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水平線を超えて渡る青い空と海  作者: 破魔 七歌 


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3/3

3.学校まで憑いて来た






 朝になった。いつもの台所。変わらない日常──。そう思って起きて来たけど。


「あ、あの! 今日からお世話になります! 葵ミサキって、言います!! よ、よろしくお願いします!!」


 い、居る……。やっぱり、居る。夕べの女の子。おかげで全然眠れなかった。うぅっ……。ゴリッゴリに眠い。

 めっちゃ挨拶してるけど……。やっぱり、聞こえてへんな。お母さんに。全然、この子のこと見えても無いし。やっぱり、幽霊やんな? この子──。それに、ミサキって言うんだ? 名前……。


「美世? アンタ、目の下すんごいクマやけど? 大丈夫なん? 明日は実力テストなんやろ?」

「うん、大丈夫。今日は始業式で午前中のオリエンテーションだけやから。帰って寝る。テストは私には関係ないから」


 俯きながらテーブルに置かれた朝ご飯を見つめる。あまりの眠たさにウトウトしながらも、隣を見るとニコニコしながらミサキって子が座って居る。まぁ、いわゆる霊障とか祟りとか、そんなのは無さそうだったけど。


「わぁ! 朝から、すっごい豪華ですねっ! お味噌汁にお米に新鮮な海の幸が沢山! あ、沢庵も!」

「あ、えーっと。ここら辺は海が直ぐそこやから。近海で穫れる魚介類の宝庫やから」

「美世? 何? 独り言? どないしたん?」

「あ、えぇっと? 何でもない、何でもない! さ、魚……いつもご飯が美味しいなぁって」

「ふぅ〜ん? 変なの。今日は始業式だけやし、休んでもえぇんちゃうん? 学校に連絡しとこか?」

「い、いやいや! 行く行く! 新学期の初日から休まなアカンほど調子悪ないし!」


 新学期、初日──。クラス替えの一大イベント。それを見届けずして学校を休む訳にはなるまい? 大樹との……いやいや。どんなメンツがクラスメイトになるのか気になるし。


「行って来ますっ!」

「いってらっしゃ~い。気をつけてなぁ」


 朝の光──、風。潮の匂いがする。キラキラ輝く水平線。沖に浮かぶ島が点々としていて、遠くまで良く見える。波の音が静かだ。朝早くから漁に出た船が、沖に小さく見える。

 玄関を出ると見渡す限りの海と青空。晴れ。快晴──。


(ザザーン……ザザーン)


「海……綺麗。いつもと変わらないなぁ……」


 松林と砂浜の海岸沿いの小道を自転車に乗って走り抜ける。海の家が立ち並ぶこの辺りは、シーズンオフで閑散としている。庭の水やりのお爺さんとか、柴犬がワンワンと吠えるのを見るくらい。自転車を漕ぐたび、髪の毛が潮風を受けて後ろに靡く。海沿いの道路脇に立つお地蔵さんと、お不動さんの前を何気なく自転車でサーッと走り抜けた。いつもと変わらないし、眠いけれど、何となく気分は良かった。


「昨日、私たち……あそこに居たんですよね? 綺麗な砂浜……。あっという間にビーチから離れちゃいましたね?」

「ビーチって? わっ! あ、アンタ……い、居たの? って、に、荷台に私の後ろにって! な、なに、爽やかに乗っちゃってんのっ?!」


 ──軽い。重さを感じない。いつものように私一人で自転車を漕いで居るような? びっくりした。全然、気づかなかった。心臓に悪いって……。


「ついて行くって決めたんで……い、いけませんか?」

「ハァ……。良いけど? なんか、その……変なことしないでよ?」


 自転車を漕ぎながら防波堤の道を直角に曲がる。この辺りは河口と海との境目で、ヨットやクルーザーなんかが停泊してる。そのまま松林と古い家並みを車通りに向かって走り抜ける。潮風が気持ち良い。けど──。

 

 ──存在が希薄。やっぱり、幽霊。そう思うと、ゾッとする。けれども、声は聴こえるし、目にも見えるし。希薄は希薄だけど、その辺の生きている人たちと見た目は何も変わらない。


「? 変なこと? あ、まぁ、見学ですね? 美世さんの学校がどんな所か……」

「学校? べ、別に何も変わらんのんとちゃう? アンタの通ってた学校と。あ、まぁ、雰囲気とか?」


 ……しまった。地雷踏んだか? 過去を思い出すワードとかってヤバいよね? 特に、ミサキは幽霊女子なんやし。また、泣かれでもしたら……。

 あ。私の名前──、呼んでくれたんだ。


「な、名前……。ご、ごめん。アンタって、ミサキって言うんやんな? 自己紹介……まだやったな」

「うん。ミサキ……。あ! いえいえ! こちらこそ、昨日からお世話になってしまって!」


 ……ホッ。考えすぎ? 安心した。そのまま瓦屋根の村の中を走り抜ける。ちょいちょい自転車通学の子らも見かける。やっぱり、何処の学校も今日が登校初日なんやな……。


「ハハ! 昨日は、ミサキ泣いてたもんなぁ? 大丈夫なん?」


 ……あれ? どないしたん、ミサキ? って、え? な、なんか俯いてる?!

 ──しまった。言ぅてもとるやんっ?!! 私っ! うっわぁ〜!! 私の阿保っ! アホッ!! なんで言ぅてまうんやろなぁ……。さっき反省したのに。あぁ。なんか……ストレートに聞いてしまうって言うか、言ってしまうって言うか……。

 

 ハァハァ……。河口にまたがる大きな鉄橋が見えて来た。車通り。

 あぁ、なんか車が混んで来たな。通勤ラッシュ。狭い。自転車、通りにくい……。他校とか私らの学校の自転車とか、多くなって来たし。ミサキ、傷ついたんかな……。


「うぅっ……なんか、また悲しく……こみ上げて来るような……」

「わわっ! み、ミサキ? わ、悪かったって……ごめん」


 やっぱり! あぁ、なんでいっつも、こうなるんかな……私。ちゃんと人の気持ち、考えなアカンのに。ハァ……。やっぱりウチは、アホやなぁ。

 旅館の跡取りも、大樹とのことも……私には何て言うか、釣り合わない? 身の丈に合わないって言うのかな。

 

 ──アカン。ちゃんと前向いて自転車漕がないと。車、めっちゃスピード出してる。危ない。他の自転車通学の子らと、ぶつかりそうになる……。


「み、ミサキ……ごめん。ごめんな、ミサキ……。傷つけてもた……。傷ついたよね……ミサキ」

「ううん……急に押し掛けて来たのは私の方だし。びっくりしたよね? 驚かせてしまって……ごめんなさい」

「ううん。こっちこそ。あ、私、新浜美世。美世でええよ? 名前、美世さんて呼びにくいやろ? 私もミサキって呼ぶから」

「え?」


 しばらく、その後──。ミサキは何も言わなかった。沈黙が続く。横から吹く潮風を受けて、自転車を漕いでいた。相変わらず、空も海も晴れ渡っていてキラキラ輝いている。何処までも青い……。


「……ミサキ?」


 海鳥が鳴いている。静か……。

 鉄橋の自転車用の道を通り抜けると下り坂になって、通学路のある海沿いの道へと再び入って行く。

 なぎさ公園だ。

 色々、小さな子たちの遊び場とか、美術系のオブジェやモニュメントなんかがあったりして綺麗なんだ。

 ミサキと今度、ゆっくり散歩にでも来ようかな。大樹とも……。あ、ミサキ……ちゃんと後ろに乗ってるのかな? なんか突然、黙られると不安になる。寂しい? 悲しい? 何なんだろ、この気持ち……。


「お、おはよ……美世」

「え? お、おはよ……大樹?」


 すれ違いざま。突然、自転車のベルが、リーン──と鳴った。自転車を漕ぐ大樹の声と後ろ姿と、青いブレザーを着た背中が見えて、私の漕ぐ自転車を後ろから追い越して行った。

 

 久しぶり? 春休みは特に会う用事もなくって……言葉を交わしたのって、いつだったのかな。なんか胸……どうしたんだろ、私。高鳴ってる?


 振り返ると──、ミサキが後ろで、めっちゃニヤニヤしてた。ちょっと私の笑顔が引き攣る。ミサキは私の自転車の荷台に乗って居て……嬉しそうにしていた。ホッとした。ミサキが居なくならなくって、良かったなって想った。大樹には、ミサキのことが見えてなかったみたいだけど……。


「ふぅ~ん? あれが美世ちゃんの……。ふぅ~ん? ふふっ」

「み、美世ちゃんって! み、ミサキ? な、なんか変なこと考えてる? べ、別に大樹とは何も……。た、ただの幼馴染みやし……」

「ふぅ~ん? ふふ。あ、強いて言えば、良いなぁ~って。あ、アレが美世ちゃんの学校? わぁ……懐かしい。高校って感じ〜」


 美世ちゃん──。なんか、くすぐったいような。恥ずかしいような? なんか、小さい時以来? わ、悪くないけど……。 

 私と大樹の通う学校が見えて来た。いや、私と大樹って……。ハァ。意識しすぎ? そ、そんなじゃ無いんだから……。





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