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第7話 「登録拒否者」

白い塔の内部は、静かだった。


静かすぎて、音という概念が薄い。


足音が吸われる。

呼吸だけが自分のものとして残る。


レインは違和感を覚える。


(ここは……空間じゃない)


(“記録装置”だ)


回収屋が小さく言う。


「ここから先は“価値登録領域”だ」


「人間を、存在じゃなく“データ”として扱う場所」


レインは奥を見る。


そこには扉がある。


だが扉というより、“境界線”だった。


その前に立つのは、白い鎧ではない。


より簡素な装備。

しかし動きだけが異様に整っている。


胸部に刻印がある。


単一の円ではない。


欠けた円環が、常に補完され続けている。


レインは直感する。


(こいつは“完成前の勇者”だ)


その個体が言う。


「登録手続き未完了」


「存在許可、未付与」


回収屋が低く言う。


「勇者候補生だ」


「正式な勇者になる前の段階」


レインは一歩前に出る。


「ここで何をしてる」


候補生は答えない。


代わりに空間が“読み込まれる”。


【価値照合開始】


視界が一瞬だけ黒くなる。


次の瞬間、候補生の視線がレインに固定される。


「異常値」


その瞬間だった。


レインの胸の奥で何かが跳ねる。


(妹)


声ではない。

だが“方向”だけがある。


レインは動く。


「交換」


対象:価値登録の“照合優先権”


代価:自分の“名前の一部”


世界が一瞬だけ揺れる。


候補生の視線がズレる。


「……照合失敗?」


初めて“システム側”が戸惑う。


回収屋が目を細める。


「おい……今のはやばいぞ」


レインは違和感を感じる。


(名前が……薄い)


(でも問題ない)


候補生が一歩下がる。


その動作は“後退”ではない。


「再計算」


その瞬間、扉の奥から音がする。


ゆっくりと、何かが“起動”する音。


回収屋が言う。


「本体が起きる」


レインは問う。


「本体?」


回収屋は答える。


「勇者制度そのものだ」


扉が開く。


そこにあったのは部屋ではない。


“評価空間”。


無数の視線が重なっている。


人ではない。


記録。判断。基準。


その中心に“声”がある。


「登録拒否個体を確認」


レインは息を吐く。


(これが……勇者制度)


その瞬間、胸の奥にまた声が刺さる。


「お兄ちゃん……」


今度ははっきりしている。


だが同時に、周囲の空間が反応する。


【価値干渉異常:検知】


回収屋が初めて焦る。


「お前、その“声”は出すな」


レインは止まらない。


「どこにいる」


その言葉と同時に、空間の一部が“揺れる”。


記録が乱れる。


声が一瞬だけ途切れる。


その隙をレインは逃さない。


「交換」


対象:評価空間の“照合軸”


代価:自分の“感情の一部”


世界が静止する。


次の瞬間。


“評価”が揺れる。


無数の視線の一部が、レインを見失う。


「……認識不能?」


初めて、勇者制度側が“個人”を見失う。


回収屋が呟く。


「お前……何になりつつあるんだ」


レインは答えない。


ただ前を見る。


そこに“妹の方向”がある。


扉の奥で、何かが完全に起動する音がした。


(第8話へ)

読んでいただきありがとうございます。

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