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 彼の言葉を聞いた皆からの疑問の声は大幅に減っていく。みんな彼の言葉を信用したのだろう。

 

 いくら特権がわかる権利を持つ可能性がある人とはいえ、こんなに皆を信じさせられるもんなんだな。

 もしかしたら彼は有名な人なのか? いやけど村中の人が知ってるような少年なら俺も知ってるだろうし、それは違うかな。


 そんなふうに考えている俺の肩に、ポンと優しい父の手が置かれる。


 「とりあえず、頑張ったな。テル。よく1人でトロールを倒した。お前は俺と母さんの誇りだよ」


 実の父にこんなことを言われるのはなんだかむず痒いな。


 そんな俺のもとに、白い髭が特徴的な小柄な老人がやってきた。俺の隣にいた父は、一礼した後、彼のことを「村長」と呼んだ。続いて俺も父のように礼をする。


 「いったいどうされましたか? 村長」


 父がそう問うと、村長は俺と父に向かって話し始める。


 「ハハハ、イーサン君。君は私が前言ったことを覚えていないのか?」


 父さんと村長は会話を交わしたことがあるみたいだ。それに、やたら村長が父さんに対して気軽なのはなぜだろうか。


 「ああ。私は村長に敬語を使わなくてもよい、というものですか。あれはその時言いましたよ。私にそのようなことはできません、と」

 

 「そうだったか? では今一度言っておこうか。君は私に敬語を使わなくてもいいんだぞ」


 村長は笑いながらそう言う。よく見たら父さんもわりと軽く接してるな。中がいいみたいだな、あの二人。


 「分かりましたよ、村長。それであなた直々にテルの元まで来て、一体何用ですか?」


 「ふむ、意地でも敬語はやめんのだな。まあいい、それじゃあ本題へいこうか」


 村長は先ほどまでの表情からガラリと変えて神妙な面持ちとなり話し始める。


 「テル、君はこのモンスターを討伐できるほどの実力を持っている。だから私は、君にこの村の守り人となっていただきたいのだ」


 守り人か。お給料はとてもお高い仕事だと聞いたことがある。仕事としては相当良いものだ。けどなあ……村の守り人か……。確かに村を守るのも大事な仕事ではあるが、どうせこんな特権があるんだ。もっと上を目指したい! 国の騎士とか! そんな立場につけたなら特別な人間って感じに扱ってもらえそうだし!


 「テル、これは勧誘だ。守り人はいい仕事だ。どうする?」


 沈黙している俺に父さんがそう問いかけてくる。


 「せっかくのお誘い、とても光栄なのですがお断りしてもよろしいでしょうか」


 俺がそう答えると、村長は驚いた顔をした後俺に言う。


 「そうか、分かった。それじゃあ今から言うことだけ覚えておいてくれ」


 「? 分かりました」


 「君の力があればさまざまな道を歩むことができるだろう。だから後悔しない道を選ぶんだ。人生、後悔しても取り戻せないことが多いんだ。分かったな?」


 取り戻せないことが多い、か。俺も前世であったな。そんなこと。好きな子に告ることができずに会う機会がなくなったりとか。


 「わかりました。しっかり考えて道を選ぼうと思います。ありがとうございました」


 そうして俺が頭を下げると隣の父も同じように頭を下げ、そして俺は村長と別れて帰路につく。

 

 帰宅途中、俺は『道』について考え始めた。

 

 前世、俺の選んだ道は適当なものだった。高校は友達と同じ、自分のレベルよりも下の高校を選んだ。それのせいか、だんだん周りとの関係を深めていくにつれ、勉強が疎かになり成績が落ちて行った。当時はそれでも楽しかったんだが、高校3年の頃。その頃には俺も夢というものができていた。だけど俺にその夢を叶えることはできなかった。実力がなく、俺の前にその夢に繋がる『道』がなかったからだ。

 

 前世でも、思い返せば中学の頃はわりといろんな道を選べる能力があったな……。運動も勉強も割とできてた。だから、ちゃんと本気で取り組んでれば、もしかしたら特別になれてたかもしれないのに。


 ……今世はまちがえたくないな。道選び。


 そんなふうに考えていると、いつの間にか俺の目の前には見慣れた一軒家がたたずんでいた。


 そこに俺は「ただいま」とお決まりの言葉を言いながらドアの奥へと進んでいく。奥からはおいしそうな、食欲を掻き立てる香りがする。

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