天狐様の旦那様
「だんなさまー!」
「えっ……ちょ!」
幼き頃、神社の奥の空き地は俺達の遊び場だった。
だれかと一緒に野球とか、かくれんぼとか、色々なことをして遊んでいた。
その空き地に行くために通っていた神社は、よくある普通の神社だった。
巫女も神主にもあったことがないが、ただの神社だと思っていた。
なのになんで、その神社にいた獣耳美少女に抱きつかれるという良く分からない状況下に陥っているんだ?
よし、冷静になろう。少し前の状況を思い出すんだ!
小さい頃遊んでいた場所の写真を撮ってこい!
先生から命じられた宿題を果たしに、この神社にやってきた。
「懐かしいなあ……」
俺はゆっくりと参道を登っていく。階段を登りきり、顔を上げると本殿が見えた。
「……」
声が出なかった。
一度目にしたら、誰もが見続けてしまうような美少女がそこにいた。
まず、長く透き通るような銀色の髪。髪の上には銀色の狐耳……狐耳?
どういうことだ?と考えていると、その美少女と目が合った。
その瞬間に美少女は目を輝かせて俺に近づいてきた。
否、抱きついてきた。
「だんなさまー!」
ということで冒頭に戻る。と。
「だんなさま?」
俺の動転した姿に首を傾げる彼女は凄く可愛く思う。
いや、それはともかくいきなりだんなさまとか言ってくる女性とか地雷臭しかしないけどな。
「……えーと、なんで俺がだんなさまなんだ?」
聞くべきことはこれじゃないだろうが、気が動転していた俺はそんなことを聞いてしまった。
「だって、みーくんでしょ?約束忘れちゃった?」
「……何故その呼び方を知っているんだ?」
それは幼き頃、あの子だけが言っていた呼び名だ。
……あの子?あの子って誰だろう……
「みーくんひどいよー。私のこと覚えてない?」
「狐耳美少女なんて俺の知り合いなんていない」
「みーくんが私のことを美少女って、美少女って!」
彼女は難聴スキル持ちなのかもしれない。最近耳かきしていなかったのかな?
どう考えても大事なことはそこじゃない。
「ごめん、言い方が悪かった。俺はお前のことを知らない」
「……分かった。やっぱりそうだよね。じゃあ」
抱きついたままの彼女はいきなり、俺の唇にキスをしてきた。
その瞬間、俺に何かが流れてきた。
「みーくん、ごめんね。ちょっと失敗しちゃった。そのせいで、みーくんに私から会えなくなっちゃった。だから私のこと、探し出してね。その時には……」
そうか。そういうことだったのか。失敗というのは、あれだったのか。
「見つけたよ。くーちゃん」
「えへへ。思い出してくれたね」
今度は俺からくーちゃんにキスをした。
今までどうして、見つけれなかったのか、どうして見つけれたのか、どうして忘れていたのか分からないけど。
久しぶりの再開を喜ぼう。
……それがハチャメチャな日常の始まりの合図だと、俺は気がつかなかった。
気が向いたら書き直して連載するかも




