表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水平線を超えて渡る青い空と海  作者: 破魔 七歌 


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/3

2.幽霊女子との対話






「美世〜? どないしたん? すっごい悲鳴が聞こえたんやけど〜?」


 お、お母さんの声だ。下の階から聞こえて来る。帰って来たんだ。いや、民宿だから普通に同じ建物の中なんだけど。


「お、おかえり〜! あ、虫が出ただけやから〜!」

「虫? そうなん? 早う寝なよ〜? 今日もお疲れ様。ありがとうね〜美世」

「はーい」


 ウチは民宿旅館だし……。幽霊が出たなんて言ったら、大騒ぎになる。客商売だし、お祓いやら何やらかんやらで……ハァ。前にも一回あった。お母さんも心配するし。

 私は暗がりの中。部屋に一人……。お母さんの声のおかげで金縛りが解けた。目は閉じたまま、お布団の中から返事をした。

 気配がない──。

 さっきの人影みたいな幽霊みたいな何かって、何だったんだろうか。私は目を擦りつつも暗闇の中でモソリと、お布団から起き上がった。和式の照明の紐を二回引っ張って電気をつけた。


(カッチ……カッチ)


「あ、あの……虫じゃないですよ?」

「……」

「あ、あの、虫じゃなくて……」

「わっ!! で、出たぁっ!! い、居る居る居る!! やっぱり、居るっ?!!」


 え? 明らかに人が居る? それも目の前に。けれど、人じゃない?

 存在が朧気だ。なのに、輪郭が鮮明だ。けれども、立体感がない。夢か何かを見ているような? 映像か何かの映画の中に居るみたいな? その虹色っぽい薄っすら輝いてるオーラみたいなのは何ですか?

 

「あ、あの……一人で夜の浜辺を彷徨っていましたら、お一人で居る貴方様をみつけてしまって……つい」

「しゃ、喋った……。う、うわわ。あ、あの、ど、どちら様でしょうか?」


 なんで? 明らかに変。なんで? 明らかに、おかしい。なんで? 私も私で、なんで会話──? 

 〝?〟のマークと〝なんで?〟が頭の中を飛び交い混乱させる。私の視線を釘付けにさせる恐怖が、目を見開かせたまま喉をつまらせる。この世のモノじゃないって本能的に悟る。意外にも腰が抜けてない。ヤバい。見てはいけないモノを見てしまっている気がする。


「よ、夜風に吹かれながら、夜の砂浜を全力で走るのって気持ちが良いですよね。な、何だか昔を思い出してしまって……本気になっちゃって」

「い、いや、あ、あの……だから、お、お引き取り願えますか? そ、それとも、家の呪いとか因縁とか? ま、まさかのご先祖様でしょうか?」


 て、照れてる? いやいやいや! ど、何処かの学校の制服ですか、それ? 黒髪ロングって、明らかに定番ですよ? ……その容姿。

 私は、驚きつつも冷静さを保つのに必死だった。警察とか頭の中をよぎったけれど、人じゃない人に明らかに頭の中が『無効』って叫ぶ。


「消えろ……と?」


 私を見つめるその子。視線が冷たい。また金縛り──?

 立ったまま身動きが出来ない。私の目の前に、音もなくスーッと近づくその子。その子が私に手を伸ばすと、ヒタっと……冷たい手の感覚が私の喉もとに触れた。


「キャーッ!! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくないっ!!」

「あ、あの……苦しい」

「え?」


 気がつくと──。私は、その子の首を掴んでいた。苦しそうに藻掻く、その子の声。ハッとした。私は震えながら……その子の首から手を解いた。


「す、すみません。消えろと仰ったので、ハァハァ……。つ、つい、最期に生きている実感が欲しくて。貴方様の頸動脈に触れてしまって……。ごめんなさい!! けど、触れられた。嬉しい。人肌って、こんなに温かかったんですね?」


 な、何?! け、頸動脈っ?! ……ゾッとした。

 消えろとは、私は言ってない──。けど、心の中でハッキリと、そう……言ったのかも知れない。

 でも、え? 今、私、幽霊に触れた? いや、そもそも幽霊じゃない? やっぱり、人? なんか笑ってません? 何、その笑顔……。いや、そもそも最期に生きている実感が欲しいとか……何なん? その理由──。

 

 なんとか平静を装いつつも、頭の中を整理しようとしてみたけれど、状況が上手く呑み込めない。理解の範疇を超えている。頭の中が真っ白だ。思考が追いつかない。目の前に居るのは誰だ。

 

「お、女の子?」

「はい」

「と、年は?」

「十七歳です」

「彼氏は?」

「い、居ないです……」

「や、やっぱり、幽霊?」

「? 気づけば、こうなってました」


 目が点だ。目が点。どうしたら良い? この状況。目の前に変な女の子が居る。私と同い年の。見た目は可愛いのに。幽霊か人間か……どっちか分からない。いや、どう見たって……幽霊?


「ん~。何処から来たの? 人だよね? 幽霊とは違うんやんな?」

「ゆ、幽霊……って? わ、私、や、やっぱり死んでしまったんでしょうかっ?! ううっ……ウワァーッ!!」

「いや、ちょ、ちょっと! あぁ、もう、ハンカチかタオルって、あ、ティッシュ! ティッシュって……」


 なんか、めっちゃ泣いてる。自覚無かったんかなぁ。死んでもたんなら、無になるとか生まれ変わるとか……四十九日はこの世を彷徨うとか言うけど。

 ハンカチもタオルもティッシュも手元にない。取りに行こうとするよりも、なんかこの子の傍に居る方が良い気がした。また居なくなって彷徨いでもしたら、この子は長いこと苦しむんだろうなって思った。何だかな……。なんでかは分からないけれど、何か悲しい。嫌だ。

 この子の気持ちなのか、死にたくないって気持ちが……私の中に入って来る。ど、どないしよ……? どないしたら、ええんやろ──。


「あ、あの……」

「え? あ、はい?」


 アカン……。受け入れてまうんや、私。この子のこと。なんか、よせば良いのに……ほっとけないと言うか、母性みたいなのが湧き出てしまっている。

 この子の瞳──、親鳥を見つめる雛鳥のような? めっちゃ、私のこと見つめてる……。 

 子を想う気持ち? 違う、違うっ!! なんか、私、誤解してる? 自分に酔ってる? 自己陶酔? 何なん、この気持ち──。

 

「あ、あの……お、お願いします!! め、迷惑じゃなければ傍に居させてもらっても……い、良いでしょうか」


 ど、土下座──?! そんなんまでして、私の傍に居りたいん? 幽霊やのに? 幽霊やんな? あ、幽霊やから? でも……。


「迷惑? ウチの旅館、一泊二食付きで一万円以上するんやけど? あ、アンタに払える?」

「あ、あの……お、お金は……持って無いです」

「ハァ……。無一文? 仕方がない。けど、なに? 行く宛がないの? だったら──」

「い、良いんですかっ?! わ、私、何でもやります!! わ、私が出来ることでしたら!! なんでも!!」

「い、いや……と、取り敢えず、一緒に……寝る? お、お布団、狭いけど」

「やっぱり、良い人なんですねっ!! 私、初めて見た時から、ついていきたいなって想ってしまって……貴方に」


 うぅっ……。なんか、コワい。やっぱり、ゾッとする。けど、そうは言っても。何だかな……。

 取り敢えず、名前も知らないこの子は、幽霊だか何だか知らないけれど──。深く考えずに私は、やり過ごそうとした。

 今日は、もう遅い。

 気にはなるけど、何とか寝ようと思う。

 この時ばかりは、これから何が起きるかなんて……考える余裕すら無かった。

 明日から新学期。学校が始まるから……。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ