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護送?

王都へ向かう魔導車が走っていた。

縦に長い車体。現代で言えば、リムジンに近い形状だ。

もっとも、ただの車ではない。

魔力を燃料とする魔道具――魔導車。

高級魔道具の一種であり、貴族や富豪しか所有できない代物だ。

それ自体が、金と権力の象徴と言ってもいい。

その後部座席に、三人が座っていた。

運転席とは隔てられた、やたらと広い空間。

一人は、金髪で体格のいい男。

頭には包帯が巻かれている。

――ライナ・ガードナー。

今、ライナは王都へ護送されていた。

だが、手錠はない。

車内も驚くほど快適で、とても護送中とは思えなかった。

向かいの座席には、青髪の端正な顔立ちの騎士がいる。

アビル・エレノーラ。

現王国騎士団長。

そして、ライナと同じく七英雄の一人。

アビルは目を閉じ、静かに座っていた。

眠っているわけではない。

余計な感情を表に出さないだけだ。

アルカニアで「騎士」と言えば、真っ先に名が挙がる男。

そして、もう一人。

ライナの知らない人物。

白髪の、絶世の美女。

ライナがこれまで「最も美しい」と思った女性は、

ミーナの姉――ワンダだった。

だが、この白髪の女性は、それ以上かもしれない。

そう思わせるほど、完成された美貌だった。

車内は、乗ってからずっと沈黙に包まれている。

やがて、王都が近づいた頃。

ライナは、重い口を開いた。

「……アビル。お前に話したいことがある」

アビルは目を閉じたまま、即答した。

「言い訳なら、意味はない」

「違う」

ライナは静かな声で続ける。

「王都に着く前に、お前に伝えておきたいことだ」

「話せ」

短く、冷たい声。

ライナは一瞬、言葉を止めた。

アビルの口調のせいではない。

白髪の女性――その存在が気になったからだ。

(……聞かせていい話なのか)

沈黙するライナに、アビルは目を開いた。

「話せ」

「……いいのか。アズールのことだ」

一瞬。

アビルの視線が、わずかに揺れた。

ライナは続ける。

「俺は、国の連中を信用していない」

「ワンダがいなくなった今、

 国側の人間で信用できるのは、お前だけだ」

「アズールのことは……お前にだけ伝えたい」

王都に着けば、ゆっくり話す時間はない。

だから――今、この場所で。

ライナは白髪の女性に視線を向ける。

彼女は、少し困ったような表情を浮かべた。

アビルは静かに言った。

「構わん」

「セシルは、国の兵士でも官僚でもない。

 ただの医療魔術師だ」

「……そうか」

ライナは小さく頷き、覚悟を決める。

「俺が、バスタルを殺そうとした経緯だ」

「王都で尋問されたら話すつもりだが、

 アズールの件は黙っている」

「だから――今、お前にだけ真実を伝える」

ライナは、まっすぐにアビルを見た。

アビルは何も言わず、静かに頷いた。

車内の空気が、さらに重く沈む。

回想

――バスタルと戦う、二か月前。

ライナ・ガードナーは、英雄であることに悩んでいた。

英雄になることは、子供の頃からの憧れだった。

誰かを救い、称えられ、世界に必要とされる存在。

ライナは努力した。

自分には英雄になり得る力があると、疑わなかった。

英雄と呼ばれるようになったのは、七年前。

アルカニア帝国と小国連合との大戦。

戦力差は歴然としていた。

だが、その戦況を覆した七人がいた。

その一人が、ライナだった。

最前線で一騎当千。

地面から巨大な三叉槍を創造し、敵陣を粉砕する。

兵士たちは、いつしか彼をこう呼ぶようになった。

――三叉槍のライナ。

ライナは戦場に敵はいないと思った

だが、その戦場で――

ライナは死にかけた。

相対したのは、人ではなかった。

人の形をした、破壊そのもの。

魔法も剣技も通じない。

野獣のような存在。

剣は折れ、身体は動かず、

死を覚悟した、その瞬間。

――目の前に現れたのが、バスタルだった。

バスタル・ヘタリクス。

どう戦ったのか、ライナは知らない。

意識を失い、目覚めた時には、

すでに駐屯地のベッドの上だった。

戦争は、ほぼ終結していた。

兵士たちは興奮して語っていた。

野獣のような男――サタリス。

それを倒したのが、バスタルだと。

だが、誰も戦いの詳細を知らない。

近寄ることすらできなかったらしい。

怪物同士の戦い。

そう理解するしかなかった。

アルカニア帝国は勝利した。

戦場で活躍した七人は、七英雄と呼ばれた。

ライナは英雄になった。

それから、今まで以上に努力した。

バスタルに並ぶために。

助けられた借りを、いつか返すために。

バスタルの英雄思想。

英雄とは、自己犠牲を顧みず、

見返りを求めず、

すべての責任を背負うもの。

その言葉を、信じた。

同じ英雄であろうとした。

だが――

月日が流れ、その思想は重荷になった。

責任は重く、

救えなかった命が心に残る。

期待と失望が、容赦なく押し寄せる。

体は耐えられても、

心が限界だった。

それでも、

ライナはバスタルに会いに行った。

相談することは、英雄らしくないかもしれない。

それでも――

彼なら答えを持っていると信じた。

藁にもすがる思いだった。

すべてを話した。

苦しみも、迷いも、

英雄であり続けることの恐怖も。

同じ英雄なら、分かり合えると思った。

だが、返ってきた言葉は――

「お前は、英雄ではない」

それだけだった。

憧れた英雄。

本物だと信じた男の言葉は、

ゆっくりと、確実にライナを壊していった。

それでも、支えようとする者はいた。

赤髪に鎌の入れ墨を入れた少年――アヴァン。

だが、

ライナはすでに限界を超えていた。

英雄の仕事を、放棄し始める。

――英雄とは、

――責任を押し付けるための道具だ。

そう考えるようになった。

屋敷は荒れ、

怒りの跡が壁や家具に残った。

ライナは、

英雄という役割に、静かに壊されていった

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