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アイアンロープ

作者: mo56

 一体何を持ってして、人は人であるのか私には未だによくわからないが、地に足を着けているということが、その証明であると、簡単に結論を付けている。


 時折、砂嵐が吹き荒れる荒野にて、私は自身の小さい体躯を地面に伏せながら、前方に佇む教会を眺めていた。

 その教会は荒野の中にぽつんと建てられており、周囲に建造物はなく、もしくは、建造物であったのだろう瓦礫の山を残すのみであった。

 何故このような場所で私が身を伏せているのかと聞かれれば、その答えは周囲の音が教えてくれる。

 数十分前から、当たりには乾いた銃声が鳴り響いており、それに続くように時折誰かの悲鳴が聞こえてくる。

 そして、悲鳴が終わると、それをかき消すかのようにまた銃声が響く。

 悲鳴の主たちは、私の遙か前方の教会の入り口で倒れている。彼らはそれなりに同業者の間で名の知れた賞金稼ぎ達だ。私もそれほどではないが、一応彼らと同じ仕事をしており、現在は少々離れたこの位置にて、状況を見守っている。

 

「もう5人ほど喰われたな」

ふと私の耳元で、同業者が無線で呟いてくる。

 彼は私とは違う位置にて、私と同じように状況を見守っているようだ。

 「狙撃手相手に無謀に突っ込むからよ...」

 私はその同業者の声に対して、悲観的に答えた。

 教会に潜み、同業者達を血祭りに上げているのは、多額の賞金が付いた殺人犯である。

 だが、ただのナイフを振り回す程度のゴロツキではない。

相手は射程の長いライフルを所持しており、そのライフルについての訓練も習熟している者である。

 教会の屋根にある鐘が吊られている位置から、こちらを見下ろしては、教会に近づく者があれば、容赦なく射撃を加えてくる。

 「だが、連中だってスナイパーを相手にしたことぐらいあるだろ?」

 「生身の狙撃手なら...ね。奴は軍用よ」

 「じゃぁ、俺たちにだってすぐに撃ってくるだろ?場所だって既に知っているだろうに」

 「弾を節約したいのよ。それか面白がってるんじゃない?」

 「サイコ野郎め...」

 無線越しの同業者はそう吐き捨てると、無線を切った。

 

 今、鐘の側にて居座っている賞金首は、元々軍にて熟練の狙撃手ということであったそうだが、数年前にとあるもめ事を起こして、軍から追放されたらしい。

 詳しい素性など私たちのような賞金稼ぎ達は知らないが、既にわかっていることは5・6人ほどその腕前で殺しているらしい。

そして、それは今の同業者のスコアで二桁になったところだ。

 私は荒野の地面にて、薄汚れた毛布を被り、せめてもの迷彩効果を期待していたが、奴が軍用ともなれば、赤外線視もできるであろうか、全く無駄である。

 しかも、こちらの得物といえば、安価な事だけが取り柄の弾数も少ない短機関銃である。

 とてもじゃないが、狙撃手と渡り合える装備ではない。

 しかし、それでも当初のうちは同業者の数に任せて、教会へと攻め入れば、多少の損害は出ようとも、確実に奴を殺せると思っていたのが、大きな間違いであった。

 既に5・6人殺したサイコ野郎に、捕獲依頼など出るわけが無く、勿論殺害許可が出ている。

 この荒野にて司法機関など無いも同然で、善悪を決めるのは勝者の弾丸のみである。

 「あと何人残ってる?」

 私は無線で先ほどの同業者に話しかけた。

 すると無線越しに彼が小声で死体の数を数えているのが聞こえてくる。

そして、彼は数え終わると

 「5人殺されてるからな。一応、ヴィックスが生きてるようだが、綿が出てる。鳥の餌だ」

 「そんなことは聞いてないわ。あと何人いるの?」

 「俺とお前の二人っきりさ」

 「...最高のデートね」

 私はうなだれつつ、無線を再び切った。

 最悪の状況であった。

 逃げようとして毛布をから抜け出そうとすれば、すぐさま教会から最初で最後のお目覚めが飛んでくるだろう。

 二人で打って出て倒せる相手でないことは、先ほどの5人がよく証明してくれていた。

 確か、無線の向こうの彼も私と同じ得物であったはずだ。せめて煙幕の一つでもあればいいとも思ったが、やはり赤外線視の前では効果がない。

 死へ対する恐怖が無いわけではないが、長いことこのような仕事をしているせいか、そのような感覚よりも、現状に対して緊張する感情の方が強い。

 僅かに私の体は震えているようだが、これは興奮からのものであるということは、大分前から知っている。

 「...あいつはどうした?」

 私が頭を抱えだした時と同時に、無線から彼の声が響いた。

 「あぁ...後から来るって言ってたけど...」

 私はふと、もう一人の同業者を頭に思い浮かべた。

 喧しい馬鹿だが、頼りにならないわけではない。

 「来てくれりゃ囮にはなるんだがな」

 「そうね。囮にはなるわ」

 私と同業者は、少々この現状にしては、ひどく陽気な調子で言葉を紡いだ。

 

 

 「呼んだかっ?!」

 いきなり、二人の無線に誰かが割り込んできた。

 いや、誰かというのは正確ではない。

 私は噂をすれば影であると思った。

 「ちょうどてめぇの話をしてたところさ。修理は済んだのか?」

 「あぁ!絶好調だぜ!」

 私の耳元で鼓膜を破るような彼の声が響き、思わずイヤホンを外してしまいたくなるほどだった。

 しかも、声だけではなく、バイク特有の爆音まで声に混じっている。

 「ターゲットはどんな奴だ?!野郎か?女郎か?それとも鉄屑か?!」

 「野郎と鉄屑のミックス」

 「なんだって?聞こえねぇぞ!!」

 喧しい彼は己の乗っているバイクの爆音で、会話すらままならない様であったが、そんなこと些細な問題であるらしく、しかも、その爆音は無線をとっくに投げ出した私の耳にもよく聞こえた。

 しかも、状況を把握する前に、こっちにたどり着いてしまったらしい。赤外線視をできる筈なのだが、彼はバイクに乗ったままこちらへまっすぐ向かってくるのが見えた。

 「おっしゃ!見えたぞ!教会の前に寝転がってやがる!ミンチにしてやるぜぇっおいっ!!」」

 「それはアンナだよ。馬鹿」

 そんな会話が投げ捨てたイヤホンから聞こえたと思えば、既に喧しい彼は私のすぐ近くまで着ていた。

 

 真っ黒く何も装飾も施されていない無骨なオフロードバイクに跨り、その乗り手の体もバイクと同じように真っ黒く出来ていた。

 乗り手の顔には、普通の人間にあるはずの口や目の様な部位は存在せず、ただ黒く頑丈そうなワイヤーが幾重にも巻かれ、それが体全体を構築し、まるで細い棒人間に、針金を巻きまくって、なんとか人の形を作った図工作品の様であった。

 そして、腰には銃身を短く切り詰めた散弾銃をベルトにぶち込んで、肩から腰にかけ弾帯を掛けており、それ以外の物と言えば、ブカブカのミリタリーパンツと幾らかの弾薬や小物が入るためのポケットを備えたライダージャケットを着ている程度だ。

 「なんだよ!?ターゲットじゃねぇのかよぉっ!!」

 彼は私の10m程横でバイクの前輪を振り上げて、私を押しつぶそうとしようとした辺りで、やっと目標が同業者である私だと気づき、口のない顔から叫び声を上げ、バイクを自身の体ごと横倒しにする形で無理矢理停止させた。

 「目標はあっちよ。馬鹿」

 私は既に意味のなくなった迷彩毛布を脱ぎ捨てると、教会の屋根を指さした。

 「あんだよ!あっちか!?」

 彼は叫びながら、バイクを立て直そうとしながら、また叫び声を上げる

 「で!ターゲットはどんな奴なんだよ!?」

 私は彼に対して不快なモノを感じたが、相手も同じだったらしく、次の瞬間、彼の腹部に衝撃が走り、彼は横に吹っ飛んでバイクを飛び越した。

 相手としてはせっかく多数の賞金稼ぎを敵に回しながらも、圧倒的な状況を楽しんでいたようだが、私の目の前の彼が、愉しい死の静寂を破ったことが、大変気に障ったらしい。

 

「...スナイパーかよぉ!!」

 だが、喧しい彼はなにも無かったかのように立ち上がると、再びバイクを立て直した。

 彼の腹部には大きい風穴が空いているのだが、それは彼の体の他の部位がすぐに覆い隠した。

 「バイクに当たらなくてよかったわね」

 「全くだ!修理代がまだだからなっ!」

 「払ってないの?」

 「当たり前だろぉ?!コレが終わったら賞金で倍返しだよっ!」

 彼は怒りと笑いを織り交ぜた異様なテンションで、妙な笑い声をあげた。

 教会に潜む狙撃手は、それを見て恐怖を感じるだろう。

 なにせ、腹部に命中したはずなのに、笑い声をあげて何事も無かったかのように目標が立ち上がったのである。

 「修理代どころか、あんた、そのバイク自体の金だって払ってないでしょ?」

 「あぁっ!そのせいで今も店員に追われてるんだよ!」

 喧しい彼はそう言って、バイクのエンジンを掛けながら、背後を指さした。

 彼が指さした方向の遙か彼方に、土煙を上げつつこちらへ向かってくる集団が見える。

 彼は店員と言ったが、あれはどうみてもジャンキー連中だろう。

村や町を荒らし回る荒くれ者達だが、賞金首とはまた違う。

 彼らはバイクを持っていて、それを彼が買おうというなら、客と店員との関係が成り立っている。

 彼が跨っているバイクは盗品に違いないだろうが、そんなことをイチイチ気にする奴などこの世界にはいないだろう。

 「値下げしてもらったんだがなぁ...その金すら無かったってオチさ!」

 「同情するわ」

 「誰にさ?」

 「連中に決まってるじゃない」

 私はそう言いながら、短機関銃を携えると、小さい足で大地を蹴って彼のバイクへ飛び乗った。

 その際に私の足下に銃弾が通り過ぎた気がするが、気にする余裕など無かった。

 「おっしゃっらぁっ!!突っ込むぞ、馬鹿野郎!」

 エンジンを素早く掛けると、喧しい彼は中世の騎士の如く、片手にショットガンを天高く掲げて、アクセルを強引に捻った。

 私の体は喧しい彼の背中に寄り添い、彼の体を遮蔽物として、短機関銃の銃口を教会の鐘へ慣れた手つきで向け、幾度か引き金を引いた。

 バイクの爆音より、銃声の方が幾らか勝っていた。

 放たれた銃弾は勿論、正確なものではないが、鐘に潜む狙撃手に牽制するには十分な効果があった。

 

 鐘に潜む狙撃手は、いきなり突っ込んできた相手に、異様な恐怖を感じつつも、その足を止めようとして、黒煙の叫び声をあげるバイクに狙いを定めたが、それは乗り手の背後からの射手の牽制射に邪魔された。

 幾ら自身が軍用の強化装甲を纏っていようとも、銃弾を受けることには本能的な恐怖がある。

 その恐怖に躊躇しているうちに、バイクは衝突する形で教会の扉を破壊して中へ突っ込んでいった。

 

 バイクが教会の中へ突っ込んだ拍子に、私は空中に投げ出されてしまった。そして、次に自身の体に強い衝撃が襲ったが、致命傷ではなかったため、私は教会の中で少しうめき声を上げつつもヨロヨロと立ち上がった。

 手にはちゃんと短機関銃が握られている。

 「さっさとしろや!二階だ二階!」

 少し衝撃のせいでぼんやりとした頭に、喧しい彼の声が響きわたる。その方向の方を見ると、彼は教会内の鐘へと続く二階への階段へ足をかけていた。

 私はなんとか意識を保ちつつ、喧しい彼の後に続くが、彼と私には大きい身長差があり、とてもじゃないが、彼の歩幅にはついていけない。

 「待ってよ。ゆっくり...」

 私は彼にゆっくり歩くように呼びかけたが、彼は私の声に耳を貸す事なく、さっさと階段を駆け上がる。

 別に私はピクニック感覚で彼に呼びかけているわけではない。教会に立てこもっている賞金首が、なにも階段に仕掛けずに鐘に潜んでいる訳がない。

 確実に何かしらの罠を仕掛けているはずだ。

 「うるせぇ!さっさとついて...」

 その罠について私は彼に注意しようとしたのだが、私が声を発する前に、案の定、彼は階段の足下に仕掛けられたブービートラップを引いた。

 何かのコードを強引に足で引きちぎったらしい。

 引きちぎった瞬間に、喧しい彼の足下で小規模な爆発が起こった。どうやら手榴弾のピンとコードを用いた、簡易的なトラップのようだ。

 この手の罠は簡易的なものではあるが、威力は十分であり、生身の者なら足が綺麗に吹っ飛ぶ。

 だが、喧しい彼の足は吹っ飛ぶことなく、原型を留めている。いや、正確には一度ちぎれ飛んだが、彼が転倒した際に、先ほどと同じように他の体の部位がそれを補った。

 「...言う前から引っかかっちゃ世話無いわね」

 私は呆れながら喧しい彼の愚行に、頭を抱えながら、彼の元へ走り寄り、辺りを見回して他の罠がないか確認する。

主に今のようなブービートラップは足下に仕掛けられる場合が多く、私のような小柄な者には目に付きやすい。

 「畜生!舐めた真似しやがって!ぶっ殺してやる!」

 しかし、喧しい彼は怯むことなく、ショットガンを構え直すと、私の制止を振り切って再び、階段を駆け上がっていき、数秒後にまた同じトラップに引っかかった。

 

 先ほど下に進入した相手は、3度ほど狙撃手の仕掛けた罠に引っかかったらしい。しかし、ライフル弾で死なない手合いが手榴弾でくたばる訳もないらしく。

 全く慎重さに欠ける喧しい足音は、教会の鐘がある屋上へと近づいてくる。

 それに対して、狙撃手は多少慌てたが、鐘のすぐそばで身を伏せて、階段を上りきった相手の頭をぶち抜いてやろうと、狙撃銃の狙いを定めつつ、片手で階下から向かってくる相手に先に仕掛けようと、ピンを抜いた手榴弾を素早く投げた。

 迫りくる足音は手榴弾が投げ込まれたことに気づいたらしく、一旦止んだが、次の瞬間に手榴弾が炸裂した。

 階段は一瞬にして爆炎に包まれ、狙撃手は黒煙の中から、瀕死の相手が飛び出してくる姿を想像してほくそ笑んだ。階段には障害物が何もないため、手榴弾から身を守る術が何もない。

 仮にも無事であるはずがない。

 自身の纏った強化装甲でさえ、手榴弾の直撃に耐えられるわけがないのだ。

 そして、狙撃手は黒煙から出てくるであろう相手を、獲物を待ち伏せる猟師のように、満足げに待った。

 

 「...ひゃはぁっ!!」

 だが、その狙撃手の浮かべた笑みは、黒煙から飛び出した叫び声に打ち消された。

 相手は無傷で、黒煙の中から散弾銃を片手に構えたまま飛び出してきた。

 突然の凶行に、狙撃手は引き金を引くのが一瞬遅れ、それが致命的なミスとなった。

 今まで一度も狙いを外したことはなかったはずだが、この時ばかりは、放った銃弾は相手の銃を携えていない肩に命中し、次に相手は狙撃手の頭に向かって散弾銃を容赦なく発砲した。

 銃撃戦において、身を低くし伏せることは重要であったが、このときはそれが災いし、狙撃手の頭は近距離で相手の凶弾の餌食となったのである。



 黒煙にむせ返りつつ、私が教会の屋上へたどり着くと、そこには喧しい彼が、狙撃手を打ち倒し、早速相手の身ぐるみを剥いでいるところであった。

 仕事柄、賞金首の所持している物は、その賞金首を殺した物のであり、私たちに仕事を回してくる依頼主も、特別な場合を限り、それを許可していた。

 「結構たんまりもってやがる...一枚二枚...」

 喧しい彼はこのときばかりは、静かに狙撃手の死体からくすねた現金を確認している。

 「足りそう?もう連中、教会の中に入ったわよ」

 私は彼に呑気な声を掛けつつ、屋上から下を見下ろし、彼と同じように銃火器を携えて見るからに無法者だという自己主張が激しい連中が、大挙して教会の入口に殺到しているのが見えた。

 「うるせぇ!今数えてんだろうがよぉ!!」

 私が辺りを見回しつつ、彼に近づいて話しかけると、彼は鬱陶しそうに私を手で追い払った。

 「くそがっ!2万たりねぇ!おい!アンナ!金出せ!金!」

 彼はくすねた金を数え終わると、私に掌を差し出してきた。

元はといえば自分の責任であるはずだが、今ここに彼にバイクを売ったジャンキー共が駆けつけて、金が無いことを知れば、私と彼をぶっ殺して、バイク代と修理費を用立てることだろう。

 「ちょっと待ってよ...2万?そのぐらいアンタあるでしょ?」

 「ねぇんだよ!いいから出せ!」

 彼は口も目も耳も無い頭をしているが、必死さは十分に伝わってくる。幾ら鋼鉄の体を持ってしても、金には勝てないようだった。

 「無いわよ。仕事にお金持っていかない主義だもの」

 「このアマッ!」

 私は自身よりも数倍背の高い彼の前で、しっかりと小さい二本足で立って、金はないのだと腰のポーチを逆さに振って、証明してみせた。

 だが、彼はそれでは納得せず、強引に私を勢いに任せ押し倒し、身ぐるみを剥ごうとした。

 本当のところは幾らか彼の要求する金が、衣服の内側に無いわけでもなかったが、彼に渡す義理は無い。

 

 もし、その時にジャンキー連中が怒声混じりに屋上へ踏み込んでこなかったら、面倒なことになっていただろう。

 彼らは、喧しい彼が金の無いことは知っていたが、教会の入り口に転がっている同業者の死体からはぎ取った物と金で幾らか満足してくれたらしい。

 同業者のうち、腹部から綿を出していたヴィックスは、もう長くはないと、自ら命を絶とうとしたが、自身の拳銃が脳を破壊する前に、教会にたどり着いたジャンキー連中に応急処置を施され助けられたが、その代わりに丸裸にされているのが、屋上から確認できた。



 「畜生!有り金全部持っていきやがった!」

 喧しい彼は全財産を受け渡して手に入れたバイクの後ろに私をちょこんと乗せながら、荒野を疾走している。

 私たちから後方に、同業者のホバートラックが見える。

 教会へたどり着いた時は荷台に同業者を大勢乗せていたが、今は運転手と負傷したヴィックスの二人だけである。

 「いいじゃない。銃とバイクが残っただけ、下手したらリンチものよ?」

 私は喧しい彼の文字通り大きい背中に身を預けながら、荒野を見回していた。

 あと数十分ほど揺られれば、喧しい彼と同棲している廃墟同然の家に着くはずだ。

 バイクの揺れは思いの外激しいが、それは彼が苛立っており、運転がとても荒い為だ。

 普通なら小柄な私は荒野に簡単に投げ出されてしまうほどの揺れであるが、それを彼の体から伸びている黒いコードが、私の体を支えてくれている。

 

 喧しい彼の体は、8割程黒く頑丈なロープで構築されている。一本一本のロープに彼の神経が通っており、例え何本か切断されたり、契れたりしようとも、それを彼の脳がすぐに損傷箇所にロープを伸ばして修復するのだ。

 いわゆる彼はサイボーグと言うもので、人間らしい部位は既に脳しかない。しかし、その脳も人工培養できる為に、果たして彼は純粋なる人間であるかと聞かれれば疑問符は絶えない。

 しかし、かくいう私も純粋なる人間であるかと聞かれれば、やはり疑問符がある。

 彼の身の丈は平均男性のソレであるが、かく言う私の身の丈は彼の4分の1があるかないかである。

 少女の容姿を持ちつつも、中身は平均女性のソレである。何故このような姿であるかと聞かれれば、話は長くなる。

 ただ一つ言えることは、私も彼も、この無秩序とも言える世界の生み出した生物の一つであることだ。

 

 「畜生...命賭けてるっていうのによぉ!何で毎度赤字なんだよ!」

 彼はまたアクセルを乱暴に捻りながら、怒声を爆音に混じらせた。

 「あんたが黒いからよ」

 私はその叫びに対して、爆音にかき消されてしまうような、静かな声で答えた。


 モヒカン+サイボーグという登場人物を、書いてみたかった感が否めません。

 もっともっと心理描写や世界観を掘り下げてみたい気もしますが、そうすると短編では無くなってしまうという危惧から、この様な形となりました。

 読んでいただき誠にありがとうございます。

 今後も精進していきます。

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[一言] お暇なときにその脳内の物語を綴られて下さいませ。
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