懐かれてますね
この佳奈って…あの?
「あらまあ、また帰ってきましたか」
目咲さんとの出会いのきっかけとなったシルベニアファミリーの人形、白いネコの人形だった。
あの時、目咲さんに言われた通り人形供養にお寺に預けたのだが…
「原田さん、可愛らしい趣味ですね」
「!?」
数日後、そのネコ人形が何故か俺の胸ポケットから顔を半分出してちょっと恥ずかしそうにチラリと覗かせていていた。
これはいよいよヤバいぞ…
ある時は出先にわざと置いて来て、ある時は子供のいる人にあげて、ある時は海外へ行った時に置いて来たりした。
それでも暫くすると律儀に俺の元に帰って来た。
これが日本人形や比較的人間の姿に近い目咲さんの梨香ちゃん人形ならあまりの恐怖にお漏らしして精神崩壊でもしていたのかもだが…
ベロア生地のような温かみのある触り心地、ずんぐりとした3頭身で身長6㎝位、つぶらな潤んだ黒い瞳の愛くるしい人形で怖さよりも、どんな所に置いて来ても戻ってくるその姿を健気に思えていた。
「仕方ない奴だなあ…」
と、ナデナデしながらある意味恋のキューピッドのこのネコ人形に半ば諦めとネコっ可愛いがりをしていた。
ネコだけに
「まあ、今の所芳一郎さんの側に居たいだけみたいで悪さをする様子もないんで、大目に見ましょうか。」
「すみません…」
「この様子だとこの先、子供も叱れずに甘やかしそうで心配になるわ…」
「えっ!?」
「お父さんになるんだからちゃんと叱れる様になってね。」
「えっ!えっ!?本当に!?」
「はい。今3ヶ月ですよ。」
「わあ!嬉しい!俺も頑張って良い父親にならなきゃ!」
「期待してますよ。」
「そうかあ!早く会えるの楽しみにしてるねー」
そう言って目咲さんのお腹に抱きついた。
○○○○○○○○○○○
それから待望の娘が誕生した。
「この子の名前は佳奈にします。」
目咲さんが独断で決めた。
まあ、それは別に良かったんだけど…
「普通の名前で意外だったなあ。何か目とか口とか咲とか付けるのかと思ってた。」
「私は人外以外にも少し先を見る力もあるんですよ。」
「へえ!」
「この子は私と同じ力が有ります。」
「ほお。」
「この先、芳一郎さんを守ってくれるでしょう。」
「え?」
目咲さんは…?
とも思ったがひとまず置いて話を聞いた。
「この名前は因果と言うか因縁の様な名前です。あのネコ人形の」
「え!?」
そう、あの幾ら手放そうと旅に出してもハチ公の様に戻って来ていたネコ人形は目咲さんに子供が出来た事が分かるとふらっと何処かへ行ってしまい、戻って来なかった。
俺に子供が出来て居辛くなってしまったのかと少し寂しくも思っていた。
「今は佳奈と言う子の元にいます。その子に大事にされていてその子の生き霊と合わさってる感じです」
「ええ!?」
「その後あっちの佳奈は恨みを残して20歳でこの世を去ります」
「!?」
「元々あの人形に取り憑いていた…人外の力が合わさり2つの念を鎮める為に娘に力を借ります。」
「なんでうちの娘にそんな事を!?」
「芳一郎さんと私はあの人形に導かれて巡り合い、この子が生まれました。」
「…」
「あの人形に取り憑いている人外が恐らく救いを求めてそうさせています。それが出来るのがこの娘…」
「そんな…」
「人外と佳奈を生まれ変えさせます。娘は佳奈の器となって生きていきます。」
それは俺の娘がやらなければならない事なんだろうか…
余りに理不尽に思えた。
「これは私が見た先の世界の1番ベストな方法です。放って置くとまた人外は別の人間に取り憑いて悪さを始めるでしょう。」
「…」
「娘も悪い事ばかりじゃないのよ。人外と佳奈の加護が受けられる。器になったからと言っても人格は乗っ取られない。元々佳奈はそう言う気質じゃない。ただ、魂を同居させる感じね。」
「そうなんだ…」
その不思議な話を聞いてなんともやるせない気持ちになったが、目咲さんの有無を言わせない力で従う事にした。
あっちの佳奈については「7つ星」を参照下さい。




