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英雄の魔法?

「お巡りさん、助けてください!」

俺は脳内で叫び続けた。

剣を持った男に追い回されている。

しかも相手はブチギレ状態。

止まったら死ぬ。たぶん――いや確実に。

俺は建物の裏を縫い、影に潜りながら走った。

転生前から、逃げ足だけは一流だった。

唯一の取り柄がかけっこって……なかなか悲しい。

「ふぅ……逃げられた、か?」

息を整えながら、そっと角から覗く。

ブチギレ男――ライナの姿は見えない。

周辺を探している気配もない。

よし。いったん落ち着――

その瞬間だった。

建物の裏から、何かが貫くような嫌な音。

次いで――

バァン!!

「うおっ!?」

壁を突き破って、巨大な三叉槍が突き出していた。

まさに異世界ファンタジー。

そして建物が崩れ、その向こうに――鬼の形相のライナが立っていた。

「鬼ごっこ、再開のようだ」

俺は反射で走り出す。

背後から怒鳴り声が飛ぶ。

「ちっ! 逃げんな! 英雄!」

無視。走る。

また家が壊れる音がした。

横目で見ると、三叉槍の先端が家から“はみ出して”いる。

……ああ、なるほど。だから“三叉槍のライナ”。

そんなことを考える暇はない。

現実から目を逸らしたいだけだ。現実逃避だ。

ライナは家を破壊しながら追ってくる。

せめて空き家っぽいのが救いだった。

(……生きて帰ったら、修繕費は絶対ライナ持ちだ)

そう考えた瞬間、俺は気づく。

やばい。

もう建物がない。

全部瓦礫。隠れる場所がない。

周辺の建物がすべて、ライナによって壊されていた。

「俺と戦え、バスタル!」

声の方を恐る恐る見る。

ライナは片手を地面につき、こちらを睨んでいた。

(魔力切れ……ないのかよ)

あんな槍を何本も出したら尽きるだろ、と少し期待していた。

さすが七英雄。そんな甘くない。

というか……チートだ。

普通、転生者がチート持ちじゃないの

隠れ場所なし。魔法なし。打開する知能もなし。

どうする?

汗が噴き出す。

ローブのポケットをあさり――

残っていたのは、ノエルからもらった魔道具。小型の雷撃弾。

人を殺す殺傷力はない。痺れさせる程度。

あと、ノエルは言っていた。

「魔道具は、魔力を纏わせて

触れることで起動する」と。

つまり、起動には基礎魔法が要る。

基礎なら誰でもできる? らしい?

――俺はできない。

俺は体内から魔力を出す方法を知らないから

なんてこった。なんだこれ。

残るのは――ミーナが屋敷から持ってきた、

A4の紙を折り畳んだ“メモ”。

文字だらけ。

ポエム……いや、なんだこれ。

ライナがゆっくり近づいてくる。

ローブが暑い。汗で気持ち悪い。

鬼の形相で距離を詰めてくるライナに内心ビビりながら、

俺はメモを見た。

「バスタル。余裕だな」

「俺より、その紙切れの方が気になるのか」

余裕なわけがない。

こっちは“何もない”。

今斬られたら終わりだぞ。

(……せめて最後に、バスタルのポエムでも読むか。

 本物のバスタルに『お前死んだぞ』って伝わるかもしれない)

俺は小声で読み上げた。

「火は火として……灰を成し――」

その瞬間。

地面に、一瞬だけ魔法陣が浮かんだ。

(え?)

……なにこれ。

もう一回。

「火は火として……灰を成し――」

また地面に魔法陣が現れた。

おお。

なにこれ――もしかして詠唱魔法?

希望が見えた気がした。

ライナの顔つきが変わる。

鬼の形相が消え、汗を浮かべてこちらを観察している。

「……なるほど……そういうことか」

なにが“そういうこと”だよ、と聞きたい。

でも都合よく勘違いしてくれてる。好都合だ。考える時間ができた。

(俺、初めて魔法使えるかも……!)

メモを細かく見る。

詠唱――何行あるんだ。

……長い。めちゃくちゃ長い。

待ってくれるわけがない。

試すしかない。

俺はライナの目の前で読み始めた。

「火は火として、灰を成し――」

魔法陣が出た瞬間、ライナが反応する。

地面から槍を創造し、俺めがけて投げた。

「うわっ! 殺す気か!」

しゃがんで回避。

咄嗟だと素がでた

危ねえ。死ぬかと思った。

(最後まで読めなくね?)

意味ねえじゃん。誰だよ作ったの。バスタルか?

その時、ライナが吐き捨てた。

「英雄は自己犠牲が大事だったなぁ、バスタル」

「見せてくれよ、自己犠牲ってやつを」

「……は?」

ライナが突っ込んでくる。

横薙ぎ。

俺は前転で緊急回避し、瓦礫の陰に滑り込む――が、意味がない。

瓦礫ごと切り飛ばされる。

「逃げてばっかりか、バスタル!」

「自己犠牲が大事? お前は口だけだな!」

自己犠牲なんて言ったのは俺じゃない。

バスタルだ。

だから俺は自己犠牲なんてしない。

……したいなら勝手にやれ。

泥と砂でローブが終わった。

こんな泥臭い英雄、どの世界にもいねえ。

周囲を見る。

俺とライナのせいで、街は荒野みたいになっていた。

……人影はない。ここは瓦礫街区の中心だ。

ミーナとデルはいない。

逃げられたなら、それだけは安心だ。

この姿を見られずに済んだのも、少しだけ救いだった。

そして――俺は悟った。

もう逃げきれない。

死ぬかも。

異世界に来て一ヶ月。

苦しい思い出ばっかりだけど……楽しい思い出、あったっけ?

ライナが距離を取って言う。

「バスタル」

「この世界の英雄代表のお前を殺し、英雄を変える」

「お前に恨みがあるわけじゃないが」

「潔く死んでくれるか」

恨みねぇのに殺されるのか。

死ぬなら理由がほしい。

……でも今は、それより。

メモに集中していた。

「……やはり分かり合えないか」

ライナの剣に魔力が込められていく。

あわわわ、やばいやばいやばい。

その時、俺はひらめいた。

(雷撃弾。起動に魔力が要る)

(俺は魔力を纏えない……でも一応ある)

それをやるには俺が嫌いな自己犠牲が必要だ

「死ねぇ、バスタル!」

突き。

剣が俺の腹を貫いた。

「が……っ!」

まじで英雄しんどい。

楽じゃねえじゃん。

何なの、転生したらチート持ちじゃないのかよ。

英雄なのに、凡人じゃん。

やっぱり逃げればよかった。

だから嫌なんだよ、自己犠牲なんて。

命かけて、何が残る。

俺は生きたい。

みんなで楽に生きたいんだ

だから、、、、人生最後の自己犠牲してやるよ

「はぁ……はぁ……」

俺は、その剣を右手で握りしめた。

逃さないようにし、

左手にはメモを構えていた

血が口から垂れる。

「バスタル、終わ――」

ライナの身体が、びくん、と痙攣した。

俺はライナが纏う魔力に“触れて”、

雷撃弾を起動した。

バチィッ!!

雷が炸裂し、ライナも俺も痺れて動けない。

動くのは――口だけ。

血を吐きながら、俺は詠唱を始めた。

「がは……っ……」

「火は火として、灰を成し」

「火炎が空に打ち上がる」

「天は雲を失い、地は焼き果てる――」

読むほどに、魔法陣が広がっていく。

ポエムみたいな言葉。

その間、ライナは雷から逃れようと暴れる。

俺は腹の剣を必死に握りしめ、逃さない。

暴れるたび、腹の奥が“ぐちゃ”と掻き回される。

息が漏れる。視界が白くなる。

でも――手だけは離さない。

もうこれを離せば勝機はないから

詠唱が完成すると

青い魔法陣が、半径百メートルほどを包んだ。

天へ向けて、柱みたいに収束していく。

(おお……すげぇ)

勝ちを確信して、俺は血まみれのまま凄んだ。

「俺は……がはっ……英雄、バスタル・ヘタリクス」

「二度と……関わるな……!」

次、もしこいつと出会ったら逃げる。

俺はそう決めた。

でも……今回は、、、、俺の勝ちだ。

「ぐ、くそがぁ……!」

次の瞬間。

魔法陣から、炎が噴き出した。

火柱が天まで伸び上がる。

「え? ここまで頑張って……俺まで巻き添えかよ!!」

英雄になりきってない俺の本音が、炎の中で漏れた。

(自分の魔法で死にそうな英雄なんて、いねえだろ……)

(……ほんとに、俺って英雄ですか)

そして――

炎に焼かれ。

そこから先の記憶が、なくなった。

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