最強英雄?
俺は、できるだけ低い声を意識して、
かっこよさそうな単語を口にした。
「ノエル……七英雄について、語ろうか」
ほお、とノエルが小さく声を漏らす。
「お前さんから、その言葉が出るとはのぉ……」
そう言ってから、ノエルは黙り込み、じっと俺を見た。
……なんで見る。
横を見ると、ミーナが目を輝かせて、俺を見ている。
いや、だからなんで見るんだ。
(しまった)
「語ろうか」なんて言ったせいで、
俺が語る側みたいな空気になっている。
無理だ。
俺、七英雄について何も知らない。
知っていることといえば――
「名前がかっこいい」それだけだ。
とりあえず、誤魔化す。
「……ノエル。七英雄について、どう思う」
「ほお? “どう思う”とは、何を聞きたいんじゃ」
何を聞きたいんだろう。
……やっぱり、これだな。
「誰が一番強い?」
ノエルは、にやりと笑った。
「ほほほ……面白いのぉ、その質問は」
そして、わかっておるぞ、という顔で言う。
「バスタルよ。
お前が最強じゃ」
あ、そうなんだ。
……いや、逆に困るんだけど。
最弱でよかった。
俺、何もできないから。
横を見ると、ミーナの目がさらに輝いている。
手を組み、今にも拝まれそうな勢いだ。
(やめてくれ)
とりあえず、話題をずらす。
他の七英雄は、どんなやつらなんだろう。
俺の脳裏に、転生前に見た“あのPV”がよぎる。
……いや、あれは違う。
ノエルがいない。
あれも七人だったが、別物なのか。
(じゃあ、あの七人、何者なんだ……)
わからないことが多すぎる。
まあいい。
まずは情報だ。
どう聞き出すか――。
「ミーナ。七英雄の中で、誰が一番好きだ」
「えっ?」
ミーナは一瞬で顔を赤くした。
「も、もちろん……バスタル様です」
……それはそうだと思った。
嬉しいけど、今それじゃない。
「ミーナ。二番だ」
「え……?」
「俺が死んだあと、
お前を任せられる人間はいるかしりたい」
ミーナは両手を胸の前で組み、完全に感激していた。
(違う意味で刺さってる)
「ほお……若いもんの意見は、わしも聞きたいの」
ノエルが柔らかく言う。
「ミーナさん。気を使わず、教えてくれ」
ミーナは少し悩み、やがて答えた。
「アビル・エレノーラさんですかね。
今では若くして国の騎士団長ですし、
魔剣士で……それに……」
そこで、ミーナの表情が急に曇った。
理由はわからない。
だが、これ以上踏み込まない方がいいと直感した。
(……なんか過去にあったのかな)
整理すると――
バスタル:伝説級魔道士
ノエル:研究所所長
アビル:騎士団長
名前と役職は分かった。
……伝説級魔道士って、職業なのか?
まだ聞いていない七英雄は、あと四人いる。
ノエルに続きを聞こうとした、そのとき――。
「……う、ん……」
部屋の隅、簡易ベッドで寝ていた赤髪が動いた。
リオンだ。
そういえば、こいつ――
なんでノエルと戦ったんだ?
いいじいさんだし、研究者だし、七英雄だぞ。
何がそんなに気に食わないんだ。
リオンは目をこすり、子供みたいに起き上がる。
そして周囲を見渡し――ノエルを指さした。
「じいちゃん! 勝負だぁ!」
「……やれやれ、じゃの」
ノエルは頭痛でもするように、こめかみに手を当てた。
このままじゃ、また始まる。
俺は一歩前に出た。
「リオン。座れ」
「……はい」
ほんの少し、バスタルパワーを使う。
魔力じゃない。
ただの“大人の威圧感”だ。
前の世界で覚えた、無言の圧。
リオンは目に見えて焦り、汗をかき、
すぐに椅子へ座った。
……よし。
七英雄の話は、最後まで聞けなかった。
だが今は、それどころじゃない。
先に解決すべきは――
この問題児だ。




