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英雄推薦?

死ぬ。

本気で、そう思った。

俺は砕けた拳をローブで必死に隠しながら、屋敷へ戻った。

戻るなり、ミーナに医療魔術師を呼ぶよう頼む。

ミーナは少し不思議そうに首を傾げながらも、すぐに動いてくれた。

両腕は血まみれ。

指は、まともに動かない。

「……っ」

医療魔術師に診てもらっている間、ミーナはすぐ隣に立っていた。

ほんの少しだけ、眉をひそめている。

「随分と、傷が深いですね」

――あ、終わった。

「特に拳が……かなりボロボロです」

ミーナは困惑した顔をしていた。

“なんで急にこうなったんだろう”

そんな表情だ。

俺は覚悟した。

ここで正体がバレる。

英雄じゃないと気づかれる。

最悪、ミーナに殺されるかもしれない。

――でも。

「さすが、バスタル様です」

……え?

「この状態で、立っていられるなんて」

ミーナは深く頷いた。

「ですが……治療はした方がいいですよ」

……怖い。

この勘違い、もう笑えない。

純粋に、恐怖だ。

医療魔術師は、俺の拳にそっと手を当てた。

まるでクリームを塗るように、ゆっくりと。

じんわり温かくなり、

さっきまでの激痛が、嘘みたいに消えていく。

「……すげぇ」

原理は分からない。

でも、魔法はすごい。

心の底から、そう思った。

治療が終わったあと、俺はミーナに声をかけた。

「なあ、ミーナ」

「はい」

「……魔法、教えて」

ミーナは完全に固まった。

ぽかん、と口を開けている。

「……バスタル様」

「私を、からかっているんですか?」

頬を膨らませる姿は、なかなか可愛い。

……本気で怒ってる。

怒られてもいいから教えてほしい。

そう思ったが、口には出せなかった。

それからも、仕事は続いた。

転生してから一週間。

仕事内容は――

・魔獣退治

・魔植物の育成

・魔法生物の世話

……全部、失敗した。

見事なまでに、全部だ。

後始末は、すべてミーナ。

最後はそれっぽいことを言って、

「さすがです、バスタル様」

と評価される。

いや、乗り切れてるのか、これ。

俺は毎日傷だらけ。

魔法は「ま」の字も分からない。

それなのに、ミーナは教えてくれない。

俺を、完全に英雄バスタルだと信じ切っている。

……なんで、バレないんだ。

最近は、そんなことばかり考えていた。

しんどい。

思ってた英雄像と、違いすぎる。

「……はぁ」

いつもの食堂。

俺は大きな机に突っ伏して、ため息をついた。

「どうしましたか、バスタル様?」

ミーナが駆け寄ってくる。

――なんでまだ、目が輝いてるんだ。

疑いもしない。

英雄を信じ切った目。

……英雄、変わってほしい。

いや、違う。

英雄を、譲ればいい。

屋敷も財産もそのまま。

俺は裏方に回る。

つまり――平和的撤退だ。

しかも、都合のいいことに、

英雄候補は目の前にいる。

ミーナは優秀だ。

俺への尊敬さえなければ、完璧だ。

「ミーナ」

俺はできるだけ声を低くした。

「英雄に、ならないか」

ミーナは一瞬きょとんとして――

次の瞬間、満面の笑みを浮かべた。

「本当ですか!?」

両手で俺の腕を掴む。

……力、強い。

魔力なしでも、俺より余裕で強い。

「ああ」

俺は頷いた。

「今日から、お前も英雄だ」

言ってから思った。

……英雄って、どうやってなるんだ?

「えっと、バスタル様」

ミーナは少し真面目な顔になる。

「英雄には、推薦制度があります」

推薦制度!?

心の中で叫んだ。

「推薦者と被推薦者が、

 王や貴族の前で戦い、認められれば――

 英雄として役割を与えられます」

……無理だ。

ミーナはともかく、俺が無理だ。

魔法も使えない俺が、認められるわけがない。

最悪、処刑コースだ。

「……すまん」

「やはり、まだ早い」

(俺が)

「……そう、ですよね」

ミーナは分かりやすく落ち込み、

静かに部屋を出ていった。

悪いことをした。

それにしても――

英雄とは、なんなんだ。

この世界で、分かったことがある。

英雄とは、称号じゃない。

民を助ける“役割”だ。

しかも、バスタルの英雄観はこうだ。

――自己犠牲を顧みず

――見返りを求めず

――すべての責任を負う

現代風に言えば――

ボランティア企業戦士。

誰がなりたいんだ、そんなもの。

屋敷はいい。

暮らしもいい。

だが、割に合わない。

それでも。

英雄を失えば、

俺は職なし、宿なし、魔法なし。

魔法も使えない俺は、

この世界で生きていけない。

……なら。

俺は英雄をやりながら、

一番責任を負わずに済む“逃げ道”を探そう。

俺は、

本気で「英雄」について考え始めた。

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― 新着の感想 ―
面白すぎます。ミーナに全部押し付けちゃう! でも、この後責任取らされるのかな? 誤魔化せるのか、バレちゃうのか。それとも無双スキルを手に入れるのか。楽しみです。
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