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芳一郎奇談-人形棲家  作者: 水嶋


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猫まっしぐら

「見間違いだったのだろうか…」



その後こっそり後をつけたが、明るい所に出てきた豊香の影は普通の人間の形だった。


豊香は光重さんの部屋に入って行った。





「今日は寝室で休む」



光重さんは日に日に顔色が悪くなって行き、遂に寝室から出られない程になっていた。


豊香は甲斐甲斐しく看病をしていた。


光重さんの容体が悪くなる一方で豊香は顔や仕草は心配する様な素振りはしていたが…

まるで生気を吸い取っているかの様に怪しく美しさが増して行った様に見えた。



「豊香さんに早く姐さんになって欲しいです」


「あらまあ、まだ奥方がいらっしゃいますよ」


「あの人よりよっぽど豊香さんの方が…」



周りの連中もすっかり豊香に懐いていた。

あの時の事を口にしたら俺が豊香を狙って光重さんから引き剥がそうとしていると誤解されそうだった。


自分だけが豊香の事を何となく胡散臭く思っていたので、誰にも言えず一人で監視していた。



ある夜、庭の池で物音がしたのでこっそり覗きに行った。



バシャバシャ



豊香がスカートを膝上まで捲り上げて池に入っていた。


こんな夜更けに何してるんだろう…


鯉が驚いて飛び跳ねたり暴れたりしていた。


その中の一匹をサッと片手で掴んで捕まえた。


まるで人間業とは思えなかった。


強いて言えば…




豊香は捕まえた鯉を躊躇なく鯉の腹に噛み付いてまるで獣の様に貪っていた。


口から血が滴り落ちていて、目が金色に光っていた。



粗方食べ終わると手の甲で口元を拭いペロッと舌をだして口の周りを舐めていた。


「ああ、やっぱり鯉の生き血は効くわ…」



確かに昔は病人などに薬代わりに与えていたと何かで読んだか聞いたかした事はあるが…



「さて、そろそろ始めましょうか。散々焦らしてお待たせしたからね…」



そう言って池からザバザバ出て屋敷に入って行った。


これは…


今から何かする気だろう



そう思い、慌てて後を追った。





豊香は光重さんの寝室に入って行った。





○○○○○○○○○○





「豊…香…」


「光重さん、随分優れないご様子ですね…」


「気にかけてくれるのは豊香だけ…豊香が居れば…僕は…」


「ええ、直重さんには大変お世話になったので」


「親父?」


「随分可愛がって頂きましたよ?」


「おかしいな…豊香と出会った頃には親父は死んでいたと思うが…」


「あと、私を可愛がってくれていた家族を光重さんは壊しちゃいましたね…」


「豊香の家族?まだ健在だろう?」


「お母さんの思いも力を増してくれてますよ」


「何を言ってるのか分からないな。豊香までおかしくなっちゃったの?」


「ふふふ。おかしいのはあなたとあなたのお父さんよ」




そう言って覆いかぶさってきた豊香の目は金色で、にやっと笑った口から牙がのぞいていた。


人間とは思えない姿と力で首を締め上げて来たその時



バンッ



と扉が開いて



「何してる!?」



小森が入って来た。



「フギャー」


と、豊香が獣の様な声を上げた。


小森は部屋に飾っていた日本刀を手に取り鞘を抜くと



ザシュッ




と、豊香に斬りつけた。



「ギニャー」



と断末魔が聞こえて、その後豊香は跡形も無く消えていた。





○○○○○○○○○○





「なんか面倒くさいなあ…」


「あんな事があったんだから…一応お祓いしておきましょう」


「千葉滋賀佐賀!遠いよ佐賀県!」


「ふざけてないで…行きますよ」


「ハイハイ」



お祓いを済ませて化け猫の供養で有名な秀林寺の猫塚へお参りに来ていた。


「それ…なんです…」


「供物」


「怒られますよ…」


「可愛いから喜ばれるよ」




光重さんはシルベニアファミリーの可愛いネコの人形をお供えしていた。


祟られないか心配になったが、この人に何を言っても無駄だろう。


あの後、光重さんはみるみる回復して何事も無かった様に過ごしている。


こう言う図太さが無いとこの世界ではやって行けないのだろう。


俺もあの功績の恩恵で今は側近として扱われているのでご多聞に漏れず図太く生きている。



「妖怪よりも生きてるこの世の人間の方がよっぽど怖いね。あー、早く離婚してくれないかなあ…豊香に会いたい…」



「豊香さんはもう居ませんよ」



この人はちっとも懲りてない。





この世は恨みだけでは解決しないのだ。


勧善懲悪、クソくらえだ



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