家族ごっこ
「成る程ね…でも」
「何だかスッキリしない終わり」
「そうね。結局何だか有耶無耶にされちゃった感じね、相手の都合良く祀られて。」
「そうだね」
「そもそも直重の飼い猫より前から続いてるわね」
「そうなんだ」
「もっとずっと前から…こまは何度も繰り返して結局報われない終わりを迎えてる」
「こまはどうしたいんだろう」
「繰り返してる事に理由があるのよ」
「うーん」
「何故、私と芳一郎さんを出会わせて佳奈が生まれたか」
「難しいなあ」
「難しくは無いのよ。でも、やっぱりこのまま放って置くとこまは繰り返す度にどんどん力が身について猫又…猫魈になっちゃうわね」
「何か良く分からないけどピカチューがライチューになってメガライチューになる感じ?」
「まあそんな感じね多分。それじゃあ、ネコ人形がその後どうなったか教えてくれる?」
「うん」
○○○○○○○○○○
「あら、可愛いネコちゃん」
「こっちの方がかわいいもん!」
「あらあら、佳奈はミニイちゃんが好きなのねえ」
佳奈の家族は観光で秀林寺の猫塚へ訪れていた。
私より可愛い?そのネズミが?
小娘、許すまじ…
私は復讐を果たせないままこのネコ人形に乗り移っていた。
嫉妬か猫の性か野生の狩の本能か、ネズミを…佳奈を追いかけて行った。
「あらあら佳奈、それ持って来ちゃったの?」
「知らない」
「困ったわねえ。返しに持って行くのも遠いし…お詫びを入れて送り返しましょう」
しかし数日すると佳奈の元へ戻って来た。
私にはやるべき事が、狩るべき相手がいる。
「あらまあ…仕方ない子ねえ。どうやって戻って来たのかしら?そんなに佳奈と一緒に居たいのかな」
呑気な親で良かった。
変にお祓いとかされると面倒だ。
あれ、結構精神的にキツい。
まあ、そんな程度でやられるヤワな私では無いが。
とりあえずあのネズミより私の方が可愛いと小娘に知らしめる事が重要だ。
「ミキマウス、ミキマウス、ミキミキマウス〜」
よりによってネズミの歌を歌っている…
歌うならネコの歌だろうが。
ねこふんじゃった…
しかしあの歌、ネコを踏み倒して挙句にお空に飛ばす殺戮ソングだしなあ…
山寺の和尚さんが…
アレはダメだ。トラウマソングだ
ネコの歌にまともなモノはないのか…
ならせめてこの年頃がまっしぐらになる、まるで猫がまたたびに夢中になるような中毒性のあるアンパン男の歌でも歌ってろ。
「ほら、佳奈、ネコちゃんのお家よ」
お母さんが私に「青い屋根の大きなお家」を与えてくれた。
わあ!ふかふかのベッドにソファー、素敵なドレッサーにピアノ、ランプも電気が点く…
それに…
ダイニングテーブルのセット…
私には家族は居ない
この椅子に座るのは私独りぼっち…
この広いお家にも私ひとり…
ふん!
おひとり様を満喫してやるんだから。
佳奈は分かるのか分からないのか、私の事を『こま』と名付けていた。
「こま、ちっちしてー」
トイレに座らせている。
人形だから食べも出ても来ないのだが。
まあお家効果か佳奈は私にも多少構っていた。
相変わらずネズミには敵わないが…
「ほーら、こま、お友達が遊びに来たよー」
誰も座らないと思っていたダイニングテーブルのセットの椅子に私がお誕生日席、他の席にミキ・ミニのネズミ、チプ・デルのリスと白いアヒルの私サイズの人形が座っていた。
狩猟相手と会食とは…
世が世なら血みどろのバイオレンス劇場だ
「お誕生日おめでとう〜」
私の誕生日は知らないが何故かお祝いされていた。
テーブルにはプラスチックのケーキやご馳走が並んでいた。
なんだこの茶番は…
馬鹿らしい
馬鹿らしいけど
分からない、私の知らない初めての
何だか分からない気持ちになっていた。




