英雄の仲間?
敵の前から、英雄殿が走った。
――逃げた。そう見えた。
その光景を見た瞬間、分かってしまった。
僕たちから離れて戦おうとしているのだ、と。
英雄――バスタル・ヘタリクス。
アルカニア最強と謳われる魔道士。
伝説級、英雄の中の英雄。
そんな人が、僕を守るために“逃げたように見せた”。
なのに、僕は――
腰が抜け、動けずにいた。
「……逃げなきゃ」
そう思うのに、足が言うことを聞かない。
震える太ももを、何度も叩く。
「デルさん……逃げて……」
声が聞こえた。
壁にもたれかかるミーナさん。
僕を守ろうとして、身体はもうボロボロだった。
……違う。
僕の命なんかより、ミーナさんの命の方がずっと価値がある。
「立て……僕……!」
ライナは、もうこの場にいない。
何を怖がっている?
英雄殿は、僕から離れた。
それは――巨大な魔法で、ライナを倒すためだ。
なら。
「ミーナさんを連れて、逃げなきゃ……」
守られ、裏切り、また守られて。
次は、僕が役に立たなきゃいけない。
じゃないと――仲間じゃなくなる。
僕を殺そうとしていた男、ドルジは――今は動かない。
何を考えているかなんて、今はどうでもよかった。
「デルさん……私は、大丈夫です……」
脇腹を押さえ、立てないミーナさん。
僕は、ミーナさんを肩に担いだ。
――痛い。
骨が折れている。
担いだ瞬間、ミーナさんは小さく声を上げた。
こんな……僕のために、ここまで。
一歩ずつでも、進む。
ここから、離れる。
ミーナさんは、こんな状況なのに、笑っていた。
「成長しましたね……最初は、どうなるかと思いました」
……認められた気がして、涙がこぼれた。
足手まといだった僕でも、
この人たちの仲間なんだ。
僕は貴族に生まれた。
生まれた時から、魔力は人並み以上だった。
でも、すぐに気づいた。
貴族じゃなくても、才能の次元が違う人間はいる。
英雄のほとんどは、貴族出身じゃない。
――その時点で、気づくべきだったんだ。
特別なのは、身分じゃない。
努力した人間だ。
思えば、僕の周りの貴族は勘違いしていた。
……僕も、していた。
ミーナさんに怒られて、ズボンも濡らした。
……はは。今なら、笑える。
そんなことを考えながら――どれくらい進んだだろう。
歩いている間、ミーナさんは、もう一言も話さなかった。
顔は青白く、汗が止まらない。
限界が近いのは、すぐ分かった。
僕は心配で、ミーナさんの顔をずっと見ていた。
その時――
「……っ!」
ミーナさんが、僕を突き飛ばした。
雷撃。
視界が白に染まる。
爆音。焼けた匂い。
そして――ミーナさんの背中から腹を貫く、一本の光。
「ミーナさん……!」
ミーナさんは、そのまま意識を失った。
僕の頭が、真っ白になる。
振り返る。
暗い緑の長髪。
全ての指に指輪。
――ドルジ。
また僕の体が震え出した。
「死ねと言えば、死ねばいい」
「愚図は、必要ない」
嫌な想像が頭をよぎる。
ミーナさんは、生きているのか。
――いや、考えるな。今は。
ドルジが、ゆっくり近づいてくる。
「潔く死ね。暴れるな」
「予定が狂うのが、一番嫌いだ」
何も言い返せない。
……ここで、終わりか。
両親が死んで。
最近、家督を継いだ。
だから僕は生きなければいけない。
でも、そんなことはどうでもよかった。
僕が、今やるべきことは一つ。
――仲間を、死なせない。
僕は英雄殿や天才殿、ミーナさんより弱い。
守られる側だ。
でも。
僕は貴族だ。
生まれた時から、力を持っていた。
何のために?
――守りたいものを、守るためだ。
その瞬間、足に力が戻った。
……怖い。
でも、やる。
やらないと、僕がミーナさんを守るんだ
僕はミーナさんをちらっと見た後
右手に、剣を創造し、。
同時に、震える腕に“魔力を纏い”押し込む。
「うわああああ!」
声が漏れた。
自分を奮い立たせるために。
でも、現実は甘くない。
痛い。
ドルジの蹴りが腹に突き刺さり、血を吐く。
骨も、何本かいっただろうか。
それでも、倒れてはいけない。
僕は、ドルジの腰に必死にしがみついた。
……格好悪い。
分かってる。
それでも、やる。
仲間と認めて貰うために
「無能は、引っ込んでいろ」
地面が隆起した。
反動で、身体が宙に浮かされる。
雷をまとった手が、こちらに伸びる。
「死ね」
――ああ。やっぱり、僕は。
その瞬間。
「雷轟」
上から、大きな声と、巨大な雷が落ちた。
ドルジに直撃し、爆音と煙が広がる。
「主人公参上!」
聞き慣れた声。
赤いツンツン髪。
「……天才殿」
天才殿は。
宙にいた僕を抱え、軽やかに着地する。
「状況わかんねーけど」
天才殿は、いつもの調子で笑った。
「ここからは、この天才に任せろ」
……うん。頼むよ。
情けない。涙しか流せない
でも今の僕の、唯一の長所は――
仲間が、みんな強いことだ。
「……生きて帰ったら、また特訓するよ」
「次は一緒に戦えるように」
僕は、天才殿の背中で、そう誓った。
天才殿はいつもの、太陽みたいな笑顔で
こっちを振り向いた




