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英雄の伝説?


でかい……。

俺は、貴族の屋敷の前に立っていた。

ノエルから魔道具を“ただ”でもらう条件として、

この屋敷の主――貴族の護衛を頼まれたのだ。

この研究所のある街の領主らしい。

最近、当主が亡くなり、後を若い息子が継いだとか。

……まあ、その息子が相当わがままだという噂だが。

リオンとミーナと並び、屋敷を見上げる。

「デール家……」

ミーナが小さく呟いた。

「デール家って、偉いの?」

リオンが興味なさそうに聞くと、ミーナは即答する。

「そうですね……貴族の中では子爵ですから、そこまでではありません」

「ふーん。じゃあムカついたら殴っていい?」

「それはちょっと困りますね。

 バスタル様に迷惑がかかりますから」

「ふーん、そっか」

あっさり引き下がるリオン。

判断基準が雑すぎる。

それにしても――

貴族の屋敷は、でかい。

俺の屋敷も十分大きいと思っていたが、

これは完全にその上を行っている。

「バスタル様。

 もし相手が失礼な態度を取った場合、私に言ってください。対処しますので」

ミーナは自信ありげに言った。

……対処って何だ。

暗殺とか?

貴族相手に喧嘩はやめてほしい。

「穏便にな、ミーナ」

「はい。バスタル様はお優しいですね」

そう言いながら、

ミーナは屋敷を睨むように見ていた。

……緊張してる?

いや、違うな。完全に警戒している。

そんな中、リオンの様子がおかしいことに気づいた。

「……リオン。なんで雷?」

「え?」

いつの間にか、リオンは雷を身体に纏っていた。

「まずは立場を分からせないと」

まずはお前が立場を学んでくれ

俺は心のなかでツッコんだ

「ミーナ抑えろ」

「はい。リオンさん、ダメですよ」

「えー、でも目立たないと」

「目立つな。TPOを知れ」

「TPOって何? 魔法?」

「私も初めて聞きました……

 さすがです、バスタル様。私たちの知らない言葉を……」

違う。

普通に俺の世界の常識だ。

ミーナがリオンの両腕を掴む。

俺は見ているだけ。

危ないし、俺は弱いから。

「離せよ……離せよ……」

笑顔だ。

完全に構ってほしいだけだな、こいつ。

その時――

屋敷の巨大な玄関扉が、ゆっくりと開いた。

「君たちは誰だい。うるさいね?」

現れたのは、立派な口ひげ……

いや、つけ髭だろうか。

身長150センチほどの金髪の小太り――

いや、子供だ。

小さな体で、必死に胸を張っている。

「所長殿から聞いたよ。

 君たちが、僕の世話をする者たちかな?」

「お前がデル・デールか?」

俺が確認すると、少年は鼻で笑った。

「ん? 口のきき方がなってないぞ。

 英雄バスタル・ヘパリクスくん」

「ヘタリクスです」

即座にミーナが訂正する。

「……僕に言っているのかな? そこの……えっと……」

「ミーナです」

なぜかデルは、ミーナの視線に耐えきれず、

明らかに萎縮して黙り込んだ。

その瞬間――

バリバリッ!

雷光が天に向かって走る。

「ひゃっほー!」

……やったな、リオン。

「俺の名前はリオン! よろしく!」

派手すぎる自己紹介だ。

これは失礼なのか?分からないが

このあと俺たちが普通に名乗っても、完全に霞む。

「……デル。中に入れろ。自己紹介をする」

「うむ。よいだろう。

 口のきき方も、あとで教えてやる」

この少年を見ていると、

前世で“社長の息子の世話”をさせられた記憶が蘇る。

あれは地獄だった。

奴隷みたいに扱われて、

殴ってやろうと思ったが、そんな勇気はなかった。

……今回は、どうなるんだろうな。

こうして俺たちは屋敷へ入る。

ノエルの魔道具と引き換えに請け負った仕事――

それは、この偉そうな子供貴族、

デール家当主デル・デールの護衛だった。

……どうか。

できるだけ、楽な仕事で終わりますように。

そう祈りながら

俺はデール家の屋敷に入っていた

暖炉のある部屋――高級そうな家具が並ぶ応接間のソファに座っていた。

……ソファも高そうだな。

汚したら、どう誤魔化そう。

まずそこから考えてしまうあたり、俺は英雄に向いていない。

デルが、じっと俺の顔を見ている。

「……なんだ?」

「英雄、バスタル・ヘパリス……」

デルはミーナをちらりと見てから、咳払いをした。

「ヘタリクス殿。僕に、武勇伝を聞かせてくれないかい」

――詰んだ。

俺は内心で叫ぶ。

武勇伝なんて、知らない。

むしろ俺が聞きたいくらいだ。

沈黙する俺をみて、ミーナがデルにぴしっと言う。

「いきなり武勇伝を求めるのは、失礼ではありませんか」

「……は、はい……」

デルは即座に萎縮した。

ミーナは俺とリオンには甘いのに、なぜかデルにはやけに厳しい。

しかもデルも、ミーナの視線にだけ露骨に弱い。

――なるほど。

女慣れしてないな。

「武勇伝ぐらい、構わん」

俺はそう言った。

正直、俺も聞いてみたい。

「流石です、バスタル様」

ミーナもデルも、俺を見る。

……あ。

俺が話す流れか。

無理だ。

俺が知っている武勇伝なんて、転生前に小学生の頃、足が速かった話くらいだ。

ミーナ、察してくれ。頼む。

武勇伝ってのは、自分で語るもんじゃない。

沈黙を破ったのは、空気を読まない少年だった。

「師匠の武勇伝っつったら、あれだろ。サタリスとの戦い」

「確かに……そうですね。

あの戦争で七英雄が生まれ、バスタル様は“英雄の中の英雄”と呼ばれるようになりましたから」

……俺の話なのに、俺が一番わからない。

サタリス?

どっかで聞いたような気はする。

戦争っていうと、たぶんあのPVで見たやつだ。

デルが身を乗り出した。

「その戦争について、僕も聞きたいんだけどいいかい?」

やめてくれ。

そう言いたかったが、盛り上がってる空気を壊す勇気はなかった。

「七怪が全員いたって本当かい?」

七怪。

七英雄の敵組織か何かか?

バスタルなら知ってて当然っぽい単語が、次々と出てくる。

逃げられない。

俺は冷や汗をかきながら、適当に答えた。

「……あの魔剣士は、なかなかだった」

七怪はたぶん七人いる。

その中に一人くらい、魔剣士はいるだろ。

……いるよな?

周囲の反応を伺う。

「バスタル様……それは、イクスの話ですか」

ミーナの声が、急に静かになった。

さっきまでの輝いた目が消え、伏し目がちになる。

……やばい。地雷を踏んだらしい。

空気が重くなり、沈黙が落ちる。

気まずい――

「なあデル。この屋敷、召使いとかいねぇの?」

リオンが、空気をぶった切った。

テーブルの菓子を勝手に食べながら。

「ん? ああ。僕は人を信用してないんでね。

英雄なら護衛につけてもいいと思って……所長に頼んだだけさ」

デルは少し自慢げだ。

「所長って……じいちゃん?」

「君は……所長の孫なのかい?」

「そうだよ」

「英雄の孫か。いいねぇ」

「だろ。あとでサインしてやるよ」

……サイン?

「英雄、バスタル・ヘタリクス殿のサインも欲しいな」

サインか。

俺が書いたら「凡人・茂木の英雄サイン」になるけど……まあいい。

「やってもいい。名はバスタルと呼べ」

「おお。なら……英維殿と呼ぼう」

……まあ、それでいいや。

「じゃあ君は、手下殿でいいかい?」

デルがリオンに尋ねる。

「やだよ。天才殿にしてくれ」

リオンは机に堂々と“サイン”を書きながら答えた。

……色紙じゃなくて机かよ。しかも落書きにしか見えない。

デルが、今度はミーナに向き直る。

「では……あなたはどう呼べばいいですか?」

「ミーナで構いません」

「では、ミーナ様で」

「ミーナで構いません」

ミーナは微笑みながら、同じ言葉を繰り返した。

――圧がすごい。

デルの額から、異常な量の汗が流れている。

「……では、ミーナさんで」

「はい。それでお願いします」

妙な自己紹介(と序列確認)を終え、俺たちは部屋へ案内された。

護衛として、ここに住むらしい。

俺とリオンは使用人部屋を二人で使うことになった。

ミーナには、一番豪華な部屋が用意されていた。

「部屋、替わりますか?」

ミーナに言われたが、断った。

デルなりの配慮だろう。

ただ、一つだけ引っかかる。

領主の護衛なら、兵士でいいはずだ。

それなのに、なぜ英雄を?

……まあ、追々聞けばいい。

逃げられるようにだけはしておこう。

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