表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/51

08 燈球探索2 岬

 探査機の指す場所は、岬だった。


 海の見える眺めのいい場所。



 その岬に着くと、昨日同様、多くの炎狩人がいた。


「ここら辺を探そう」


 端夜の指示の下、周辺を探す。


 と言っても、燈の玉はそう簡単に見つからず、代わりに、イブリやセンブリといった花を咲かせる草花を見つめていた。


「これは、ダンギクだ。花自体は小さいが、囁かで綺麗な花だ」


 私が見つめている、青紫色をした花を指さして、端夜が説明する。


「そうなんですね」


 ぶっきらぼうに相槌を打つ。


「ああ」


 頷いて、端夜は燈の玉探しを再開した。


 しゃがんで、どんどん岬の内側の方に進んでいく。



「助け、て」


 岬の向こうから、男性の叫び声が聞こえる。


 岬に振り返ると、岬のむこうに手だけが飛び出してくる。


 ひっ。


「お願いだ、助けてくれ」


 岬の向こう側を覗くと、男性の炎狩人が岬から落ちる寸前になっていた。


 手で岬の先端を掴み、踏ん張っている。


 このままだと、あと数秒で、落ちる。



 ぐっ。


 岬の先端で食いしばっている手を取って、私も力いっぱい引っ張る。


 でも、全然、引きあがらない。


 そりゃそうだ。


 相手は成人男性。


 中学生で女の私の力で、引きあがるわけがない。


 どんどんどんどん、私も下に引っ張られていく。


 ついには、私も岬の先端を掴む状態になる。


 綺麗、か。


 落ちたら死ぬかもしれない。


 そんな危機的状況なのに、そこから広がる景色を見て、そう思った。


 本当にヤバいって言う時って、意外と冷静になってしまうものなのかもしれない。


 なんてことを感じる。



 あー。これ、落ちるな。


 どうせ、一度飛び降りて死んでるわけだし、生きたところで、価値なんか。



 トン。


「おい。掴め」


 端夜が私の手を掴んで、手を引っ張る。


 凄い。


 どんどん私は上に上がっていき、足が地面に着いた。


 そんなに筋肉質だとは思わなかった。


 だが、近くで見ると、確かに引き締まっている。


 私の足が岬の上に着く。


 端夜の顔を見て、感じる。


 私、死ななかったんだな、って。


 死ねなかった。


 前に落ちた時はそう思ったはずなのに、今回はなぜかそのことに安心していた。



「迅斗。来てくれ」


 端夜の声に気付いて、迅斗も助太刀する。


 二人で「せーの」と、声を合わせて、力を出し合う。



「ありがとうございます」


 深々と頭を下げている。


「いえ」


 去っていくその人に、会釈して見送った。



「燈の玉は見つかったようだ」


「えー。今日もか」


 いじけたようなむすっとした顔を迅斗がしている。


「いいことだろ」



 この世界が美しい、か。


 認めるのは癪。


 だけれど、確かに、美しいのかもしれない。


 私が言った、我欲だけの世界なら、私もあの人を助けなかったはず。


 そして、宿の人もおまけをしなかったはず。


 人を助けるってことすら、自分を善人にするための欲と捉えることもできるけど。


 もし、そうだったとしても、世界は美しいのかもしれない。


 どんな形でさえ、人を助けたいって言う衝動を持っているのだから。



「どうぞ。ごゆっくりおくつろぎくださいませ」


 迅斗の予約した旅館に入ると、旅館の人が温かく迎えてくれた。



 お刺身に、お肉、茶わん蒸しに、デザートに栗きんとんにわらび餅。


 お腹が膨れて、弾けてしまいそう。


 量はとても多かったが、それはもう美味しかった。



 重くなった腹を抱えながら、私はベランダに立った。


 空に浮かぶ輝く星たち。


 死んだら、星になる。


 そんな風に小さい頃はよく言っていたけれど、星になったって、いいと思ってしまうくらいに、美しい。



 美しい。


 そう考えると、少しいい響き。


 この世界が美しいのか。


 それはまだよくわからないけれど、この星空は美しいなと思う。


 綺麗にきらきら光れて、光に強さの違いはあっても、どれだって美しい。


 そう思いながら、星を眺めていると、端夜もベランダに出てきた。



「あ、助けてくれてありがとうございました」


 沈黙が重たくて、頭を下げた。


「いや。気づいてくれて、助かった」


「あのまま気づかなければ、落ちていたかもしれないからな」



「この世界が美しいってのはどうだが、分からないけど、この星空は綺麗だなとは思います」


 何気ないように、小さく呟く。


 端夜は、口を開けて、驚いた顔をした。


「ただ、なんとなくきれいだなって思っただけです」


「そうか」


 目を細めて星空を眺める。


 神社で願いごとを唱える時のように、端夜は目を閉じて、聞こえないほどの小さな声で、何か呟いた。



「おい。何してるんだよ。仲間外れはひどいぞ」


 そう言って、迅斗もベランダの方に出てきた。



「何、話してたん?」


「星が綺麗だなって言う話だ」


「ふーん。星が綺麗、か。端夜って綺麗とか美しいって言葉好きだよな」


「そうだな」


 そう呟いて、星空を仰ぐ。



 この世界は美しい、か。


 私は暗くなった部屋で布団にもぐりながら、そのことを考える。



 この世界は、残酷な部分もある。



 でも、この世界には人を助けることを進んでやる人もいて。


 それがエゴというのかはわからないけど。


 でも、綺麗な景色や花もあって、けなげで、素朴で不器用に咲く。



 そんな世界も悪くないのかもしれない。


 それはそれで、美しい。



 この世界は美しい、のかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ