バイオレンス
俺が入り口へと戻ると、そこに一人の男がいた。同じ受験生であることは確かで、俺と同じようにここに目星をつけてきたのだろう。
「おい、お前。奥から戻ってきたみたいに見えたが、宝石はあったのか?」
男は俺にそう問いかける。俺はその問いに、何も考えず、とりあえず「イエス」と答える。
「そうか……じゃあやるしかねえな」
男は俺の答えを聞いた瞬間、妙なことを言う。直後、やつは俺に向かって拳を突き出す。
「なっ……!?」
(その距離から!? からぶってるじゃない……)
「ガッ……!?」
到底当たるはずのない位置から突き出されたその拳は空を切った。であるのに俺の腹部に強い衝撃が与えられた。
(これは……アイツの特権か!? 離れた位置に攻撃できる権利とかだろうか……まあいい。こっちも特権で対応すればいいだけだ。一瞬で決着をつけてやる!)
そうして俺は、その男を返り討ちにするために特権を行使する。
『サイコキネシスを扱える権利』
「はっ……?」
瞬間、男の身体は超スピードでほら穴の天井を突き破り上空へと放り投げられる。
「悪いな、生きててくれよ。いや、安心しろ。寸前で生かしてやるよ」
上空から自由落下の状態となった男は今や地面に衝突する寸前である。それを俺はもう一度その特権を使うことで、ふわりと浮かせ、そのまま地面にそっと置く。
「あんな勢いでほら穴の天井にぶつかったんだ。もう動くこともできないだろ? ちなみにお前は宝石を持ってるのか? まあ勝手に見させてもらうか」
「…………」
俺は地面に倒れてピクピクしている男の持ち物を漁り始める。
「おっ! 持ってるじゃないか、お前も。なるほどなあ。探すだけじゃなくて人から奪うってのもアリなんだなあ」
俺はそうしてその男から宝石を奪い取り、その場をさった。
それから俺はひたすらに宝石を探した。なのに……
「見つからねえっ!」
(これもう……探すよりも人から奪った方がはやくないか!? 奪うのは合法なんだし、もう……手当たり次第見つけた人をぶっ飛ばして奪ってやるか!)
俺はそんなバイオレンスな思考に陥り、宝石を持った人を求めて辺りを駆け回るのだった。