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もう一つの愛を知った悪魔 中

どうすればいい? どうすれば菜羽は生きることが出来る?

答えは見つからない。

あいつの目は変わらない。


****



「お姉ちゃんってシイラのこと好きなの?」

「は?」

「だっていつもデートに付いて来るじゃない」

「ああ、違うから」

「ふーん」


菜羽はふてくされた顔でソファーに転がる。

横になった視界の先、シイラを見つけた。

声をかけようと思って起き上がる。

『ねえ、シイラ』って声をかけたら、いつものように優しく笑ってくれるはず。


だが実際声は出なかった。

姉を愉快そうに見るシイラに気付いたからだ。

それに気付いた姉はふんっと視線をそらした。


ねぇ、シイラ。

私のこともそんな目で見てくれてる?

優しくて暖かい目だったね。

お姉ちゃんよりも熱い目で見てくれる?


「ねぇ、シイラ」

「どうした? 菜羽」


シイラは、完璧なまでにいつもの笑みを作り出して言った。

何回も見たその笑顔。

私の気持ちが急速に冷めていく。


どうしてなの。

どうして特別が私じゃないの!?

私のこと、本当に好き――?


心に不安が募った。



****



ある日、三人で遊園地に行った。

はしゃぐ菜羽。付き合うシイラ。

そんな二人を尻目に、紗乃は考え込んでいた。


あと菜羽の誕生日まで一週間しかない。

もう、無理なのかも……。


「お姉ちゃんソフトクリーム買おうよ」

「俺は菜羽のお勧めがいいな」

「もうっ、シイラったら。で、お姉ちゃんは?」


シイラに変化は見られない。

むしろ菜羽に、好きなのかと怪しまれてるようじゃ駄目だわ。

もう潮時なのかもしれない。


「お姉ちゃん?」

「俺が代わりについてるから買ってこい」

「うん、お願いね」


じゃあ、私来週死ぬの?

菜羽も死んじゃう?


そんなの、嫌だ――!!



「おい」


視界に突如として現れるシイラ。

無駄に美形なものだから心臓に悪い。


「あれ? 菜羽は?」

「ソフトクリーム買いに行った」

「そう。で、この列何に並んでるの?」


あまりにも深く考え込んでいたせいで、いつの間にか行列の中にいた。


「観覧車」

「あの子のお気に入りだったわね」


上を見上げると、大きな観覧車が目に入る。

小さい頃家族で乗った時、菜羽と一緒にはしゃいだっけ。


幼き日の思い出に微笑する紗乃を、シイラは見ていた。




「はい、次の方ー」


もう順番が来てしまった。


「妹がまだ来てないので待ってもいいですか?」

「お連れさまも後ほど乗られますから大丈夫ですよ」


でも、と抵抗する間もなく、観覧車に押し込まれ、動き出した。

なんということだ!!

無理やり乗せられてしまった!


「へぇ、人間はこれで満足するのか」


しかもシイラと一緒!

密室に二人っきりだ。


「人は空を飛べないから焦がれるのよ。少しでも空に近づきたいと願うの」

「馬鹿な生き物だ。無駄に足掻く」

「それでいいのよ」

「そうか」


びっくりした。

馬鹿にされると思ったのに何も言わない。


「お前の見解は興味深い」

「あっそ」


というより、どうして私がこいつと観覧車に乗ってるのよ!?

現状に戸惑っていると、大きく観覧車が揺れた。

横にシイラが座っている。


「は? どうして横座ってるのよ」

「せっかく一緒に乗れたのに、誰かさんが上の空だからな」

「何なの、その誤解がある言い方。私達が一緒に乗ってるのは偶然よ!」

「まあな」


それからシイラは、静かに外を見始めた。

なんだか寂しそうに見えて、紗乃は思わず声をかける。


「この観覧車ね、小さい時家族で乗ったことあるのよ」


シイラが目線をこちらに移した。紗乃は続ける。


「そのころ私まだ小さかったからさ、観覧車が怖い菜羽をいじめちゃったのよね。ほら、両親取られて寂しかったから。大きく観覧車揺らしたら、菜羽泣き出しちゃった。それでね、下を向いてた菜羽が言ったの。『お姉ちゃん、家が見える』って。泣かされてるのにそんなこと言うのよ。その時この子はなんて心が綺麗なんだろう、敵わないって思った」


今は地上にいるだろう妹を思って、自然と顔が緩む。

妹はこの事件をきっかけに観覧車が好きになった。

理由は私が優しくなった場所だからって。


「だからかな。観覧車に乗るとそのこと思い出して心が安らかになる」


紗乃は珍しくシイラに向けて柔らかく笑った。

彼は驚きに目を見開いた。

いつも菜羽に向けられていた優しい笑顔が、自分に向けられるとは思わなかったからだ。


再び観覧車が揺れる。

暖かい温もりが伝わった。少し硬くて、それでも包まれた腕から優しさを感じる。

思いの外、優しい腕に戸惑う。

悪魔と言っても冷たいわけじゃないのね。


それ以上に自分に戸惑っていた。

『もっと長く抱きしめられていたい』

馬鹿なことにそう思ってしまったのだ。

そんな自分が嫌になる。


だってシイラは菜羽の――。


考え込んでいるうちに、シイラは離れていった。

シイラを追って抱き付きたくなったなんて、馬鹿だ。


好きになっても無駄。菜羽しか見ていない。

好きになっちゃ駄目。菜羽が好きな人だから。


この想いがあふれ出す前に消えよう。




観覧車を降りると、ソフトクリームを両手に怒っている妹がいた。


「もうー! お姉ちゃんったら私が観覧車好きなの知ってて先に乗っちゃうんだから」

「私帰るね」

「え?」

「後は二人で楽しんで」




足早に去る紗乃の背は、すぐに小さくなって見えなくなった。

菜羽は、おかしいと違和感を感じる。


「お姉ちゃん私のこと全然見なかった」


何か知っているだろうかと、シイラを見る。


「何かあったの?」

「いや、昔話をしただけだ」


そう話すシイラの顔がいつもより優しくて、不安という心の染みが滲んだ。

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