表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/38

プライドの戦い?

グラッドと少女の決闘は――すでに始まっていた。


ありえない。


グラッドは心の中で、そうつぶやいた。


気づいた時には、喉元に剣があった。


冷たい刃が、皮膚すれすれで止まっている。


一歩でも動けば、終わりだ。


(……なんだ、今のは)


理解できない。


剣を合わせたはずだった。


一撃。


たった一度、打ち合っただけだ。


それなのに。


気づけば剣は逸らされ、体勢は崩れ、膝をついていた。


そして――首に剣。


少女は、まっすぐな目でグラッドを見下ろしている。


揺らぎが、一切ない。


(俺は……強いはずだ)


アルカニア王都。


武神祭――優勝。


その事実は変わらない。


なのに。


(なんで、こんな……)


汗が、ぽたりと床に落ちた。


最初は、軽く勝つつもりだった。


手加減して、注意してやる。


「気をつけろ」と。


そして、自分の強さを分からせる。


それで終わるはずだった。


――それだけで、よかった。


(……手加減しすぎたか)


グラッドは小さく笑う。


「くくく……なるほどな」


顔を上げ、少女を睨みつけた。


「おい……お前は俺を怒らせた」


一目惚れした女の前で。


無様な姿を晒した。


もう、手加減はできない。


グラッドは、首元の剣を弾いた。


体を起こし、立ち上がる。


「ここからが本番だ……がははは」


少女は、わずかに一歩下がり、構え直す。


だが――


そこに恐れはない。


呼吸も、視線も、何一つ乱れていない。


(……なんだよ、それ)


グラッドは歯を食いしばり、踏み込んだ。


剣を振り上げる。


全力。


躊躇はない。


「さっきまでは遊びだぜ!!」


大剣が、振り下ろされる。


空気が裂ける。


当たれば終わりだ。


骨ごと、砕ける。


――だが。


少女の剣が、わずかに動いた。


触れる。


その瞬間。


力が、抜けた。


(――は?)


弾かれたのではない。


押し返されたのでもない。


ただ、流された。


大剣の軌道が、ほんの僅かに逸れる。


それだけで。


グラッドの体は前に崩れた。


重心が消える。


踏ん張りが効かない。


足が、ついてこない。


視界が揺れる。


次の瞬間――


膝が床に落ちていた。


そして。


再び、首に剣。


まったく同じ形だった。


「……っ」


声が出ない。


(なんだ、これ……)


グラッドの心臓が、嫌な音を立てる。


(この女……)


汗が止まらない。


(めちゃくちゃ、強い)


完全に、格上だ。

それでも――

負けるわけにはいかなかった。

灰狼団副団長としての誇りがある。

(……逃げられるかよ)

女のことは、もう頭にない。

ここからは――自分の問題だ。

プライドの戦いだった。



ミーナの圧勝か。


俺は呑気にステーキを切りながら、そう思った。


グラッドのやつ、「本気を出す」とか言っていたが――結果は同じだ。


安心して見ていられる戦いだった。


グラッドには悪いが、ショーとしては上出来だと思う。


周囲の客たちも、いつの間にか食事を再開している。


さっきまでの緊張が嘘みたいだ。


グラッドはミーナに剣を突きつけられ、肩で息をしている。


(俺なら逃げるな)


素人の俺から見ても、差は歴然だった。


さすがにグラッドも理解しているはずだが――


「ぐ……ありえない、ありえない……!」


レストランに響く大声。


(え、まだやる気?)


ミーナは一歩下がり、静かに構え直す。


「あなたが満足するまでやりましょう」


「私は構いませんよ」


(うわぁ……)


ミーナ、容赦ないな。


グラッドのプライドはもうボロボロのはずだ。


グラッドは興奮した様子で叫ぶ。


「俺は……俺はあのライナにも勝った男だ!」


(いや、それは嘘だろ)


「そして武神祭でも優勝した!」


「王都の学園では、あのアビルとワンダにも目をかけられていた!」


「そんな俺が、お前なんかに負けるわけないだろうが!」


ああ……さっき女にしてた自慢、全部大声で言ってる。


顔はトマトみたいに真っ赤だ。


実際、経歴だけ見ればすごいのかもしれないが――


「それは本当ですか?」


ミーナの声が、変わった。


目が細くなる。


剣先がわずかに震え、カタカタと音を立てる。


グラッドが一歩、たじろいだ。


「あ、ああ……本当だ」


「でしたら、証明してください」


ミーナは一切目を逸らさない。


「私の尊敬する方の名を使って、虚言を述べていないと」


「立ってください」


「……え? あ、はい」


グラッドは慌てて立ち上がり、剣を構える。


「いきますよ」


再び対峙する二人。


(……ああ)


分かる。


あれは――本気で怒っている目だ。


グラッドが剣を振り下ろす。


今度は流さない。


ミーナは真正面から受けた。


体格も剣も、明らかにミーナの方が小さい。


――なのに。


吹き飛んだのは、グラッドだった。


床に叩きつけられ、尻もちをつく。


「ワンダ・スコットに目をかけられたんですよね」


ミーナの声は、冷静だった。


「それにしては、魔力操作が甘いですね」


「“纏”ができていません」


「本当に、指導を受けたのですか?」


グラッドは何も言えない。


それでも、ミーナは止まらない。


「騎士団に所属していたのですよね?」


「魔剣士の意味、理解していますか?」


「なぜ剣ではなく、肉体にだけ魔力を纏っているのですか?」


(やめてあげて……)


グラッドのライフはもうゼロだ。


周囲の視線が、完全に変わっている。


さっきまでの“強い男”を見る目じゃない。


疑いと、失望。


ナンパされていた女も、ため息をついてその場を離れていった。


(……うわぁ)


さすがに、ちょっと可哀想だ。


グラッドは頭を下げたまま、動かない。


亀みたいに縮こまっている。


ミーナはしばらく鋭い視線を向けていたが、やがて踵を返した。


そのまま、こちらへ戻ってくる。


レストランの客たちの視線が、一斉にミーナに集まる。


ミーナは何事もなかったかのように椅子に座り――


にこりと笑った。


「美味しそうですね、このステーキ」


「ああ……そうだな」


俺の顔は、少し引きつっていた。


この短時間で、一つだけはっきり分かった。


――ミーナは、怒らせると怖い。


グラッドのおかげで、それがよく理解できた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ