に新荷さんの肩を持ちますね?」


「はっはっは、さてどうだろうね」


 空木先輩はあいまいに肩をすくめ、

 ―――と。


 キーンコーンカーンコーン……


「っと、やべ。じゃあな、穂高。よろしく」


 と行ってしまう空木先輩。


「って、何がよろしくですか!」


 思わず叫び返すが、先輩はあっという間に行ってしまった。


(よろしく、といわれても)


 仕組まれている、という気がした。

 もちろん、気のせいだろうけど。



    ※


 数日後。昼休み。

 俺は基本的に食事が早い。だから昼休みのほとんどが自由時間だ。たいていはその時間は宿題にあてるが今日は宿題がない。友人は皆食堂で、俺は暇を持て余していた。

 こういうとき、校舎内をうろつく。

 眠気覚ましと気分転換を兼ねた小運動、というと聞こえはいいが、単に暇なだけである。

 当てもなく歩き回っていたが、ふと思い当って、屋上への階段へ行ってみた。


 埃の積もった階段を上る。自分の足跡を見ながら、上がる。白い空間、人の気配は無い。

 ……って、何を期待しているんだ、俺?


 頭を振り、踵を返そうとして、目の端に人影が見えた。階段の上、踊り場の奥、扉の前。

 うずくまる、巻き毛の女生徒。

 前回と同じ姿勢だった。

 気配ないのかこいつ。


「新荷?」


「――んあ?」


 声をかけると、新荷は顔を上げた。目を瞬き、俺を認めて、


「おぉ、トワ君じゃないか。奇遇だねぇ」


 と皮肉げに口元を歪める。

 特徴的なまでの目つきの悪さ。そして、芝居がかった口調と低めの声。前回と変わらない調子だった。


「なんでまたいるんだよ、……センパイ?」


 なんとなく文句をつけたくなってそう言った。新荷の胸元のリボンの色は青色。三年生の色だった。本当に別の色を持ってるらしい。


「いちゃ悪い?」


「別にいいですけど。昼はもう済んだんですか?」


 わざと敬語を使ってやるが、新荷は変わらぬニヤニヤ笑いだ。


「私は食べない主義でね」


「体悪くしますよ、ダイエットですか?」


「別に、そんなんじゃないさ。 それより、トワ君、私に一体何の用かな?」


「何の用もないですよ。たまたま通りかかっただけです」


「ヘェ? 本当にたまたまか?」


 ニヤニヤと、新荷は繰り返す。


「本当も何も」


「たまたま、こんな所に? 行き止まりの袋小路だぜ、ここ」


 あ?


「……悪いですか?」


「悪くなんかない。むしろ――」


 とここで口の端を釣り上げて、新荷は俺を見上げる。


「上々、だね」


 その顔に浮かぶ表情は、やはりニヤニヤ笑い。

 ふと思う。

 もしかしてこいつ、ニヤニヤ笑いが普通の笑顔なのか?


「ま、せっかく来たんだ。用は無くとも、ゆっくりしていってくれ」


 新荷は言う。


「まるでここが自分の場所のように言いますね?」


 俺が揶揄すると、新荷は平然と、


「公共の場所には、先にいた者が主権を握るという暗黙の了解があるだろう。電車の椅子しかり、花見の場所取りしかり、ね。 この場所は私の方がトワ君、君よりも先に居たんだよ。ずっと前にね。だからここは一時的とはいえ、『私の場所』なのさ」


「譲り合いの精神は?」


「譲って欲しいと言う人がいれば替わる。トワ君、譲ってほしいのかな?」


 俺は肩をすくめ、


「遠慮しますよ」


「ふむ、レディ・ファーストか。いい心がけだね」


 レディ、か?

 俺は思わず新荷を見やるが、新荷は俺の視線に気づいた様子は無く、続ける。


「しかし、レディ・ファーストというのも奇妙な習慣だね。そう思わないかいトワ君」


「紳士の振る舞い、時代遅れだけど別にいい習慣だと思いますよ? 女性であるセンパイにはお得な習慣じゃないですか?」


「とんでもない。考えても見たまえ。何十メートルも行列ができていてそこに一人の女性が並ぶ。レディ・ファーストが発動すれば、先へ回されるだろ?」


「それこそラッキーじゃないですか」


「浅はかだねぇ、トワ君」


 嬉しそうに、楽しそうに新荷は言う。


「その場合、その女性は何十人という人たちの無言の重圧を受けるのだよ?」


「そりゃ考え過ぎですよ。実際としてそんなことは起こりません」


「想像力の乏しいこと。それじゃ色々と困らないかい」


 ほっとけ。


「想像力といえば、トワ君。キミ、物語は読むかね?」


「普通ぐらいには。って、『かね』って、どこの社長ですか」


「人の言葉尻などほっておきなさい。突っ込み禁止。……単なる癖だ。あと、普通という単語には少々引っかかるが、今はまあいいや。長くなるしな。 物語の正しい読み方ってものについてちょっと話してやろうと思ってね」


「正しい? 日本語で書いてあるものは日本語で読むとか?」


「君に聞いた私が馬鹿だったか……」


 嘆かわしい、と小さく呻いて、大仰に顔を片手で覆う先輩。


「読み方、のレベルを上げてくれ。作者を読むか、主人公を読むか、筋を読むか、世界観を読むか、といった意味で言ったんだ、私は」


「……そいつはどうも、失礼シマシタ。私が至リマセンデ」


「心がこもってないぞ」


 注文をつけられた。俺はやや憮然とし、


「で、その高度な読み方がどうしたんスか」


 と投げやりに問い返す。


「うむ。 つまり、一つの物語に対する読者の姿勢について、何が一番正しいのか、楽しめるのか、ということについて考えたんだ」


 心底どうでもいい、そう思う。

 座って読むか立って読むか、じゃないですか。という言葉は呑み込んで、


「人それぞれっしょ?」


「それは結論の先出しだよ、トワ君、早い男は嫌われるぜ。ほら、よくいうだろ、この小説はストーリーがいい、とか、主人公へ感情移入できるとか、作者の苦悩が表れてるだとか。そういう評価を受ける物語を、その味、というものを最も味わえる視点で、初読はしたいものだ、と私は思う。初読はつまり未知だ。未知に対する第一次接触は一番新鮮だから、その時を逃したくは無い、そう思わないかね、トワ君」


 思わない。


「そう小難しく考えなくても、初めて読んだときに最高だった本が、つまり、自分の最高の本になるってことでいいんじゃないスか? 面白くない本っていうのは、何度読んでも面白くないのと同じで、個人差ってのはそういう読み方の差も含めてるってことでしょう?」


「だからさ、トワ君。個人差以前の話だよ」


 新荷はじれったそうに腕を振り、力説する。


「私が言いたいのはね、すべての本を最高の本にしたいって話なんだ。文学全集は、つまり作者を読むためのものだ。だけど作者を読むことでその話は詰まらなくなってしまうことも多いだろう? 『吾輩は猫である』を『夏目漱石が書いたもの』として読むか、『ネコが人間を風刺する話』として読むかで印象は変わるじゃないか。そうだろう?」


 俺はその剣幕に押されつつ、


「お、おぅ……」


 と相槌じみたものをかろうじて打つ。

 新荷はそれで我に返ったらしい。


「こほん」


 とわざとらしく口で咳払いをする。


「すまないね。少々熱が入りすぎた。図書部の人間だったもので、本のこととなると我を忘れてしまうんだ。忘れてくれ」


 と口の端を上げてニヤニヤ笑い。……照れ笑いか?


「はぁ、図書部?」


「忘れてくれ、と私は言ったんだがね、トワ君?」


 新荷は首を軽く傾げて、俺を睨み、もとい、見て、


「人のちょっとしたお願いくらい親切心でもって受け入れてくれよ。減るもんじゃなし。あと、もうすぐ鳴るぜ、十三秒だ」


「え?」


「チャイムだよ。あと十一秒で昼休みが終了だ」


「なにっ」


 俺は時計を探してあたりを見る。無い。階段の踊り場なんかに時計が置いてあるはずもなく、新荷の腕にも時計は無い。腕時計の習慣がないので、時間がわからない。

 そういえば次の時間は時間に厳しい理科の授業だ。と思った時、


 キーンコーンカーンコーン…


 鳴った。

 俺は挨拶も残さずあわてて階段を駆け降りた。


A面B面交互に話が進みます。

少しややこしい作りですが、どうかついてきていただけると嬉しいです。


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