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19 燈球探索8 端夜との遭難1

「起きろー」


 迅斗に揺らされて、布団を剥がれる。


 のろのろと机に向かい、朝ご飯を口に運ぶ。


 味がしない。


 食材を口に運ぶことすら、億劫だと感じる。


「大丈夫か」


 心配して、声をかけてくれる端夜の声も、鋭く言って、拒絶してしまう。



 肩を落とし、視線を足元に張り付けて歩く。


 風が頬を撫でても、何の感覚もないように思えた。



 時折、歩みを止める。


 目的のある動作ではなく、自分の意思が動きに左右されるのかどうか確かめるようなもの。


 心が沈むように、足は重たくなる。


 ふと見上げると、濁った空がどこまでも広がっている。


 なにかを考える隙間を与えないように。


 段々と、端夜たちの背中は遠のいていく。



「しっかりしろ。大丈夫か」


 耳にその声がフェードアウトされていく。


 大丈夫、大丈夫だから。


 小さく呟き、不意に足を滑らせた。


 根が地面から不規則に顔を出して、その一本がまるで罠のように足を取る。


 バランスを崩し、視界がゆっくりと傾く。


 次の瞬間、膝が土に打ち付けられて、掌が枯葉の敷かれた地面に沈んだ。



「おい」


 柔らかな声がかすかに息を乱しながら響く。


 視界にスッと、差し出された手が入り込む。


 戸惑い、一瞬の間が開く。


 やがて自分の掌を重ね、力強く引かれ、立ち上がる。



「先行ってるからな」


 迅斗が心配そうな顔をしながらも、置いてかれまいと声を出す。



 足を触ると、膝に擦り傷ができていた。


 血がじわじわと滲み出して、細かな砂粒が傷口にこびりつく。


 指先ではらうと、ひりつくような痛みがさらに増す。


「痛いだろうが、ちょっとだけ耐えてくれ」


 リュックから水筒を取り出して、タオルを湿らせる。


 タオルが傷口に当たった瞬間、肌がピリピリと痛む。


 咄嗟に目を閉じる。


「痛むか」


「大丈夫です」


「痛いなら、痛いって言えばいい。苦しいなら苦しいって言えばいい。言ったところで、変わらないかもしれない。だけど、シェアした方が怖くないだろ」


 感情が怖さが、浮かび上がっていくような感覚。


「少し、痛みます」


 苦しいって、言う選択肢もあった。


 だけど、苦しいって言う言葉が合うのかが分からなかった。



「そうか。もう少し法廷を緩くするか?」


「いや、このくらいがちょうどいいです」


「そうか」



 端夜に補助されながら、立ち上がった時には、他の炎狩人の背中はなかった。


「すみません」


 私が転んだせい。


「何とかなるだろ」


 深呼吸をして空を仰いだ。


 木にぶら下がるイチョウの場と紅葉の暖色系の色が広がっている。


「足、痛いようならもう少し休むが、どうするか?」


「歩きます」


 空白の時間は何かを失っているようで、軽く罪悪感を感じそうだ。


「無理するなよ」



 小さな子供が慎重に行くように、一歩一歩慎重に歩く。



 一時間ほど歩くと、空から小さな雨が降り出した。


 リュックから日本の傘を取り出して、一本を私に手渡す。


 段々と地面に落ちていく雨粒の間隔が短くなっていく。


 風と共に、雨の匂いも強くなってくる。



 土道にできた水たまりの波紋が絶え間なく、広がる。


 冷たい雨が横殴りに打ち付け、傘を強く握りしめた。


 傘の銀色の骨組みが、風によって露わになる。


 防げていたはずの雨水が体に鋭く当たる。


 無様な姿になった傘をそっと奪い取られた。


 その傘を静かに閉じて、肩をそっと引き寄せる。


 傘の下の空間は狭くて、呼吸の音さえもはっきりと聞こえる。


 暖かく、仄かなぬくもり。



 傘に均一の当たる雨音が途絶えた。


 傘の外に手を伸ばすと、手に当たるはずの雫の感触はなく、冷たい空気を感じるだけだった。


 端夜が傘を静かに傾けて、閉じた。


 折り目に沿って綺麗に折りたたみ、リュックの中に入れた。



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