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2若き盗賊団長の末路

盗賊から足を洗って一年。ようやくこの日が来た。

皮の上着に白いシャツ、黒目に黒い三つ網の青年、コアンはぴかぴかに磨き上げた看板を、店の戸口にかけた。

「レパードなんでも相談所」

とある。早い話が興信所である。

彼は、幻と呼ばれた盗賊団、レパードの若き団長だった。

盗賊団レパード。

はじめは、どこにでもあった小規模な盗賊団で、主に追いはぎや馬車襲撃など、「みみっちい」仕事をしていた。しかし、父親の死を機に、団長の名前を告いだコアンは、若干十六歳にしてレパードを変えた。

相次ぐ美術館や宝石店への強盗。

しかも利益の半分は貧民に分け与えると言う半ば義賊。

庶民のアイドル的な存在となった盗賊団。

当時突破不可能と言われていた警備システムを次々と破った天才。

長い黒髪をたらした盗賊。

それがコアンであり、コアンの盗賊団であり、コアンの仕事だった。

だが、二年も続けると、さすがに飽きた。

それに、掛け替えのないものを失うことの悲しさを学ぶ機会があった。

そのコアンのとった行動はただひとつ。

「よし、みんなで新しいまともな職に就くか。解散!」

なんと三日にして全団員を更生させたばかりか、それまでの利益半分をすべてもとの持ち主に返してしまったのだ。

こうして、盗賊団レパードはあっと言う間に裏社会から、そして表社会からも姿を消したのだ。

その後一年間、コアンはバイトバイトの毎日を送った。

団員たちには全員分職場を与えたのだが、肝心の自分を忘れていたのだ。

そして。コアンは節約でためたお金で家を買い、(路地裏だったけど)とうとうレパードなんでも相談所を開業した。

盗賊時代のいろいろな経験を何とかして、人のために生かせぬかと考えた上での結論だった。で。

それから三日がたった。

一日目はにこにこと、二日目には退屈そうにカウンターに座っていた彼は、いい加減ぶち切れた。

「だあああっ!何でお客がこねえんだ!!」

頭をかきむしり、のた打ち回る。

その時、からからとベルが鳴ってドアが開き、入ってきた依頼人の夫婦と、ぼさぼさになった三つ編みのコアンの眼が合った。

「……」

「……」

無言で眼を逸らし、そそくさと店を出て行こうとする夫婦の、夫の方のズボンの裾にコアンはしがみついた。


    数刻後


「なるほどねえ。政府の下っ端さんが自ら誘拐に監禁ねえ。面白えじゃん。」

三十分後、どうにか体裁を繕ったコアンは夫婦の話を聞いて顎に手を当てた。

夫婦と向かい合ったソファー。真ん中にあるテーブルの上の紅茶は、冷めかけていた。

「ええ。あの子がかわいそうで、私……。」

「それだけではありません。最近出回り始めた芸術作品の中に、どう見ても息子がモデルだとしか思えないものがちらほらしているのです。」

母親と父親の交互な発言に、にやりとコアンは口の端をゆがめて笑った。

「しかもその芸術作品がやたらと高価なんだろ。発売元も政府だったりして。」

「そうです、その通りなのです……。」

母親の目には涙がたまっている。

「ほーほーほー。つまり政府の下っ端さんは、正当防衛なのに罪人扱いされて転がり込んできた息子さんを、通常の裁きにかけずに監禁したわけだな。しかも芸術作品のモデルにしてそれを売りさばき、親玉の懐を潤していると。」

「私は……私は許せません!蛇人族の村も、政府も。あの子の血にどのような因果があろうと、それを異端者として扱ったり、殺して遊んだり……。しかもその上、芸術作品を通して晒し者にするなんて!!」

ドン!父親がテーブルを叩いた。紅茶が揺れて、一滴がテーブルにこぼれた。

「しかも……。作品の中の息子は笑っていないのです。だからと言って悲しんでいる顔でもない……。作品の題名はなんだかわかりますか?!どれもこれも、すべて、『無の天使』なのです!!あの子の顔には表情というものが一切なかったのです!!どれだけ傷つけられれば、あのような顔になるのか……。」

母親も、くしゃくしゃの顔で叫んだ。

コアンは思考に入る。

(『無の天使』ねえ。確か見た事があるな……。絵画だったか……。

ああ、オークションか。そういや結構な値で取引されていたな……。

なかなか佳い作品(ルビ:いいもの)ばかりだった……。

だが、モデルのあの表情はいただけねえと前から思ってたんだ。)

「もう一度聞くが、そいつは正当防衛なのに捕まったんだな?」

「はい……。」

「よし! 俺に任せろ!! そういう奴は放っちゃ置けねえ。そいつを一丁その都から救い出して、うんにゃ、盗み出してやろうじゃねえか!!!」

「出来るんですか?」

「当たり前だろ? 俺は、一年前一世を風靡した盗賊団レパードの、元団長だかんな!」

ドン! キラキラ光る両親の四つの目の前、コアンは自分の胸を叩いたが、勢いあまって、むせ返った。



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