〈9-3〉繋ぐ想い
少女の姿に、過去の自分の姿が重なる。
ただ生きることに絶望し、されるがままに生きるしか方法の無かったあの日の自分。
そんな自分に手を差し伸べてくれたのは、一人の魔術士だった。
「たす…ける……?」
少女は震える手をそっと握ろうとする。
「ええ、そうよ」
スピカは優しく微笑み、少女に返した。
かつて自分がそうだったように。 そして、あの日助けてくれたあの人のように。
この少女を支えることができるなら。
「あた…しは…」
少女の手がスピカの指先に触れようとした。
その時
「なにしてんだ」
「っ!?」
突如、スピカの後方から低い声が聞こえた。
「ふんっ!」
男はスピカの頭に拳を勢いよく落とそうとするが、危険を察知し、少女を抱えて後方へと退く。
「避けてんじゃねぇぞテメェコラオイ」
その男は厳格な態度でこちらを睨みつける。
あまりの巨体に、少女は震えながらスピカに抱きつく。
「大丈夫よ」
スピカが少女にそう囁くと、鋭い視線で男を睨みつけた。
「落ちこぼれは捨てられる、弱者は死ぬ、それがこの世界の決まりだろうがコラオイ。偽善者ぶってんじゃねぇぞテメェコラオイ」
「生憎だけど、そんな決まり聞いたことがないわ。あなたの勝手な思い込みじゃないかしら?」
「ぁあ?生意気だな、ちっと顔が良いからって調子乗ってんじゃねぇぞオイ」
互いに視線を交わし合う二人の凄まじい雰囲気に、少女は静かに涙を零す。
その雫が、スピカの手を伝った。
「まずは見て覚えなさい。魔法というのが、どういうものなのかを」
「え?」
スピカはそっと少女を離すと、男の元へと向かう。
一歩、また一歩と、静かにその足を踏み鳴らす。
男もまた、その手を前に出して構えた。
「あなた、名前は?」
「デリタスだ」
「そう、ダサい名前ね」
「ぁあ?ダセぇのは偽善者ぶって良い子ちゃんアピールしてるテメェだろうがよコラオイ」
まずは男の手から風魔法が放たれる。
路地裏全体を包み、そして強引に放たれる風が後ろにいる少女もろともスピカを堤こもうとした。
「氷魔法」
スピカは氷魔法で壁を生成し、風魔法を突破しながら重い一撃をデリタスに直撃させた。
「ぐっ!んだこいつ!!」
彼は後方に吹き飛ばされた後、スピカの強さを悟ったのかその場から逃げ出した。
「あなたの名前は?」
スピカは少女に名を聞いた。
「る、ルーナです」
「ルーナ、あなたはこれからどうしたい?」
スピカはルーナに問う。
ルーナは少し視線を落とし考えながら、小さく呟く。
「私は…もう……」
諦めの声。長い間ここで生活してきたのであろうことがその言葉ですぐにわかった。
「もう…このままでも……」
しかし
「それ、ダサいわよ」
「え?」
スピカは冷たい視線をルーナに向け、言い放つ。
「このままでいい。勝手に夢を諦めて、勝手に自分の人生を他人に決め付けさせる。そんなのはダサい人の考え。本当はこうしたいって、本当はこうなりたいって、夢があるんじゃないの?」
「えっ……」
ルーナはスピカの突然の言葉に戸惑った。
指をいじりながら、ただひたすらに考える。
もし夢を願ってもいいのなら、もしその夢を叶えようとしていいのなら。
それを受け入れてくれるのなら。
「私は…いつも虐めてくる子の人を、倒したい。毎日毎日嫌がらせしてくるあの人に、やりかえしたい!」
彼は常にこの路地裏でルーナを痛めつけており、それを娯楽だと言っては楽しんでいたようだ
「そう…」
スピカはそう言うと、腰をおろしてルーナと視線を合わせる。
そしてその手を握り、微笑みを向けた。
「なら叶えましょう。その夢を」
ルーナの瞳が小さく輝く。
自分の夢が初めて肯定された。それが何よりも嬉しかった。
「明日もここに来るわ。逃げ出したりしちゃダメよ?」
「は、はい」
二人は約束する。
ルーナという少女の夢をため、そしてそれを支えるために。
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夜。
「はぁ…はぁ……テメェんとこの…姫さん…連れて…帰ったぜ…………」
全身から汗を流しながら息を切らすアルケー。そしてその隣には満身創痍のシキの姿があった。
「ありがとう。アルケー」
スピカはそう微笑むと、シキの元へと行く。
「スピカーー!!アルケーが、アルケーが虐めるのぉおおお!!!!」
「黙りなさい」
スピカから放たれた一言で、部屋の空気が一瞬で凍りついた。
「へ?」
シキはまるで極寒のような空気とスピカから放たれる冷気に全身を震わせた。
「一人で行ってごめんなさい。はい言いなさい」
「えー!うちは…」
「言え、殺すわよ?」
「か、ひとりでどっかいってごめんなさい…」
シキはスピカがこれまで以上に怒っていることを感じ取り、全身を真っ青にして復唱する。
「勝手な行動してごめんなさい。言いなさい」
「かってなこうどうしてごめんなさい…」
「みんなに迷惑かけてごめんなさい。言いなさい」
「みんなにめいわくかけてごめんなさい…」
「人の話は最後まで聞きます。言いなさい」
「ひとのはなしはさいごまでききます…」
初めて見るスピカの静かな怒りに、ヴェーターやラミアまでもが恐怖を覚えていた。
それを当たり前だとでも言うように見つめるアルケーと、無表情のまま見つめるリゼット。
そしてスピカは最後に言う。
「罰として三日間ご飯抜きにします。言いなさい」
「え!ちょっ、スピカ!流石にご飯は…」
「何か言ったかしら?ん?なに?言い訳があるならなんでも聞いてあげるわ?言いたいことあるんでしょ?この私に反論したいことがあるんでしょ?ほら言ってみなさい?場合によってはその顔がもう二度と元に戻らない事になると思うけど、ね?」
その瞬間、シキはあまりの恐怖に震え上がり
「ば、ばつとしてみっかかんごはんぬきにします」
と、彼女に言われるがままにその言葉を口にした。
シキはボロボロと涙を流しながらリゼット達の方を向いて助けを求める。
しかし
「自業自得だろ、ちゃんと反省しろ」
「ご、ごめん…僕には何も出来ないみたいなんだ……(ス、スピカが怖いからなんて言えない…)」
「シキさん、今回ばかりは擁護できないです。ごめんなさい」
「………………………もう、無理」
「えぇえええええええええええ!!!!!」
「次叫んだら目ん玉えぐるわよ?」
「すいませんでしたぁああ!!!!」
目で訴える作戦が失敗し、叫ぶシキ。
そんな彼女にスピカは冷たく言葉を放つと、シキは飛び上がるかのようにスピカの方へと振り向いた。
「さて、お説教はここまでとして…」
スピカが一息吐くと、リゼット達の方を見つめる。
「みんなに頼みたいことがあるの」
「………………頼みたい、こと?」
スピカの言葉に、リゼットは小さく首を傾げた。




