幼なじみ
そして俺、テル・プレミアは自身の特権の効力を発揮する方法について考えていた。
「とりあえず、前世ではできたけど今世ではやったことがないことに挑戦してみようか。成長っていえば新しいことをできるようになるとかだしな」
今世でやってなかったこと……そういえばいつも母さんが作ってくれてたから料理はしたことがなかったか。
そうして俺は料理を開始する。
「食材は前世と似たようなものがたくさんあるからな。適当に簡単な料理を作ればいいか」
俺は1つ、卵を取り出す。コンコンッとそれを割って小さな器に中身を出す。フライパンを取り出して、つけた火を一定時間保たせるという魔道具。前世でいったらコンロのようなものの上にそれを置く。フライパンに油を敷き俺は炎を生み出す。
「炎よ。我が呼び掛けに答え、大きく、強く燃えろ! ファイアー!」
『ファイアー』それはこの世界における初級魔法であり、詠唱を唱えれば大抵の人は発動ができる魔法である。が、料理をするには十分な火力は出せる。
魔道具を利用して俺は魔法で出した炎を保たせる。
「あとは卵を入れて焼くだけだ」
俺はフライパンに卵を流し入れる。
そして数分待ち、俺は焼かれて綺麗な白色が円形の黄身を囲うようになった卵を皿に乗せる。
「これで目玉焼きの完成だ!」
直後、俺の前に文字が浮かび上がる。
『 獲得 筋力を4倍まで増幅させられる権利 』
「おお! こういう感じで手に入るのか! 筋力を4倍まで……! 早く試してみたいな! と、それより先に作った目玉焼きを食べて片付けなきゃな」
そうして俺は目玉焼きを食べ終え、調理器具を洗って片付けを終えた俺は、庭に出てきていた。
「よし、試してみるか。とりあえず2倍くらいにしてジャンプしてみようか!」
俺は権利を使用し、足腰に力を込め、そして全力でジャンプをする。すると俺の身体は大きく跳ね上がる。
「うおぉ! ほんとに筋力が上がってるみたいだ!まさかこんなに高く飛べるだなんて!」
「おーい! テル!」
突然、自宅の庭でぴょんぴょんと跳ねている俺に、ウチの塀の外から聞き覚えのある声が呼び掛けてきた。俺は飛び跳ねるのをやめて、彼女の元へと向かう。
「どうした? キュアナ。わざわざウチまで来て」
白い髪をした彼女の名はキュアナ・リヴェレカ。今世の俺の幼なじみである。
「庭でぴょんぴょん跳ねてるのを見てね。そういえばテル、今日特権が与えられるんだ! って思い出して。それで、どうだった? 特権!」
「そういうことか。ならわざわざ来てくれたんだ。俺の特権、教えてあげようじゃないか」
「どんな特権なの? あんな高く跳んでたし、高く跳べるようになる権利とか?」
「残念、ハズレだよ。むしろ1発で当てれる方がすごいからな。あんな特権」
「余計に気になってきちゃった。早く教えて!」
「それじゃあ言うぞ。俺の特権は、ざっくり言ったら無限に特権が手に入る権利だ」
俺の言葉を聞いたキュアナは、まるで冗談を聞いたような顔をする。否、実際冗談だと思ったらしい。
「ふふっ。そんな特権あるわけないじゃん。冗談はやめて」
キュアナは笑いながら俺に言うが、冗談などではないのだ。だから俺が答えることは変わらない。てか俺もあんなの一瞬冗談かなんかだと思ったよ。
「冗談じゃないんだな。これが。俺の特権はホントに無限に特権が手に入る権利だ」
再度俺の言葉を聞いたキュアナは、俺の言葉が冗談ではないことを理解したのか、目を大きく見開き口をあんぐりと開けて、いかにも驚いていますといった表情をする。
「えぇ……。あっていいの……そんなスキル……。ところでさすがに無限に特権を手に入れると言っても何か条件みたいのはあるよね? 試練みたいなことをしないと特権は手に入りませんよーみたいな……」
「お、当たりだ。さすがに好き勝手特権を手に入れられるわけではなく、俺が成長をしたら特権が手に入れるらしいんだ」
「まあ、さすがにそうだよね……。ちなみに何かもう手に入れたの? 特権」
「あぁ。さっき料理をして筋力を4倍まで増幅できるって特権を手に入れたよ」
「なるほど。さっき跳ねてたのはその特権のお試しってことなのね。というか料理をするのが成長なの?」
「そうだな。まあ俺は今まで1度も料理をしたことがなかったから、初めて料理をしたってことで成長したってことになったんだろうな」
「ほー、そうなんだ。それじゃあ初めて何かをすれば成長ってことになるんだね」
「今のところそう考えてるよ。俺も」
「じゃあさ、今から村の外の森に行ってみない? テルも多分あそこには行ったことないでしょ?」
「そりゃあな。だってあそこはこの村じゃあ立ち入り禁止の危険区域ってことで有名だ。この村の住民なら大人だって入ったことのないやつばかりだ」
村から数分歩いたところにある大きな森。あそこは『モンスター』のすみかとなっていることでウチの村では有名になっている。
通常この世界においてそういった場所は、国から騎士が派遣されてモンスターを撃退するらしいが、ウチの村は王都から大きく離れた田舎だ。そこの付近の森にモンスターのすみかになっているとはいえ、今のところココにモンスターが何匹も入ってきたりみたいな実害がでてるわけでもない。
だからあそこには騎士は派遣されず、未だモンスターが居座っていて、立ち入り禁止となっているわけだ。
「行ったことがないならちょうどいいよ。危険区域に初めて入るだなんて成長以外の何モノでもないし」
「……お前も特権を与えられたのって最近だったよな?」
キュアナの誕生日はちょうど俺の1週間前。つまりキュアナはちょうど1週間前に特権を与えられている。
「うん? そうだよ?」
「それで、お前が与えられた特権って確か、手から斬撃を出せる権利みたいのだったよな」
「おー、よく覚えてるねえ」
「そりゃお前の誕生日から3日くらい毎日自慢されてたしな。まあそれはそれとしてお前、たしかずっと、『この特権があればモンスターだって倒せちゃう!』だなんて言ってたじゃんか」
「そ、そうだね……。つまりテルは一体何を言いたいの?」
「つまりだな。お前、俺を言い訳としてモンスターに自分の特権を試したいだけだろ!」
「……ご、ご名答です……。べ、別にいいでしょ! テルも特権を手に入れられる! 私もモンスターが出たら特権を試すことができる! お互いに利点があるよ!」
キュアナは開き直り、そんなことを言ってくる。
「まあ、最悪立ち入り禁止とはいえ、ちょっとだけ入って、特権が手に入ればすぐ出ればいいか」
「よし! じゃあ決まりね。早速行こう!」
キュアナは俺の手をグイッと引っ張る。
こうして俺は危険区域に立ち入ることになるのだった。