家族団らん
奥には俺の母さん、ステラ・プレミアが料理を作って俺と父さんを待っていた。
「おかえり。テル、あなた。色々大変だったみたいね。とりあえずテルの傷を治しましょうか」
俺の怪我をみた母さんは、そう言いながら俺の元へとやってきて、詠唱を唱え始める。
「癒しの精霊よ。我が声に応え、癒しを施したまえ! ヒール!」
その魔法が発動すると、俺の傷はみるみる癒えていく。癒しの魔法、『ヒール』 これは傷を治す、癒しの魔法の中では初級の魔法だ。ただ初級といえど、ヒールは初級魔法の中だと難しい部類の魔法で、俺もまだ安定して発動することができない。
「良かった。そこまで大きな傷じゃなかったからか、これだけでほとんど治ったみたいね。もう痛くない? 大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
「よし! それじゃあ夕食にしましょうか。もう少しで出来上がるから待っててね」
母さんの言葉に「分かった」と、俺と父さんは揃って応える。
数分ほど待つと、木製のテーブルの上に美味しそうな料理がずらっと並べられた。
お米や魚、野菜など基本的には前世の日本で食べていた料理と大差ない食事だ。
この世界の食文化はあまり前世と変わりなかったのだ。ちなみにこの世界でも前世のように食事の前に言う、感謝の言葉というのが存在したりする。なんか呪文みたいな感じの言葉ではあるが、意味としては
「いただきます」
である。
食事中の家族だんらんというものも、ちゃんとこちらの世界でも前世と同じように存在して、この世界でのウチのそれはいつも母の言葉から始まる。
「そういえばテル、あなたの特権って結局なんだったの?」
そういえば母さんには言ってなかった。そう思って俺は口を開き、母さんに俺の特権を言おうとするが、その言葉は父によって遮られた。
「そうだ! 母さん、テルの特権はすごいぞっ! テルの特権はな、なんと!」
「父さん、自分の特権のことは自分の口から言うよ」
父さんの言葉を俺も遮り返す。
「それじゃあ母さん、俺の特権は『特権を得る権利』だよ」
それを聞いた母さんは、「えぇ!?」と言って驚いく。
「すごい特権じゃない……! 特権を得るって、どうやって得るの?」
「なんか、基準はよくわからないんだけどさ、俺が成長したら特権が新しく手に入るみたい」
「成長かあ。基準は分からないのよね」
「うん。だから今のところやみくもに今までやったことないことに挑戦してるんだ」
「なるほどねえ……。じゃあ"立ち入り禁止"の森に入ったのもそういうこと?」
母さんは立ち入り禁止ということを強調しながら言ってきた。これは……多分怒ってるな。
「まあ……そういうことです……」
「なるほどねぇ……。まあ、成長するためとはいえ立ち入り禁止の場所に入るなんてことは今後はやめなさい。今回はまあ、無事に帰ってきたし……許してあげる」
やれやれといった様子でそんなことを言う母さんに俺は「ありがとうございます」と礼を言う。
「それじゃあちゃちゃっと夕食、味わいながら食べちゃおうか。今日はデザートがあるからな!」
俺と母さんの会話が一区切りしたタイミングで、父がそんなことを言い出す。
「デザート? なんで今日だけ?」
俺がそんな疑問を口にすると、母さんが答える。
「なんでってそりゃあ、今日はあなたの誕生日じゃない。ちゃんとお祝いしてあげないと」
「あぁ、そういえば今日は俺の誕生日だったっけ」
「そういえばって……テル、お前忘れてたのか?」
俺の言葉を聞いた父さんが呆れたように俺に聞く。
「うん。あのモンスターとの戦闘で色々頭から吹っ飛んじゃってたみたい」
「ほんとうに大変だったのね、お疲れ様。それじゃテルもご飯食べ終わったみたいだし、デザートの準備をするわね」
母さんの言葉を受けて俺が自分の皿を見ると、いつのまにやらそれの上のものは綺麗さっぱりとなくなっていて、俺の口にはとても美味しかった料理の味がしっかりと残っていた。
そうして数分待っていると、白いクリームがスポンジを真っ白に染め上げた土台に赤い果実が乗っけられた、前世でも誕生日のおなじみであったデザートである『ホールケーキ』を両手でもった母さんが出てきた。
それをテーブルの上に置いた母さんは前世におけるハッピーバースデー、いわゆる誕生日を祝う言葉というのを告げ始める。
「テル、あなたが生まれてきてくれて良かった。神より与えられしこの特権があなたを守ってくれますように」
母さんがそう告げると、父さんも同じように言葉を告げる。
それが終わると、俺たちはホールケーキを切り分けて一斉に食べ始めるのだった。